
九重の山なみを抜けて火の山・阿蘇へと迫る道。
大分県の湯布院と熊本県の阿蘇山北麓とを結ぶやまなみハイウェイは、西日本を代表する絶景のワインディングロードである。全長60km近いルートの北側起点は標高707mの水分峠。日本列島の中央分水嶺にある峠で、水の流れはここを境にして豊後水道(太平洋側)に注ぐ大分川水系(豊後水道=太平洋側)と有明海(日本海側)に注ぐ筑後川水系とに分かれる。
その水分峠からやまなみハイウェイを南に向かって走り出すと、道はまずコーナーを繰り返しながらゆったりと標高を下げていく。視界はあまり開けないが、なかなか気持ちのいい林間のワインディングだ。
いったん下りきると、湯平温泉への分岐点。そこから左手に見える崩平山を巻くように走って行けば、やがて目の前に長い直線路と噴煙を上げる大きな山塊が見えてくる。やまなみハイウェイ北側区間のハイライト、長者原のストレートである。
真正面にそびえるのは九重連山。最高峰は標高1791mの中岳で、中央で噴煙を上げるのは硫黄山である。
道はここから上り坂となり、山肌を大きく回り込むようなコーナーをいくつか抜けていくと最高地点の牧ノ戸峠(標高1320m)へと至る。レストハウスや駐車場のある牧ノ戸峠を過ぎると道は再び下りとなり、やがて遙か前方に〝火の山・阿蘇〟の姿が見え始めてくる。
眺めがすばらしいミルクロードとの分岐
タイトターンを繰り返して牧ノ戸峠を下りきると、すぐに県境を越えて熊本県に入る。瀬の本高原から南の区間は、それまでとは周囲の風景が打って変わり、アップダウンの少ない緑の草原地帯を抜けていく。いかにも阿蘇らしい風景だ。
このあたり、外輪山北側に広がる台地は太古の火山活動によって生まれたもの。およそ27万年前から9万年前にかけて、阿蘇火山は現在とは比べようもないほど大規模な火山活動を繰り返していたのだが、その時期に発生した巨大火砕流は九重連山の麓の起伏を埋め尽くし、さらに海を渡って山口県のあたりまで達したという。そして、この巨大噴火によって地下のマグマだまりが空洞となり、一帯の地盤が陥没してできあがったのが、周囲100kmmを超える凹地、阿蘇のカルデラである。
なだらかな緑の草原が広がるやまなみハイウェイ南側区間のなかでも、特に眺めがすばらしいのはミルクロードとの分岐があるT字路の前後だ。まるで一面に緑のじゅうたんを敷き詰めたような大地は、ここでしか出会うことのできない、阿蘇ならではの絶景といえるだろう。
そこからさらに南下を続けると、いつしか外輪山の稜線を越え、道はカルデラの内側へと下り始める。その途中にあるのが城山展望台。ここまで来ると、阿蘇谷と呼ばれるカルデラ盆地、そして、中央にそびえる阿蘇五岳の勇姿も一望にすることができる。
ご当地情報
A:湯布院温泉 下ん湯
金鱗湖が目の前に広がる風情あふれる共同浴場
全国的な人気を誇る湯布院温泉のシンボル的存在として、古くから地元の人に愛されてきた共同浴場。金鱗湖畔に建つ小さな茅葺き家屋が目印で、内湯と露天があり、どちらも混浴である。金鱗湖を眺めながら爽快な湯浴みを楽しめるが、対岸をそぞろ歩く観光客からも丸見えとなってしまうため、入浴にはちょっと勇気が必要!?
●入浴料200円/9:00-23:00/由布市湯布院町川上1585/Tel:0977-85-4464
B:朝日台ロッジ
高原の風景とともに楽しむ九重“夢”バーガー
水分峠から南へ約18km、九重連山の眺めがすばらしい朝日台にあるレストハウス。ここでは近くの湧水を用いる薫り高いコーヒーや紅茶のほか、九重町の新しいご当地グルメ、九重“夢”バーガーを味わうことができる。自慢のチキン南蛮バーガー(600円)はチキン南蛮を秘伝の甘酢タレでジューシーに仕上げたもの。
●10:00-17:00/不定休/九重町田野2407-1/Tel:0973-79-3131
C:寒の地獄温泉
一年を通じて13度の冷泉は夏でも長湯はできない
ここに湧くのは1年を通じて13℃の冷泉。この冷泉に浸かったあと、暖房室でじっくりと身体を乾かし、温泉成分を吸収するというのが寒の地獄の伝統的な入浴法。ちなみに13℃という水温は真夏でも5分と耐えられない冷たさ。興味のある人は、ぜひ一度お試しあれ。
●入浴料500円(9:00-16:00/休前日は14:00まで/1泊2食付12,000円から/九重町飯田高原257/Tel:0973-79-2124
ご当地情報
D:城山展望所
外輪山の縁から眺める阿蘇五岳とカルデラ
やまなみハイウェイの終点、国道57号・宮地駅前交差点の8kmほど手前にある展望スポット。標高748m、切り立った外輪山の縁からは目の前に阿蘇五岳(中央火口丘群)がそびえ立ち、眼下にはカルデラ内の広がる田畑や町並みを一望というすばらしい展望が広がる。昔ながらのドライブインもあり、休憩や待ち合わせにも最適。
●阿蘇市一の宮町三野2351/Tel:0967-22-0544(城山ドライブイン)
E:阿蘇神社
縁結びにも御利益のある阿蘇の神様を祀った神社
孝霊天皇9年(紀元前282年と推定)の創建とされる肥後国一の宮。阿蘇の開拓祖、健磐龍命(たけいわたつのみこと)をはじめ十二神をまつる。隣接する門前町商店街には土産物屋などが賑やかに建ち並び、湧水巡りをしながら買い物や散策を楽しむことができる。
●拝観無料/開門6:00-18:00 /阿蘇市一の宮町宮地3083/Tel:0967-22-0064
F:休暇村 南阿蘇
阿蘇五岳のひとつ根子岳が目の前にそびえる
阿蘇五岳のひとつ、根子岳の眺めを満喫できるリゾートホテル。“しきみの湯”と名付けられた温泉はアルカリ単純泉で、筋肉痛・関節痛・冷え性などに効能があるほか、湯上がりに肌がつるつるになる“美人の湯”としても人気。夕・朝食は地元の新鮮な食材をたっぷり使ったバイキング方式で、名物の田楽料理なども味わえる。
●1泊2食付き9,770円(平日)から/高森町高森3219/Tel:0967-62-2111
やまなみハイウェイ
◎正式名称/県道11号別府一の宮線
◎区間距離/約58km(水分峠-阿蘇市)
◎冬季閉鎖/なし
◎撮影時期/10月中旬
アクセスガイド
やまなみハイウェイ北側起点に近いのは大分道・湯布院IC で、九州道・福岡IC からは115km。別府と大分には大阪や四国などから何本かフェリー航路があるので、ドライブの時はうまく活用したい。別府から湯布院までは県道11号で24km。やまなみハイウェイの南端、阿蘇市に最も近いインターは九州道・熊本IC。国道57号で約40kmの道のりだ。
観光情報
由布院温泉観光協会 Tel:0977-85-4464
九重町観光協会 Tel:0973-76-3866
南小国町観光協会 Tel:0967-42-1444
阿蘇市インフォメーションセンター Tel:0967-32-1960
高森町観光協会 Tel:0967-62-2233
文:佐々木 節/写真:平島 格