旅&ドライブ

国道最高地点を越える日本屈指の山岳ルート(群馬県/長野県・渋峠)【絶景ドライブ 日本の峠を旅する】

下界では味わえないダイナミックな山岳風景

道路の両側にそそり立つ雪の壁。渋峠から群馬側に少し下ったあたりが最も積雪量の多いポイントで、壁の高さは7-8mにもなる。

日本の峠道を語るうえで、 志賀草津道路の渋峠を外すわけにはいかないだろう。なにしろ標高2172mのピークは日本の国道の最高地点であり、日本列島の脊梁、 中央分水嶺を越える道は国内屈指の山岳ワインディングである。そんな志賀草津道路に春の訪れを告げるのが、 開通直後にだけ出現する“ 雪の回廊”だ。

県境に位置する渋峠から、少し群馬県側に行ったところに建つ国道最高地点の石碑。

群馬県の草津温泉と長野県の湯田中渋温泉郷をつなぐ国道292号・志賀草津道路は、日本の国道最高地点、標高2172mの渋峠を越えてゆく。富士山スカイラインの新五合目(標高2400m)や乗鞍スカイラインの畳平(標高2702m・一般車両通行不可)など、もっと高いところまで通じる道もあるが、こと峠道に限っていえば、この渋峠より高いところを通っているのは、川上牧丘林道の大弛峠(長野/山梨県境・標高2360m)だけである。
そんな志賀草津道路の名物は、長い冬季閉鎖の直後にだけ見ることのできる 〝雪の回廊〟 だ。

標高2050mの山田峠。このあたりは吹きさらしになっているため意外と積雪が少ない。

5月上旬、春たけなわといった感じの草津温泉をあとに志賀草津道路を走り始めると、周囲の眺めは目まぐるしいほどダイナミックに変化していく。
3kmほどの林間のワインディングを抜けると、まず現れるのが殺生河原。硫化水素ガスのため一帯には草木一本生えず、焼けただれた岩がごろごろしている。そこから直線とタイトターンの繰り返しで急斜面を駆け上がっていくと、やがて真っ白な岩肌をさらけ出す草津白根山が見えてくる。このあたりで振り返れば眼下には草津の町並み、赤城や榛名など上州の山並みも一望にできる。

渋峠から長野側に下ると、冬から一気に春の世界に飛び込んでいくような気分が味わえる。夜間瀬川の桜並木は例年4月下旬が見頃。

湯釜へと通じる草津白根レストハウスの前後から道路脇の残雪も増えてゆき、やがて万座温泉郷への分岐を過ぎると道は再び九十九折りとなり、登り切ると森林限界を越えた稜線上に飛び出す。この先、標高2050mの山田峠の北側から長野県側に少し下った横手山ドライブインあたりまで、距離にして5kmほどの区間が雪の回廊のハイライトとなる。

熊の湯温泉から渋峠の手前にかけては美しい湖沼群が点在する。写真は白樺林に囲まれた木戸池。

道の両側にそそり立つ雪の壁はときに7-8mもの高さに達する。その一方、渋峠や山田峠など吹きさらしになる稜線上は雪の量が少ないため、周囲の眺めも決して悪くはない。万座山、横手山、志賀山といったルート沿いの山々が目の前にあり、その遙か向こうには3000m級の北アルプスの高峰群がそびえ立っている。
むしろ〝天空の回廊〟とでもいうべき圧倒的な眺めである。

万座温泉への分岐を過ぎると、ヘアピンカーブの連続となる。

ところで、これほどの雪山にどうやって道を通すのか気になる人も多いだろうが……。除雪を担当する北信建設事務所に話を伺うと、まずスキー場のゲレンデのようになった一面の雪原にブルドーザーを入れ、大まかに雪をどかして道を探し出し、ロータリー式の除雪車でクルマ1台分の道幅を確保、そのあと、ブレード付きの除雪車で少しずつ道幅を広げていくとのこと。熊の湯から殺生河原まで、冬の間、完全閉鎖される約20kmの道を掘り進んでいくのに例年20日ほどを要するそうだ。

山ノ内町の宇木地区には“古代桜”と呼ばれる一本桜が点在。写真は樹齢850年と推定される“千歳桜”。

雪の回廊を楽しめるのは連休明けの五月中旬頃まで

横手ドライブイン付近(通称“のぞき”)から笠ヶ岳方面を望む。遠くには北アルプスの高峰群が壁のようにそびえ立つ。

道路公団の有料道路として志賀草津道路が開通したのは1970年9月(国道292号として無料開放されたのは1992年11月)のこと。風光明媚な志賀高原を抜け、ふたつの有名温泉地を結ぶ道だけに、人工的な観光道路と思われがちだが、実はその歴史は意外と古い。

残雪の向こうに真っ白な岩肌を見せているのが草津白根山。近年、火山活動が活発になっているため、名所“湯釜”周辺への立ち入りは制限されている。

もともと渋峠を抜けていく道は、上州から善光寺へ向かう最短ルートに拓かれた参詣路で、かつては草津街道と呼ばれていた。険しい山道だけに誰もが気軽に歩ける道ではなかったが、江戸時代になると、中山道の追分(軽井沢の西)から善光寺経由で越後に至る北国街道に関所ができたため、裏街道として盛んに人や物が行き来するようになったという。志賀山麓の農民にとっては、荷担ぎや案内人の仕事は貴重な収入源にもなっていたのである。

