戸隠連峰と北アルプスを一望にする大きな眺め
長野市の西の外れに位置する旧・鬼無里村には、豊かな自然とさまざまな伝説がいまもたっぷりと残されている。この静かな山里へと続く道が今回紹介する大望峠である。目の前にそそり立つ戸隠連峰の岩壁と遠くに浮かび上がる北アルプス。そのスケールの大きな眺めには、 まさに 「大望」 の名がふさわしい。
峠を越えると土地柄はがらりと変わる。このことを端的に表しているのが山国・信州に残る「村」の数の多さではないだろうか。
いまでも長野県内には37の村が健在で、この数はダントツの日本一を誇っている(ちなみに全国の都道府県のうち村が存在しないのは13県にものぼる) 。 ただし、2005-2006年にピークを迎えた平成の大合併により、29村が統合・編入され、昔から馴れ親しんできた村名の多くが地図や道路の案内標識から消えてしまった。
ともに2005年に長野市に編入合併された戸隠村と鬼無里(きなさ)村もそのひとつで、この大望峠はかつての村境を県道36号で越えていく。
長野市街から大望峠までは、善光寺裏から戸隠経由で行っても、裾花川沿いに国道406号で行っても、曲りくねった山道を1時間近く走り続けなければならない。とても県庁所在地の市内とは思えない山深い土地である。
大望峠はちょうど戸隠連峰・西岳の真南にあり、展望台に立つと、まるで刃物のようにそそり立つ岩肌を間近で仰ぎ見ることになる。伝説によると、この鋭く切り立った岩山は、天照大神が二度とお隠れにならないようにするため、天手力雄命(あめのたぢからおのみこと)が下界に放り投げた天岩戸。これが日本のほぼ真ん中にズブリと突き刺さったらしい。
戸隠連峰から西に目を向けると、眼下には幾重にもひだを重ねる谷筋に小さな山里が点在し、その向こうには雪をかぶった北アルプスが屏風のように連なっている。このスケールの大きな眺めは、まさに「大望」の名に恥じないものといえる。
大望峠からの絶景を楽しむなら、北アルプスが残雪に彩られる春先から初夏、あるいは紅葉と雪山のコントラストが美しい晩秋がお薦めだ。ただし、大望峠から白馬岳あたりまでは直線距離で25km以上あるため、日中、気温が上がると山の姿はたちまち霞んでしまう。できることなら前夜は近くの宿に泊まり、日の出とともに峠をめざし、真正面から朝日を浴びて神々しく浮かび上がる北アルプスを拝んでいただきたい。