走りにも唯一無二の個性がある
最後に試したのは「レンジローバー・イヴォーク・コンバーチブル」。これは世にも珍しいオープンタイプのSUVで、同種の車は数年前まで日産が北米で販売していた「ムラーノ・クロスカブリオレ」くらいしか思いあたらない。日本での展開はモノグレードで、エンジンは240psの2.0リッター直列4気筒ターボ。グレードは上級の「HSEダイナミック」で、税込希望小売価格は765万円となる。
イヴォークは前輪駆動(FF)ベースのオンデマンド4WDなので、システムの動作はジャガーFペースの真逆と考えればいい。つまり通常はフロントにトルクを100%配分、スリップや不安定な挙動を予測/検知すると、後輪に最大50%までのトルクを適宜伝達。なお、イヴォークが搭載する4WDシステム「アクティブドライブライン」は、通常走行時は後輪に動力を伝えるプロペラシャフト以下を切り離してフリーにする。よって不必要な重量物を回すロスがなくなり、燃費面でも有利なシステムといえる。
さて、こちらは一般公道での試乗である。幸い雪は降っていなかったので、スタートからトップを全開にして走り出してみる。もちろんシートヒーターもエアコンも温度設定はマックスだ(エコじゃなくてごめんなさい)。
いやー、それにしても目立つこと目立つこと。下校途中の小学生には「スゲー」と言われ、ゲレンデ帰りの外国人には指を差されて喜ばれ、大人は見て見ぬフリをするという(笑)。乗っている本人はもちろんだが、周囲を巻き込んでここまで見る者を楽しませてくれる車なんてスーパーカー以外にはちょっと考えられない。もしかしたら真冬にルーフを全開にして走っている物好きを笑っていたのかもしれないが……。
だが、それはまったくの誤解である。乗っているこちらがやせ我慢をしているようなことは決してなく、サイドウインドーを上げておけば風の巻き込みはほとんどナシ。だからダウンジャケットなど厚手の服を着込み、グローブをはめて運転しさえすれば、スポーツカーじゃ決して味わえない銀世界のオープンエアドライビングを愉しめるのだ。
試乗ステージが一般道だったのでハードなことは試していないが、それでも走りがノーマル系イヴォークとは若干異なることが確認できた。実はイヴォーク・コンバーチブル、3ドアに比べてなんと260kgも重いのだ。これはルーフをカットしてボディの剛性が低下したため、随所に補強を施したから。おかげでノーマルのような機敏さやダッシュ力はややなりを潜めたが、そのぶん動きにゆったりとした落ち着きが出て、4シーターオープンらしい優雅な走りを手に入れている。気になっていた剛性感の低下も最小限で、路面からの衝撃を受けてボディが不快にワナワナ震えたり、捩じれでハンドリングが乱されるようなことはまったくなかった。
4WDシステムの作動状況はモニターで確認できるのだが、安定性のある4WDを基本に、さほどトラクションを必要としない直線路などで適宜FFに切り替わる……という印象だった。以前は「FFベースのオンデマンド4WDなんて所詮簡易的なもの」という風潮もあったが、特にイヴォークのアクティブドライブラインなら構造上後輪をロックして悪路走破性を極限まで高めることだって可能。このシステムはFFベース4WDの最先端を行く機構。遊び心の中にも、オフロード専業ブランドゆえのプライドや骨太さが感じられる、イヴォーク・コンバーチブルなのだった。