M3やAMG C63に乗っている感覚
どちらもボディサイズが大きく、日本の狭いワインディングロードでは持て余すかと思いきや、そんなことはまったくなかった。全幅が200mm近くも狭いM3やAMG C63などDセグメントカーにでも乗っている感覚でスイスイとコーナーを駆けぬけていける。それはもちろん、ハンドリングの正確性が高く、狙った通りのコーナリングラインを描けていけるからだ。これもまた実力は拮抗しているが、フィーリングは異なる。
M8コンペティションはボディの補強などを徹底的に行ない基本のシャシー性能を高めることで、あまりハイテクに頼ることなく高い実力を得ている。ダンパーはアダプティブでスタビライザーが電子制御というところはハイテクだが、それ以外はコンベンショナルでリアステアなどは使っていない。
コーナーへ向けてステアリングを切り込んでいくと、初期のほんのわずかなところでロールを感じ、スイッと外側のフロントタイヤに荷重がのって曲がる力が発生していくというプロセスがとにかくわかりやすい。縦横無尽にワインディングロードを駆け巡っていると、4つのタイヤを上手に使えている感覚があって自在にコントロールできる。xDriveはスポーツモードにしておけばFR的で、リアタイヤが限界を超えようとするとフロントへ駆動配分して安定性を保つ自然なもの。AWDだからつまらないのでは? などという心配はまったく無用だ。
AMG GT63SはAMGリア・アクスルステアをハンドリングの武器としている。約100km/h以下ではリアが最大1.3°まで逆位相となって旋回能力を引き上げ、それ以上の速度域では最大0.5°までの同位相で安定性を確保。最近はスポーツカーでの採用例が増えてきているが、驚くべきはAMG GT63Sの違和感がまったくないフィーリングだ。前後左右の駆動力配分と相まってそれなりに複雑な制御がなされているはずだが、ドライバーは本能が赴くままにステアリングにアクセル、ブレーキを操作していくだけで思った通りにコーナリングできる。電子制御などを完璧に躾けて味方につけているのだ。
シャシー性能およびハンドリングに関しては、本当に甲乙つけがたいのだが、AMG GT63Sのほうがより万人向けでどんな場面でも安心感があるのに対して、M8コンペティションは基本性能で勝負しているゆえか、たとえば意図的に振り回し気味に乗ってみようなどというドライバーの意思が、より通じやすいという思いはある。そして軽量に仕上がっているのもハイテクに頼らないメリットだ。
個人的には以前のメルセデスAMGは、圧倒的なパフォーマンスと引き換えにどこか荒削りなところがあると思っていたが、最近は洗練度が凄まじく高まっている。M8コンペティションは相変わらず繊細なところまでスポーティなフィーリングが行き届いているが、AMG GT63Sもネガはまったくなく、わかりやすい迫力という魅力がある。ブランドの威信がかかったスーパーGTの2台は、まさにガチンコと呼ぶに相応しいライバル関係にあるのだ。