アウディ

【国内試乗】上質で実用的なプレミアムBEVの最適解、信頼に応える着実な進化「アウディ Q8 e-tron」

Q8 e-tronへと名称を改めてフェイスリフトを受けた、アウディのフラッグシップEV。アッパークラスとしては早い登場だっただけに、昨今のライバルと比べると影を潜めていた印象もあったが、着実な進化を果たし、ドライバーズカーとも讃えられる乗り味を得てリリースされた!

一充電走行距離とバッテリー性能が高められた

アウディは欧州ブランドのなかでもe-tronの名とともにいち早く電動化に着手し、BEVにもっとも積極的だ。2025年までに20種類以上のBEVを発売し、2033年には販売するモデルをすべてBEVにする予定となっている。

日本ではQ8 50 e-tronクワトロ、Q8 55 e-tronクワトロ、Q8スポーツバック55 e-tronクワトロの3グレードがラインナップされる。

2018年にアウディ初のBEVとして発売されたのは、e-tronというシンプルな車名だった。全長4900×全幅1935×全高1630mmの立派な体躯のSUVで、一見するとQ5やQ7と似ているが、八角形のフロントグリルやバーチャルエクステリアミラーなどがBEVならではの特徴。プラットフォームはエンジン車やプラグインハイブリッドと共有するMLBがベースだが、床下のバッテリーを取り囲む強固なフレームが安全性だけではなく、走りにもいい影響をもたらしていた。自分が初めてe-tronに試乗したのは2019年10月にドイツに赴いたとき。アウトバーンでは200km/h巡航も体験し、その完成度の高さ、エンジン車に対してのBEVの優位性などに感銘を受けたものだ。

というのも、同じ道で同じようにエンジン車のアウディA6を走らせたら、e-tronよりも直進安定性やコーナリング性能がやや劣ると感じたのだ。BEVはバッテリーが床下の低い位置で、しかも車体中央に寄っているので、低重心かつヨー慣性モーメントが低い。さらに、エンジンマウントによる揺動がないから、ダイナミクス性能がはっきりと高い。A6も単体で乗る限りは十二分にいいクルマだが、e-tronと比べるとエンジン車のウィークポイントが見えたのだった。動的質感にこだわるアウディがBEVに積極的なのも頷けたというわけだ。

エクステリアの変更点は多くはないものの、前後のLEDライトの衣装はアップデート。

そのe-tronが大規模な改良を受けて、SUVラインナップの最上級を意味するQ8の名称を新たに冠してQ8 e-tronとしてデビューを果たした。
2021年に日本上陸したe-tronは、ドイツでの記憶通りに素晴らしい走りが印象的だったものの、その後にBMW iXやメルセデス・ベンツEQS SUVなど、世代が新しく、しかもBEV専用プラットフォームで仕立てたモデルに比べると、わずかに古さを感じたのも事実。プレミアムBEVの進化のスピードは驚くほど早く、それも致し方ないと思っていた。そこに対して、大規模な改良でどれだけ対抗できるかが見物でもある。

試乗車は265/45R21の大型タイヤをオプション装着。また出力150kWまでの急速充電に対応したのもトピック。

エクステリアデザインでわかりやすい変更点はフロントグリルで、従来はシルバーで縦と横の桟の組み合わせだったが、新型はブラックで六角形を組み合わせてハニカムのようにも見える。また、4リングスは立体的な3Dから2Dへ。エンブレムやロゴの2D化は一見後退のように思えてしまうが、デジタルメディアへの対応として他も採用しているトレンドでもある。
BEVとしての進化がみられるのがバッテリーおよび一充電走行距離だ。従来のe-tronのバッテリー容量は50が71kWh、55が95kWhだったのに対して新型は50が95kWh、55が114kWhへ。電極材の隙間を少なくするスタッキング方式を採用することで寸法やモジュール数を変更することなくエネルギー密度を向上。さらにモーターの効率や空力性能を改善することでWLTCモードの一充電走行距離は50が+89kmの424km、55が+78kmの501kmとなった。さらに、急速充電の受け入れ能力が150kWへと引き上げられたことも見逃せない。アウディはポルシェ、フォルクスワーゲンとともにPCA(プレミアムチャージングアライアンス)を展開しており、全国284の拠点での充電が可能。しかも150kWの充電器を増やしているのが魅力だ。単純計算では30分で75kWhが充電されるので、ほとんどのケースで80%にはなるはずであり、これを体験すると一般的な40kWや50kWの充電器ではもどかしくなるだろう。ちなみに、従来のe-tronの充電受け入れ能力は50kWまでしか対応していなかったが、最大150kWまで引き上げるサービスが始まっている。

