主役はクルマではなくドライバー
今回借り出したのはスポーツシリーズの570Sクーペと、スーパーシリーズの720Sスパイダーである。570Sと720Sの違いはザックリ言えばエンジンとシャシー構造にある。
570Sの“モノセルII”はCFRP製のいわゆるバスタブ構造で、前後のバルクヘッドとキャビンのフロアが一体型となっている。重量はわずか75kgしかなく、ボディ中心部が極めて頑強な作りになっている。720Sは“モノケージII”と呼ばれ、570SのモノセルIIにAピラー/ルーフ/Cピラーまでが一体になったような構造が特徴である。720Sスパイダーはオープンなのでルーフの前後方向に伸びる部分が省かれているものの、追加の補強は必要なかったという。
エンジンは570Sが3.8LのV8ツインターボ、720Sが4LのV8ツインターボで、車名の数値がそれぞれ最高出力を示している。車検証によれば、570Sは前軸重610kg:後軸重840kg(計1450kg)、720Sスパイダーが同620kg:850kg(計1470kg)。ミッドシップなのでリアが若干重いものの後輪にしっかりと荷重かかかって最適なトラクションを得やすい。いずれにせよ、どちらも1500kg以内に抑えているのは流石である。
加速感は当然のことながら720Sのほうが力強く実際の速度上昇も早いものの、ペダルに対するレスポンスやパワーデリバリーの感触は両車に大差がない。右足の動きと後輪のトラクションのかかり具合が、まるで直接つながっているかのようにシンクロしており、わずかな動きにも踏み込む速度にもきちんと反応する。それでいて適度な踏力が必要だから、ナーバスで扱いにくいということもない。
このダイレクト感は操縦性でも感じる。目で見た視覚情報がいったん脳に送られてから両手に伝えられてステアリングをさばき、するとタイヤが動きコーナーリングフォースが立ち上がって車体が向きを変え始める。この一連の流れが実にスムーズで、途中でリズムが乱されることなくまさに思う通りにクルマが動くのである。もっと微細なコントロールがしてみたくなったらハンドリングモード/パワートレインモードをそれぞれいじってみればいい。570Sならノーマル/スポーツ/トラック、720Sならコンフォート/スポーツ/トラックから好みのセッティングを選択できる。
720Sはそのままサーキットへ向かいレースに参戦してもどうにかなるくらいのポテンシャルを持つ。570Sはオンロードで最高のパフォーマンスが引き出せる。いずれも、あくまでも主役はクルマではなくドライバーであり、意に背いたりおせっかいなサポートは絶対にしない。純粋に運転が楽しめる。これこそが、マクラーレンの真骨頂なのである。