
7代目3シリーズの上質な刺激と驚異の燃費
スポーツセダンとしてのポジショニングを歴代でもっとも際立たせて誕生した7代目3シリーズ。そのパフォーマンスはワインディングロード編でも検証済だが、ここでは高速道路と一般路に加えワインディングロードも観光ドライブ気分で駆けぬける約800kmのロングツーリングを実施。新型3シリーズの真価に迫ってみた。
330iを走らせると、クルマに誘われるままにハイペースになりがちだ。BMWは誘いかけが巧みなのだが、それを受け入れてしまう自分の性格も影響していると思う。ただ、休日にロングツーリングへと出掛ける場面ともなれば、ハイペースが維持できるとは限らない。そこで、新たな330iオーナーの走らせ方を想像しつつ、長距離ドライブのシミュレーションをしてみた。
都内をスタートして約45km先にある東名高速の海老名SAに向かう。平日の早朝は横浜町田IC付近で交通集中による渋滞が発生する。そんな場面でも、標準装備であるストップ&ゴー機能付アクティブ・クルーズ・コントロールを作動させれば、ノロノロとした流れにもストレスを感じない。SAで取材スタッフと合流し、いよいよロングツーリングの本番となる。
ルートは、まず御殿場JCTから新東名高速に入り、浜松いさなJCTから三ヶ日JCT経由で東名高速に戻り浜名湖SAまで。この間から燃費を計測していく。あえてアクティブ・クルーズ・コントロールは作動させず、自分の“黄金の右足”を信じて走行モードも燃費優先の「ECO PRO」ではなく「COMFORT」のままで好燃費を目指す。ちなみに、海老名SAと浜名湖SA間の距離は230km近く、標高差は約20mだから平均勾配の影響は無視できるはずだ。
交通量は多いものの、流れが滞るほどではない。すべての先行車を抜き去るペースで走らせたいところだが、そんな気持ちを抑えて走行車線の流れに合わせる。速度にして95km/h前後であり、エンジン回転数は1000rpm台の前半を維持する。秦野中井ICを越えるあたりから勾配の変化が大きくなるものの、モニターに表示される燃費は向上し続け、大井松田の先では早くも20km/Lを超えてしまった。
2012年の従来型(F30)がデビューした当時を振り返ると、328iで計測した高速燃費は18.9km/Lであった。それでも、当時のリポートには「エンジンの力強さを考えれば驚異的な結果」と記している。ところが、新型の330iは最高出力が13ps、最大トルクは50Nmも上乗せされたにも関わらず、燃費が大幅に向上しているわけだ。
自慢の“黄金の右足”が省燃費で“キカイ”に負けた!?
大井松田ICから御殿場ICまでは、キツい上り勾配が連続する。それでも、アクセルペダルを踏み込む必要はない。せいぜい、ミリ単位で踏み足すだけで速度が維持できる。この行程で8速から7速にシフトダウンされたのは2度だけ。高いギアではレシオが接近しているので、エンジン回転数の上昇は300rpm程度だ。エンジン音のボリュームが増すこともない。こうしたフィーリングが、力強さの余裕に結びつく。
当然、20km/L超の燃費にも少なからず影響するが、それでも東名高速・御殿場IC付近の「最高標高454m」看板を通過する際に17.2km/Lを示すにとどまった。御殿場から先は、浜名湖SAまで平均勾配は下りになる。ただ、新東名高速は勾配の変化が分かりにくいだけに燃費の計測には不向き。交通量が少なくても先行車の速度変化が大きくなりがちなのだ。
上り勾配では大型トラックを追い越す必要が生じる。ただ、アクセルを踏み込む必要はなく少し踏み足せば十分。モニターにトルクメーターを表示すると、高いギアで1500rpm以下をキープしても、アクセルを踏み込むまでもなく200Nmを超えるトルクが発揮される。この数値は、ターボを組み合わせていないエンジンを積んでいた当時の320iの最大トルクと一致するので、力強さに余裕があるのは当然といえる。この時点で21km/L以上の燃費を記録した。
また、高速道路でのクルージングは快適そのものだ。エンジン音は耳に届かず、平滑な路面からはロードノイズも聞こえない。風切り音も気にならず、こうした場面での静粛性の高さは5シリーズに迫る。
浜松いさなJCTから浜名湖SAまでは、急な下り勾配が連続する。この区間で、燃費を伸ばしたいところ。実際に、モニターに表示される燃費は見る間に向上し、結果的には21.7km/L(平均速度93.1km/h)を記録。想像を大きく上回る好燃費だ。
浜名湖SAから静岡ICを目指す。この間は、走行モードを「ECO PRO」に、アクティブ・クルーズ・コントロールを95km/hに設定したクルマ任せにしてみた。リポーターの“黄金の右足”と“キカイ”の燃費勝負だ。結果は、リポーターの惨敗。なんと、23.0km/L(平均速度92.9km/h)にまで到達したのだ。もはやハイブリッド車の燃費に匹敵する記録だ。
