フォルクスワーゲンの主力にしてグローバルCセグメントの定番モデルであるゴルフが、モデルサイクルの末期にしてパワートレインにクリーンディーゼルを投入してきた。まさに完熟の域に達しているこの組み合わせの妙を一般公道での試乗から報告しよう。
高速走行で旨味が増す、完熟クリーンディーゼル
新型ゴルフが発表間近に差し掛かったところで、日本では現行ゴルフにディーゼルエンジン搭載車であるTDIが追加となった。現行の7世代目ゴルフは、2012年に欧州で発表され、日本には2013年から導入されたモデル。よって、現段階ではモデル末期であることは周知の事実である。ただし、ゴルフVIIはモデル中期で珍しくマイナーチェンジが行われ、灯火類やメーターを現代的に改めた、通称7.5を投入したことで、新鮮味をキープしていた。今回のTDIも、もちろんそれがベースとなるだけに、単純に古さが目立つようには感じない。完熟のゴルフに自慢のクリーンディーゼルが加わるのであれば十分に魅力的に映る。
今回投入されるTDIユニットは、基本的にティグアンに搭載される2Lディーゼルターボと同様のものだが、出力に関してはやや大人しめで最高出力150ps、最大トルク340Nmとなる。ティグアンではこのTDIに7速DSG+4WDだが、ゴルフの駆動方式はFFとなっている。
ちなみにこのクリーンディーゼル戦略はトゥーランやシャランにも展開されるが、多人数を乗せるミニバンだからということでシャランだけは最大トルク380Nmの高トルクバージョンを搭載するようだ。そちらにも試乗してみたが、たしかに低速からトルクフルに仕上がっており、多人数ピープルムーバーの車重対策はきちんと行なわれていると感じられた。
ならばゴルフTDIはどうか? 今回はガソリン仕様のTSIと比較しながらその仕上がりを見てみた。ゴルフTSIハイラインは最高出力140psと最大トルク250Nmで、車重は1320kgと軽量に仕立てられ、対するTDIは1430kgとやや重量が嵩む。内訳としてはフロントが90kg、リア20kgほどガソリン仕様よりも重たい。そもそものディーゼルユニット自体の重さに加え、排ガス浄化システムが多く盛り込まれていることが要因だろう。
そんなゴルフTDIを走らせてみると、重量増が走りのテイストに大きな影響を与えていることに気づく。そのドッシリした安定感が生み出すグランドツアラー的な仕上がりは、高速走行時に旨味が出てくる一方で、もちろんデメリットも存在する。ワインディングにおけるキビキビとした回頭性はTSIのほうが明らかに優れているし、重量増に対して足回りの変更はせず、タイヤのエアプレッシャーを引き上げることで対応したようで、低中速で走行する際の微振動やハーシュネスはTSIよりもやや劣勢だ。
動力性能は意外にもトルクでグッと前に出るような感覚ではない。ひと昔前のディーゼルターボのような乱暴さはなく、調教されて扱いやすくなったといっていい。あくまでも実用向けにバランス良く仕立てられていて、2000rpmあたりの領域でトルクがシッカリと出ており、蹴り出しはTSIよりも優れていることから、日常走行における俊敏さが引き上げられたといっていい。高速クルージングも、法定速度範囲内なら巡行しやすさが確認できた。
今回は街乗りから高速道路まで短距離ではあったが燃費比較をしてみたが、どの領域でも10%ほどTDIのほうが優れていた。スペック上の燃費はWLTCモードで18.9km/Lで、TSIの18.1km/Lを上回るが、高速巡行が続く環境に持ち込めばさらにその差は広がりそうな気配がある。
この仕上がりならロングドライブを主な使い方とするユーザーにはオススメ。EVからディーゼルまで、ユーザーニーズに合わせてあらゆるパワーユニットを取り揃えたゴルフVIIは、今まさに完熟の域に達している。新型に進む前に乗っておくのは悪くない。