国内試乗

フランスらしさが貫かれた高級SUV「DS7 CROSSBACK」

40台限定のプルミエール・エディションに続き、ついに日本でカタログモデルとしてデリバリーが始まったDS7クロスバック。「パリ」を前面に押し出したフレンチタッチの高級仕立ては、この新フラッグシップの重要な要素だが、それだけでは説明のつかない1台でもある。

DSブランドが放つ渾身のオリジナルSUV

DSがシトロエンから派生した単独ブランドとして、初めて白紙から開発されたフラッグシップモデル、それがDS7クロスバック だ。とはいえこのモデルは、デザインやディティールで強烈な表現を採ったクルマだけに、そこだけに焦点が偏っている節がある。キラキラ感が凄いフレンチラグジャリーなSUVだとか、パリを背負ったデザインが素敵とか。フランス車といえば「お洒落」か「パリのエスプリ」といった、便利な決まり文句で片づけられた時代ならいざ知らず、最新のDSであるDS7クロスバックは、それだけで語られるモデルではない。

こちらはBlueHDi177仕様で、マッド&スノーの18インチタイヤゆえのハイトにも注目。総じてアタリの柔らかい乗り味が、ディーゼルの豊潤なトルク感に合っていた。インクブルー外装色の「ソー・シック」グレードだ。

まず今年は、アルピーヌとDSそれぞれの最高峰がほぼ同時に上陸という、フランス車のヴィンテージ・イヤーだ。アルピーヌA110はオールアルミの新規設計ボディにMRレイアウトで「アルピーヌ再興」を打ち出した。一方、DSはプジョーやシトロエンと同 じEMP2プラットフォームを採り、内装やデザイン、電子制御といった「誂え」中心の内容で、FFの都会的SUVいう売れ筋のカタチでもって「フランスの高級車の復権」を謳ってきた。

ピュアテック225の「グランド・シック」パッケージの「リヴォリ」内装。もうひとつは「オペラ」というナッパレザー仕上げだが、リヴォリ通りのモダンさとパースペクティブをイメージしたクロスステッチが施される。

日本市場では、FR好きはFFと聞いただけで高級車にあらず的な傾向が根強く残っている感がややあるが、DSのFFとしてのノウハウを他メーカーと同列に見なすべきではない。DSの祖先であるシトロエンは、FFの市販車で初めて成功を収めたメーカーだ。トラクシオン・アヴァンやオリジナルのDS19、SMなど、DS7クロスバックに連なる祖先は、すべてFFの高級車だった。技術やノウハウは蓄積でもあることはいうまでないし、伝統の粘り強いロードホールディングとしなやかな乗り心地は、大衆車だけでなくDS7クロスバックのような高級車にも当然、相応しい。そもそも、メカニカル・グリップとトラクションに優れるFFなら、公道では凡百の後輪駆動車よりずっと合理的な選択肢であることは、雪の日の都内での路上の惨状を見れば、合点がいくはずだ。余談だがフェルディナント・ポルシェ博士設計の、最初期の電気自動車すらホイールインモーターの前輪駆動だった。

ドライバーの瞳や瞼の動きを検知して居眠りや疲労に対する警告機能が備わる。

よってDSが「FFの高級車」でフレンチラグジャリーを押し出すことは、表面的でコスメティックどころか、正統なのだ。AWDがないという批判もあろうが、後車軸側を電気モーター駆動させるPHEVを早々に追加することは、既定路線だ。

ダッシュボード中央のB.R.M.の時計は、始動時に180度回転して現れる演出。

今回の試乗車は、1.6Lツインスクロールターボのピュアテック225psを積んだ20インチホイール仕様と、2.0LディーゼルのブルーHDi 177psを積む18インチ仕様の2種類。いずれもアイシンAW製8速ATと組み合わされ、日本市場では初出となるパワートレインだが、前者は従来のTHP165の後継で、後者は508や308GTでお馴染みのディーゼルユニットだ。

シフトレバー両脇にはクルー・ド・パリ柄のスイッチ類が。

フライバイワイヤのシフトレバーをDレンジに入れ、早々にドライブモードを「コンフォート」に入れてみる。5〜25m先の路面をカメラで読み込み、4輪の各サスペンションの減衰力をソレノイドバルブで制御する「アクティブスキャンサス」は、コンフォートモードなら15km/h以上で作動する。石畳の上では、明らかにタイヤが地面を叩く音が静かになるが、総じてフラットな高速道路ではノーマルモードとの違いは感じにくいかもしれない。だが、大きめのバンプやうねりを越えた時、ノーマルモードなら一発収束するような場面でも、2度3度と振れ幅が徐々に収まる「残身」が感じられる。ソフトなだけでなく、往年のハイドロの動きを忠実に再現した、そういう感触だ。

ディーゼルのBlueHDi177。

アイシンAW製の8速ATが組み合わされ、旧6速ATと容積はほとんど変わらないコンパクトさながら、約4%ほど効率を高めているという。

スポーツモードを選ぶと、増幅されたエキゾーストノートと、ステアリング中立付近のしっかり感が増すが、ノーマルでも操舵に対する反応の正確さ、トレース性はすこぶるいい。低重心ゆえの自然なロールとストローク感、穏やかだが決して鈍重と感じさせないシャシーの調律は、DSが目指すべきハンドリングの方向性について、迷いがないことを窺わせる。ノーマルモードでも完成度の高いアシだが、DSのフラッグシップとしてはビジネスライクに過ぎるのだろう。そんな時こそコンフォートモードの出番というわけだ。