惨敗の理由として、交通の流れが整っていたことや強めの追い風(風速9m)も影響しているだろう。だが、330iというより新型3シリーズに与えられた、Cd値(空気抵抗係数)0.23という優れたエアロダイナミクス性能の効果も見逃せない。いかにも空力が良さそうなトヨタ・プリウスでもCd値0.24だ。そういえば、新東名高速を走行中に先行車に追いつきアクセルを戻しても、失速感がほとんどなかった。印象としては、駆動系に余計なフリクションがないことも好燃費に結びついていそうだ。
新型3シリーズはエクステリアとインテリアの質感が大幅に向上。大柄なリポーターのドラポジに合わせて後席に移っても乗車スペースには余裕がある。
ワインディングを駆けぬけてもほとんど燃費には影響ない
静岡ICで東名高速を降りて、密かな目的であった尾頭付きの鰻にありつく。実は、当日の最終目的地を南伊豆町にしたのも、ウマシな海鮮にありつくため。ロングツーリングには、グルメな動機も必要なのだ。
さて、静岡ICからは主に国道1号線を走り一般路の燃費を計測。平均速度が26.1km/hという流れが整った幹線道路区間では11.8km/Lを記録した。330iの好燃費は高速番長というわけではないのだ。
富士川SAのスマートICで再び東名高速に入り、沼津IC経由で伊豆縦貫道の修善寺ICを降りる。ここからは、標高が約800mの西伊豆スカイラインまで駆け上がる。いつもなら、「SPORT+」モードをにしてシフトパドルをマニュアル操作しつつコーナーを攻めたくなるところだ。ただ、今回はロングツーリングのシミュレーション。観光ドライブよりは少しハイペースかもしれないが、「COMFORT」モードにしてATはDレンジを保つ。
それでも、エンジン回転数は3000rpm以下。中回転域ともなると、高速道路や一般路で感じた力強さの余裕ではなくトルクのブ厚さが伝わる。コーナーの立ち上がりでアクセルを踏み足せば加速Gが腰のあたりを押す感覚が確かめられた。リセットした燃費は7km/L台まで低下するが、4L自然吸気式エンジンに匹敵する最大トルクを考えれば、納得して余りある数値だ。
西伊豆スカイラインの、戸田峠から船原峠まで伊豆半島駿河湾側の稜線を通るルートは絶景が楽しめる。ダンパーの減衰力を可変制御するアダプティブMサスペンションは、走行モード「COMFORT」ならコーナリング中のロールがジワーッという感じで穏やかに進行する。「SPORT」モードで減衰力が高めの領域に保たれればフラットな姿勢でコーナーを駆けぬけることもできる。だが、適度なロールはステアリング操作に対してクルマが正確なハンドリングを示す実感につながるので都合がいい。ステアリングの切れ味は5シリーズのスッキリ系とは異なるが、手応えが重すぎないから長距離ドライブの負担が軽い。
西伊豆スカイラインから、伊豆半島を縦断する国道414号線までは下り勾配が連続する。7km/L台だった燃費は10km/L台まで回復。つまり、一般路と大差がない燃費でワインディングロードの走りが楽しめたわけだ。なんだかトクをした気分。
さあ、残りは下田市を経由して南伊豆町を目指すだけだ。ここまで600km近く走っているが、まったく疲労は感じない。それどころか、上質な刺激を体験し驚異の燃費を記録した達成感さえある。しかも、宿泊先でたいらげた金目鯛やタカアシガニのウマシなことといったら……。まさに、ロングツーリングの醍醐味といえる。
翌日は、南伊豆町や東伊豆町で旅情感たっぷりなシーンを経由して帰路に着く。総走行距離は約800km、平均燃費は16.9km/h。もちろん330iは無給油で走破した。
【Specification】BMW 330i Mスポーツ
■ハンドル位置=右
■全長×全幅×全高=4715×1825×1430mm
■ホイールベース=2850mm
■トレッド=前1585、後1570mm
■最小回転半径=5.3m
■燃料タンク容量=59L
■JC08モード燃費=15.7km/L
■車両重量=1630kg
■トランスミッション形式=8速AT
■変速比=1速5.250、2速3.360、3速2.172、4速1.720、5速1.316、6速1.000、7速0.822、8速0.640、R3.712、F2.813
■エンジン型式/種類=B48B20B/直4ターボ
■総排気量=1998cc
■圧縮比=10.2
■最高出力=190kW(258ps)/5000rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/1550-4400rpm
■サスペンション形式=前ストラット、後5リンク
■ブレーキ=前後Vディスク
■ステアリング=EPS
■タイヤ(ホイール)サイズ=前225/45R18(7.5J)、後255/40R18(8.5J)
■車両本体価格=6,320,000円
【問い合わせ】
BMWジャパン 0120-269-437 https://www.bmw.co.jp/