安定感も高く走りは全方位でアップデート

街中を走り始めると、従来のe-tronよりも洗練された印象を受けた。以前からアウディ車は機械的な洗練度が高く、タイヤがスーッと滑らかに転がっていく感覚が強かったのだが、さらに磨きがかかっている。発進して40~50km/h程度まで速度が上げてアクセルペダルから足を離すと、抵抗が極めて少なく滑空するかのようにスルスルと走っていくのが気持ち良く、高品質感がある。また、ノイズも十二分に低く抑えられ、最新世代のBEV専用プラットフォームを持つモデルと遜色なく感じられた。

2つの大型ディスプレイからなる最新世代MMIタッチレスポンスオペレーティングシステムを搭載。インテリアには持続可能なリサイクル素材が多用されつつも、高級感溢れる仕立てとなっている。

パワーやトルクは従来と変わりないが、加速は十二分だろう。アクセルをベタッと踏みつければ、即座に制限速度に達してしまい、日本の道路環境では使い切れないぐらいだ。それよりも、アクセル操作に対するレスポンスの良さ、トルクが太いのにドカンと出過ぎない上品な加速感などが魅力。ブレーキのフィーリングだけはまだ完璧ではないが、これは多くの電動車が抱える課題でもある。またCd値も引き下げられ、以前よりも高い静粛性が実現されている。

前席はマッサージ機能などをオプション設定可能。

もっとも印象的だったのはハイスピード域での直進安定性やハンドリングにさらに磨きがかかったことだ。前述のようにBEVならではの重量配分の良さなどでダイナミクス性能は元から高いのだが、フィーリングが良くなった。ステアリングを少し動かしたときからはっきりとタイヤが路面を捉えている感覚があり、切り込んでいくほどにリニアに反応する。たとえ道幅が狭いコーナーでも自在に操れる感覚が強いので、ボディが小さく感じるほどだ。ドライバーズカーとしての進化に、思わず頬がほころぶのだった。

後席空間は十分な居住スペースが確保されて座面もバックレストもゆとりのあるサイズ。

最新世代のBEV専用プラットフォームを採用するライバルに対して、洗練度を高め、ハンドリングの楽しさを引き上げたことでQ8 e-tronは大きな存在感を示したように思う。プラットフォームが専用かどうかなど関係なく、ひとつのモデルをきちんと熟成させる姿勢に、’23年乗ってよかった1台として挙げたいのだ。

【SPECIFICATION】アウディQ8 スポーツバック 55e-tronクワトロ Sライン
■車両本体価格(税込)=13,170,000円
■全長×全幅×全高=4915×1935×1620mm
■ホイールベース=2930mm
■トレッド=前:1645、後:1645mm
■車両重量=2600kg
■モーター形式/種類=EAS-EDE/交流同期電動機
■モーター最高出力=408ps(300kW)
■モーター最大トルク=664Nm(67.7kg-m)
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■バッテリー容量=114kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=525km
■サスペンション形式=前後:マルチリンク/エア
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:255/50R20

問い合わせ先=アウディジャパン TEL0120-598-106

【ANOTHER RECOMMEND】メルセデス・ベンツEQS SUV
Q8 e-tronのインテリアはデジタル化されてはいるものの、従来のエンジン車と同様の構成でとくに目新しさはない。それに比べるとE QS SUVのMBUXハイパースクリーンの未来感は凄まじい。これだけでも欲しくなる。

リポート=石井昌道 フォト=篠原晃一 ルボラン2024年1月号より転載
CARSMEET web編集部

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