リアシートは60:40の分割可倒式で、ラゲッジルームは通常時でも555Lという大容量を確保している。

バンパー下に足を動かす 動作でハンズフリー開閉できる機能も備わる。

走りでもうひとつ印象的だったのは、トランスミッションは違えど、同じブロックや似たスペックのエンジンを搭載した同門のEMP2採用モデルより、スタート&ストップ機構を含め、静粛性に優れ、振動を抑え込めている点だ。ガソリン仕様のノーズの動きの軽快さ、回転フィールの滑らかさに対し、ディーゼルはどっしり感、あらゆる回転域で力強い。個人的には、後者の18インチ仕様の方がアタリが柔らかで気に入った。裏を返せばピュアテック225は、よりプジョー508に向いていると、確信を強めた。

ディーゼル仕様で、マッド&スノータイヤであるミシュラン・ラティチュード・ツアーHPの235/55R18サイズに、グリップコントロールの組み合わせ。

ガソリン仕様で、235/45R20のグッドイヤー・イーグルF1を装着していた。いずれ乗り心地に際立ったネガはなく、好みで選べる範囲だ。

Dセグのダウンサイザーにも仏式ラグジャリーは通じるか

サイズ感についても触れておこう。CセグのSUVとはいえ、4.6m弱の全長はDセグSUVよりひと回り短いが、1.9m近い全幅はDセグに比肩する。要は日常的な取り回しはDセグより楽だが、居住性での余裕は確保している。全長はひとクラス下だが全幅は同等というアプローチは、テスラ・モデルSがSクラスや7シリーズ相手に仕掛けたのと似たやり方で、「プレデター(既存のプレーヤーを喰うもの)」の手法といえる。つまりレクサスNXやアウディQ3以外に、Dセグにも戦々恐々すべき競合車がありそうだ。

またディーゼル仕様はファブリックシートの「バスティーユ」だったが、ジャガード織りのようにゴールドが透けて見える生地の質感は見ごたえがある。DSのデザイン部門には素材や色、そのランゲージや量産への応用をずっと研究しているチームがあるが、その成果といえるだろう。

「ソー・シック」グレードでスタイル的には「バスティーユ」内装。ジャガード織り風の立体的な生地の色合いと質感が見事。

よくフランスでは「優雅さは金で買えない」といわれるが、DS7クロスバックはコストのかかった細部を精密に組んだだけのクルマではない。むしろその贅沢さは、全体を貫く調和や、均衡の美しさの中にある。そこがフランスの高級車たるゆえんなのだ。

リヴォリのレザー内装だが、グレーのレザーにも独特の温かなトーンと色見がある。

Specification
DS7クロスバック グランシック
車両本体価格(税込):5,420,000円
全長/全幅/全高[mm]:4590/1895/1635
ホイールベース[mm]:2730
トレッド(前/後)[mm]:1625/1605
車両重量[kg]:1670
最小回転半径[m]:5.4
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:- /直4DOHC16V+ターボ
内径×行程[mm]:77.0×85.8
総排気量[cc]:1598
圧縮比:10.2
最高出力ps(kW)/rpm:225(165)/5500
最大トルクNm(kg-m)/rpm:300(0.6)/1900
燃料タンク容量[L]:62(プレミアム)
燃費(10・15/JC08)[km/L]:14.7/-
ミッション形式:8速AT
変速比:1)5.070、2)2.971、3)1.950、4)1.469、5)1.230、6)1.000、7)0.808、8)0.672、R)4.015、F)3.537
サスペンション形式:前 ストラット/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/ディスク
タイヤ(ホイール):前235/45R20(-J)、後235/45R20(-J)

DS7クロスバック ソ-シック
車両本体価格(税込):4,690,000円
全長/全幅/全高[mm]:4590/1895/1635
ホイールベース[mm]:2730
トレッド(前/後)[mm]:1620/1600
車両重量[kg]:1570
最小回転半径[m]:5.4
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:- /直4DOHC16V+ターボ
内径×行程[mm]:85.0×88.0
総排気量[cc]:1997
圧縮比:16.7
最高出力ps(kW)/rpm:177(130)/3750
最大トルクNm(kg-m)/rpm:400(40.8)/2000
燃料タンク容量[L]:55(軽油)
燃費(10・15/JC08)[km/L]:16.4/-
ミッション形式:8速AT
変速比:1)5.518、2)3.183、3)2.050、4)1.492、5)1.234、6)1.000、7)0.800、8)0.673、R)4.221、F)2.953
サスペンション形式:前 ストラット/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/ディスク
タイヤ(ホイール):前235/55R18(-J)、後235/55R18(-J)

DS Automobiles https://www.dsautomobiles.jp/

リポート:南陽一浩/フォト:柏田芳敬/ル・ボラン 2018年10月号より転載
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CARSMEET web編集部

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