価格的には大きな開きがある両者だけに、直接性能を比較するのはアンフェアというもの。しかし、高性能セダンという括りで観察すれば、そこには絶対的なパフォーマンスだけでは語れない、大げさにいえば作り手の思想を垣間見ることができる。では、日独ブランドにおける高性能セダンの作法とは果たして?
黒子に徹する400Rとオンオフを使い分けるB3
両者の共通項は、3Lのツインターボエンジンを搭載した高性能セダンであること。だが、それぞれのスペックが裏付けるパフォーマンスの表現方法は実に対照的だ。まず、現行3シリーズをベースとする新型B3にはアルピナらしさがしっかり息づいていることに感銘を受ける。先代との違いは、駆動が4WDになること。そしてエンジンのベースがM用ユニットになったことだが、特有の品の良い味付けは相変わらずだ。
ご存じのように、同じBMWの6気筒でもMモデル用は過程より結果を重視するタイプ。それだけに、試乗前は荒ぶる性格への変貌を心配したのだが、日常域の違いといえば排気音の自己主張が多少目立つぐらい。そこに、剣呑なM用ユニットの風情はない。
だが、アクセルを深く踏み込む領域になると先代B3とはまた違った味わいも見出せる。先代比で40Nm、新型M3比でもなお強力な大トルクがもたらす即応のレスポンス、大排気量エンジンにも通じる骨太な加速感は最新の高性能セダンに寄せられる期待を裏切らない出来映えだ。また、吹け上がりに代表される感性領域のチューニングも入念とあって新型B3でも積極的に回す歓びは健在。つまり、ベースがM用になったとはいえアルピナによる「調律」の確かさはしっかり味わえる。
それを受け止めるシャシー回りの洗練度も高い。試乗車は標準より大径な20インチタイヤを履いていたが、乗り心地はベースとなる3シリーズを凌ぐほど。それでいて、いざ積極的に振り回せばしなやかに動く足回りと4WD化による安定性の底上げで、もはや望外といえる速さまで容易に体感できる。セダンとしてのオンとオフを使い分けつつ、高性能モデルらしい良い意味での「毒気」を感じさせる新型B3は、まさにアルピナの最新作らしい仕上がりなのだ。
そんなB3と比較すると、新たなスカイラインのトップモデルに位置付けられた400Rは、日常の中にある高性能とでも表現すれば良いだろうか。その最高出力は、スカイライン史上最強の405ps。最大トルクも475Nmと、高性能FRセダンを名乗るには十分なスペックが与えられている。
だが、走りのキャラは車名の勇ましさから想像されるより奥ゆかしい。もちろん、アシスト機能を最小限にすれば速さと刺激は掛け値なし。ベースモデルより適度に引き締まった足回りも、積極的に操れば良質なスポーツセダンらしさを実感させてくれる。
とはいえ、おそらくはR32〜34時代のGT-Rに憧れの念を抱いた層が顧客になるだろうことを思うと、現状の400Rには毒気が足りない。前述のスペックでも粗さを感じさせないだけに、完成度が高いことは明白。
しかし、指名買いされる高性能セダンなのだから黒子に徹するだけではもったいないとも思う。まあ、見方を変えればこれもまた日本車らしい美点といえなくもないのだが……。