三菱

【国内試乗】走りと“音”の質感が進化「三菱 アウトランダー・PHEV」

アウトランダーPHEVが改良を受けて走行性能と快適性を強化。またヤマハと共同開発した専用サウンドシステムも搭載してさらに独自のホスピタリティも備え、魅力的な仕上がりとなっている。今回は袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗した第一報をお届けしよう。

PHEVのパイオニアとしてプライドを感じさせる完成度

EV走行可能距離が87kmならば十分な気もするけど、三菱はそれでは満足できないらしい。

バッテリー容量は22.0kWhから22.7kWhまで拡張され、EVモードでの航続可能距離はエントリーグレードの「M」で、87kmから106km(WLTC)へと伸長。先代よりもエンジンの使用頻度も低減される。

マイナーチェンジを受けた三菱アウトランダーPHEVは、内外装の変更をささやかなレベルに留めつつも、走行性能に関しては力を込めた。リチウムイオンバッテリーは約13%増の22.7kWhに拡大。これにより電気モーターだけでの走行距離は106kmに到達。19kmも足が長くなったわけだ。

もっともその数字は“たった19km”に感じられる。もちろん航続距離が長くなったことを否定するつもりはないが、そもそもPHEVだから充電を使い切ってもガソリンがあればなに食わね顔で走り続けることができるわけで、“たった”は“そんなにこだわることか?”の意味を含んでいるのだ。

その理由は、三菱の意気込みにある。新型アウトランダーPHEVを開発するにあたっての狙いは、台頭する欧州PHEVへの危機感であり、日本製PHEVのパイオニアである三菱の意地でもある。

「P エクスクルーシブ・パッケージ」のインテリアには、新しく設定されたブリックブラウンのセミアニリンレザーを選べる。顧客からも上品な内装を求める声は多かったそう。

同時に、操縦性も欧州車レベルを求めている。象徴的な例が、ボンネット素材がアルミから鉄板に変更されたことだ。一見すると退化のように思えるが、ボンネットの重量を増やし形状を変えたことで、超高速域でのバタツキを抑えることに成功。国内上限の120km/ hではまったく気にならない部分にもメスを入れたのは、もちろんアウトバーンも意識してのこと。モーターパワーも60%引き上げられ、力強いのは想像通りだ。エンジンの始動が抑えられ、EV走行時間が長い。これまで気になった金属質なモーター音もなくなり、全域で静粛性が高まった。

それでも微少なアクセル開度に対してはパワーをいたずらに増強をさせていない。ゆえに上品な加速スタイルを貫く。また、スロットルの踏み込みと加速感が整えられたことで、走りは素直になった。

それでも0→100km/h加速が2秒も短縮したというから鼻息は荒い。電気モーター駆動にありがちな、高回転の伸び感の薄さも抑えられている。抜けるような爽快感とは言い難いが、初期でドカンと見舞っただけでシューっとパワーがしりつぼみになるようなだらしなさはない。その点でも、速さに抜かりのない欧州プレミアムへの対抗心を覗かせるのだ。

ヤマハと共同開発したDynamic Sound YamahaUltimateを装備。12個のスピーカーとデュアルアンプを備え、いかなる走行下でも高音質を楽しめるようサウンド補正性能が強化された。

もちろん三菱のお家芸である四輪制御技術は熟成の域に達している。パワーオンでの旋回中、比較的強めに後輪トルクを見舞う。それによりフロントタイヤの横グリップに余裕が生まれる。微少舵で旋回しやすくなった。いたずらに旋回性を強調するのではなく、むしろスタビリティを高めている。つまりその点でも、欧州特有の高速走行を意識したセッティングであろうと想像した。

このように、欧州モデルを強く意識して開発されたアウトランダーPHEVだが、ことさら力を込めたのがオーディオだ。ヤマハとの共同開発したスピーカーやウーハーのクオリティを高めたのはもちろん、共鳴してしまうドアパネルを補強し、あるいは整備用のサービスホールを塞ぐなど、クルマをコンサートホールに見立てた空間としているのだ。操縦性のためのボディ剛性アップは聞くが、音響のためのボディ強化は珍しい。 新型アウトランダーPHEVは、欧州勢をターゲットに開発されている。それはPHEVのパイオニアとしてのプライドに他ならない。

シートヒーターなどを標準装備する「P エクスクルーシブ・パッケージ」と「P」に、「G」「M」を加えた4グレード展開。それぞれ、5人乗りと7人乗りが設定されている。

5人乗車時でも一般的なゴルフバッグが4個、スーツケースが3個収納可能。広い開口部幅とフラットな開口部床面により、荷物の出し入れもスムーズに行なうことができる。

従来同様5つの走行モードが選べる。サスペンションのチューニングを見直すことで、路面からの振動やショックが低減され、日常域からオフロードまで上質な乗り心地が実現されている。

【Specification】三菱アウトランダーP エクスクルーシブ・パッケージ
■車両本体価格(税込)=5,263,500円
■全長×全幅×全高=4720×1860×1750mm
■ホイールベース=2705mm
■トレッド=前:1590、後:1595mm
■車両重量=2180kg
■エンジン型式/種類=4B12(MIVEC)/直4DOHC16V
■内径×行程=88.0×97.0mm
■総排気量=2359cc
■最高出力=133ps (98kW)/5000rpm
■最大トルク=195Nm(19.9kg-m)/4300rpm
■モーター形式/種類=前:S91/交流同期電動機、後:YA1/交流同期電動機
■モーター最高出力=前:85ps、後:100ps
■モーター最大トルク=前:255ps、後:195ps
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■燃料タンク容量=53L(レギュラー)
■燃費(WLTC)=17.2km/L
■サスペンション形式=前:マクファーソンストラット/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:255/45R20

問い合わせ先=三菱自動車工業 0120-324-860

フォト=篠原晃一 ルボラン2024年12月号より転載

この記事を書いた人

木下隆之

1982年に全日本学生自動車王者に輝いた。出版社で編集部所属、独立してレーシングドライバーとして活動を開始してから40年となる。日産、ホンダ、三菱、トヨタとレーシングドライバー契約。レーシングカーはもちろんのこと、スカイラインGT-R、ホンダ・レジェンド、三菱ランサーエボリューション、レクサスLFAなどの開発に従事。国内外のトップカテゴリーで数多くのチャンピオンを獲得。スーパー耐久シリーズでは最多勝記録を更新中。ニュルブルクリンク日本人最多出場、日本人最高位記録保持。GTアジア選手権2連覇等、海外に活動の場を広げて活躍中。2023年からはトーヨータイヤと「プロクセスアンバサター」契約し、Team TOYOTIRESのドライバーとしてニュルブルクリンクに参戦を開始している。一方で、執筆活動も旺盛で、11本のコラムを連載中。「豊田章男の人間力」「ジェイズや奴ら」等を上梓。トヨタガズーレーシングアドバイザー、レクサスブランドアドバイザー、BMWスタディ・スポーティングディレクターを経験。数々の企業案件に参画してきた。サントメ・プリンシペ民主共和国・補佐官/トウキョウファーム経営戦略アドバイザー/日本カーオブザイヤー選考委員/日本ボートオブザイヤー選考委員/日本自動車ジャーナリスト協会会員/株式会社木下隆之事務所・代表

木下隆之

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