
メルセデス・ベンツVLEが実用を見越したロングランテストを実施
メルセデス・ベンツは次世代の電動バン「VLE」の卓越した性能と実用性を、シュトゥットガルトからローマへの約1100kmに及ぶ長距離テストドライブで鮮やかに実証した。この過酷なテストは欧州横断という挑戦的なルートで実施され、VLEが現代におけるファミリーユースやレジャー、そしてクルマ好きのニーズに応えるMPVとしての可能性を明確に示した形だ。
【写真18枚】1100kmをわずか2回、15分の充電停車で走破!「メルセデス・ベンツVLE」の詳細を見る
驚異の航続性能と充電効率
今回のテストでは、2台のメルセデス・ベンツVLE試作車がシュトゥットガルトを出発し、アルプス山脈の険しい峠道を越え、イタリアの曲がりくねった田舎道や市街地を走り抜け、最終目的地であるローマに到達した。特筆すべきは、その長距離走行性能だ。約1100kmもの距離を2回の充電停車、しかも充電時間はわずか15分という短さで走破した。これは実際の使用状況下における充電のしやすさと効率性を強く印象づけるものだった。

出発時の気温11℃のシュトゥットガルトから、到着時の33℃のローマまで、車内は常に22℃に保たれ、乗員は快適な移動を享受できたという。これは、VLEの優れた熱管理システムと、エアコンによる消費電力の効率的な制御がなされていることを示している。このような環境下での安定した性能発揮は、電動ドライブトレインの効率性、回生ブレーキの最適化、そして高度なバッテリーマネジメントシステムの総合的な成果であるといえる。
俊敏なハンドリングを支えるリアアクスルステアリング
今回のテスト走行では、VLEのリアアクスルステアリングも注目を集めた。アルプスの曲がりくねった峠道や、ローマ市内の狭い路地といった、日本の道路事情にも通じるような困難な状況下で、リアアクスルステアリングはその真価を発揮したのである。
この技術は、車両の俊敏性を飛躍的に高め、ドライバーにストレスのないハンドリングを提供することを可能にする。電動化によって車両重量が増加しがちなEVにおいて、このリアアクスルステアリングは、VLEの日常使いにおける取り回しの良さと、狭い場所での優れた操縦性を保証する。
メルセデス・ベンツ バンズの開発責任者であるアンドレアス・ザイガン博士は、「我々の新たな電動MPVとなるVLEが、長距離ルートにおいてその日常での使いやすさを改めて印象的に実証した。シュトゥットガルトからアルプスを越え、ローマまでわずか2回の短い充電停車で走破したVLEは、新しいバン電動アーキテクチャの驚異的な効率性を実証している」と述べ、その性能に自信をのぞかせている。
徹底した開発プロセスと「新時代」への布石
今回の長距離テストは、VLEの開発プログラムの一環であり、単なるデモンストレーションではない。メルセデス・ベンツは、VLEの成熟度検証のために、デジタルシミュレーション、最新のテスト施設での厳格な試験、そして今回のような実走行テストを組み合わせた包括的なプログラムを実施している。
これまでの開発過程では、VLEの初期技術車両がノルウェーのノールカップまで走行し、2025年冬にはスウェーデンで極寒地テストが行われるなど、あらゆる気候帯と走行プロファイルでの徹底的な検証が繰り返されている。これは、VLEが市場投入された際に、いかなる条件下でも最高のパフォーマンスを発揮できるよう、万全を期している証拠である。
メルセデス・ベンツは、2026年より、新開発のモジュール式でスケーラブルな「バン・アーキテクチャ」を導入し、車両ラインアップの新時代をスタートさせる。この新アーキテクチャは、個人向けの「グランドリムジン」と商用バンとの明確な差別化を可能にするという。
豪華さと実用性を兼ね備えた「グランドリムジン」
将来の個人向けMPV、すなわち「グランドリムジン」は、メルセデス・ベンツ「VLE」と「VLS」として展開される予定だ。
VLEは最大8席仕様で、家族やアクティブなレジャー志向の顧客向けの多用途モデルから、高級感溢れるVIPシャトルまで幅広いニーズに対応する。一方、VLSは、自動車のラグジュアリーに真の偉大さをもたらす独自のセグメントを定義するとされている。注目すべきは、メルセデス・ベンツが初めて、米国、カナダ、中国市場で完全電動のミッドサイズラグジュアリー車両を提供する計画であることだ。
今回のVLEによる欧州横断テストは、単なる技術的な成功以上の意味を持つ。それは、メルセデス・ベンツが電動化時代におけるMPVの可能性を最大限に引き出し、ラグジュアリーと実用性、そして環境性能を高い次元で融合させようとしている明確な意思表示と言えるだろう。VLEが市場に投入される日が、今から実に待ち遠しい。