クルマでは登れない横手山頂ヒュッテ。渋峠から電話をすると雪上車やスノーモビルで迎えに来てくれることもある。

「太平洋戦争前、ここは登山や山スキーで荒天に見舞われた時の避難小屋だったんだよ」
こんな話を聞かせてくれたのは、群馬/長野県境を跨いで建つ渋峠ホテルのご主人、児玉幹夫さんである。先代の父が、戦時中に朽ち果ててしまった避難小屋の跡地に宿を再建したのは昭和26年(1951年) 。昭和40年(1965年)に渋峠を抜ける自動車道(未舗装)が開通し、その5年後に志賀草津道路が完成。観光地として脚光を浴びはじめたため、国土地理院が綿密に測量をやり直したところ、長野県側にあると思っていたホテルの建物の真下を地図上の県境ラインが通っていたのだそうだ。

横手山頂ヒュッテの奥様が毎日焼き上げるパン。いまでは早々と売り切れてしまうほどの人気だが、標高が高いため、昔は失敗の連続だったという。

県境に位置する渋峠の標高が実際には2152mで、それより20m高い国道最高地点が峠の700mほど南寄りにあるのも、おそらくは当時の地図があまり正確ではなかったためではないかと児玉さんはおっしゃっていた。
「昔のことはよく知らないが、ホテルの前のお地蔵さんには、文化の年号が刻まれている。たぶん、かなり前の時代からこの峠を行き来する人はいたんだろうな」

渋峠ホテルで販売している日本国道最高地点到達証明(100円)。長野側から登って来た時は、くれぐれも渋峠で引き返すことなく、700mほど先の標高2172m地点まで必ず行くこと!

このお地蔵さんは、道路公団の拡張工事がはじまった時、よそに移されそうになったのだが、先代が「それだけは絶対にいかん!」と猛反対。道路の曲がり具合を微妙に変えたため、かつての草津街道の道端と変わらぬ場所にいまも鎮座しているのだそうだ。

館内にも群馬/長野県境のラインが引かれている渋峠ホテル。ガソリンスタンドを併設しているのも元・避難小屋ならでは。

渋峠3Dマップ

◎所在地:長野県山ノ内町/群馬県中之条町◎ルート:国道292号(志賀草津道路)◎標高:2172m◎区間距離:44.5km◎高低差:1607m◎冬季閉鎖:11月下旬-4月下旬

 

【A】横手山頂ヒュッテ(よこてさんちょうひゅって)

日本一高い!? 雲上のパン屋さん
標高2307mに建つ横手山頂ヒュッテ。ここの自慢は手作りパンで、平日でも昼頃には売り切れてしまうほど。レストランのメニューでは“きのこスープ”や“ボルシチセット”などが人気。●9:30-15:30(食事は14:30まで)/素泊まり7,560円から/0269-34-2430

横手山頂ヒュッテの人気メニュー“きのこスープ(1,000円)”。カップのクリームシチューをパンで閉じ込めてある。

【B】渋峠ホテル(しぶとうげほてる)

県境を跨いで建つ名物ホテル
戦後間もない時期から渋峠で営業を続ける老舗ホテル。駐車場にも、館内にも、群馬/長野の県境を示すラインが引いてある。ガソリンスタンドも併設していて、フロントに声をかければいつでも給油できる。●1泊2食付き12,960円から/0296-34-2606

【C】熊の湯ホテル(くまのゆほてる)

美しい翡翠色をした極上の湯
奥志賀スーパー林道との分岐から渋峠に向かって5kmほど上ったところにある宿。その特徴は黄緑をさらに鮮やかにしたような翡翠色の湯。一度は入ってみたい名湯だ。●1泊2食付き14,190円から/日帰り入浴1,000円(12:30-15:00)/0269-34-2311

【D】志賀高原歴史記念館(しがこうげんれきしきねんかん)

日本のリゾートの原点を凝縮
志賀高原ホテルは昭和の初期に全国の風光明媚な土地に建設された国策ホテルのひとつ。現在はその一部が見学施設になっている。近くの湧水でドリップしたコーヒーも味わえる。●入館無料/9:00-17:00/毎週木曜&冬季休館/0269-33-2597

【E】栄忠食堂(えいちゅうしょくどう)

信濃の郷土料理に舌鼓
山ノ内町や秋山郷に伝わる伝統料理“早そば”を味わえる店。茹でた千切り大根に水溶きそば粉を絡めていただく。写真はニジマスの煮浸しなどがセットになった“はやそば御膳(1,000円)”。●10:30-14:00(夜は予約のみ)/火曜定休/0269-33-6230

アクセスガイド

東京や新潟方面からだと関越道・渋川伊香保ICで降り、草津温泉経由が行くのがオーソドックス。ただし、これ以外にもアプローチルートはいろいろあり、軽井沢から2本の有料道路を走りつなぐ浅間白根火山ルートもお勧め。名古屋方面からは中央道・上信越道を走りつないで信州中野ICまで約300km。そこから渋峠までは約30km。

熊の湯ホテルの内湯は昔ながらの温泉宿の雰囲気がたっぷり。湯の色は驚くほど鮮やかなグリーンをしている。

中野市街の郷土(ごうど)食堂では、ヤマゴボウの葉をつなぎに使う富倉そばを味わえる。0269-23-0388

掲載データなどは2016年7月末時点のものです。実際におでかけの際は、事前に最新の情報をご確認ください。
LE VOLANT web編集部

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