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【比較対決】「メルセデス・ベンツAクラス vs BMW 1シリーズ」真のプレミアムコンパクトは?

ご存じ3世代目となった新型1シリーズは、ついにFRからFF主体のレイアウトを採用した。いうまでもなくライバルのAクラスはひと足先にFFを採用したセンパイである。プレミアムコンパクトの筆頭でもあるこの2台、どのように味付けが異なるのだろうか?

FR時代よりも素直で快活/BMW 118i xPlay・山田弘樹

1シリーズとAクラス。両者ともに老舗メーカーのエントリーモデルという大役を背負ったグレードであることを考えると、ボクは1シリーズの方が、より若々しくて“らしさ”があると思う。

BMW 118i xPlay/モダンな感性が織りなすインテリアは、質感の高さとともにこれまで以上に広々としたスペースを確保している。

ご存じ1シリーズは伝統のFRレイアウトをミニやX1由来のFFベースへと改めた。熱心なマニアはこれに眉をしかめたはずだが、そんな我々以上にBMWは、この変革を大事として捕らえていたのではなかろうか。そして彼らは結果として新型1シリーズのハンドリングに、FR時代以上の自由度を与えたとボクは感じた。
特にベーシックモデルである118iの身のこなしは素晴らしい。アクセルのオン/オフに対して前後の足まわりを柔軟にストロークさせ、積極的な荷重移動によってリニアな操縦性を生み出しているから運転が楽しいのだ。アクセルオンで安定を得る前輪駆動の特性をフルに活かした操舵応答性は、むしろ不特定多数のユーザーが不用意にアクセルを踏み込むことを想定して、コンサバにセットしたFR時代よりも素直で快活だ。
そしてこんなに気持ち良いFF車を作れたのは当然、これまでBMWがFR路線を貫いてきたからである。もちろんそこにはミニで得たノウハウも活かされているだろう。しかし1シリーズはあくまで「BMWのFF」として、新たな路線をスタートさせたのである。
また1シリーズのFF化は、コンパクトセグメントに4WDの選択肢をも与えた。M135iの価格(633万円)を見てもFF化によるコストダウンが定価に反映されているとは到底思えない。今後出て来るであろう中間グレードも決して安くはないだろうけれど、少なくともコンパクトなBMWに乗りたいユーザーが4WDを選べるようになったことは評価できる。
肝心なAシリーズとの比較は、A180と118iのようなベーシックグレードではBMWの方がよりナチュラルな乗り味を示す。これはBMWは118iのようなグレードにもリア・マルチリンクサスを与えた影響が大きいと思う。
対してA35とM135iのような上級グレード比較では、メルセデスの方が質感高く大人びている。彼らのお金を積むほどに良いモノを出すやり方は実に欧州貴族社会的。かたやBMWはMの文字が付いた途端に鼻息が荒くなり、そのハンドリングもマニアックになる。
どっしりとした安定性を土台に切れ味鋭い高性能エンジンの楽しみを提供するA35に対して、同じ4WDとは思えないほど曲がりたがりなM135iを楽しいと捕らえるか、子供っぽいと笑うかは乗り手次第。個人的には118i推しだが、ともかく1シリーズはエントリーモデルならではの若さと、BMWらしさを併せ持っている。

シンプルで大人っぽいスタイリングも魅力/MERCEDES-BENZ A180style・藤野太一

正直に言えば、走ることにおいてこのベーシックモデル対決は、1シリーズに分があると思う。ではなぜAクラスを選ぶのかといえば、メルセデスらしく安全に注力しているから、という答えになる。

MERCEDES-BENZ A180style/対話型インフォテインメントシステムのMBUX。その最大の特長のひとつが、人工知能による学習機能である。

「Aクラスにはふたつの原則がある。“Go first”(一番乗り)と“Grow up”(成長)だ。20年前、当時ESP(横滑り防止装置)はSクラスのみのテクノロジーだった。それを初代Aクラスは備えていた。そして先代のAクラスはエクステリアデザインにおいて、メルセデスの歴史上最大級の変革を遂げ、若い世代へのアプローチに成功した」
これは2018年に行なわれた現行Aクラスのワールドプレミアの会場に登壇した当時のダイムラー会長、ディーター・ツェッチェ氏の言葉だ。そこで披露された現行型は、メルセデスの最新デザイン語法“センシュアル・ピュリティ=官能的な純粋さ”に基づき、無駄な線を省いたシンプルで大人っぽいスタイリングになっていた。
そして、一番乗りのアイテムといえば、MBUXだ。AIを活用した音声入力システムで、 「ハイ、メルセデス」と話しかければ、エアコンの温度を調整したり、好きな音楽をかけたり、さまざまな操作が可能なものだ。導入時は物珍しさをあってどこかギミックのように捉えられてきた面もあるが、実際のところメルセデスの本当の狙いは、スイッチ類を探す行為を省き、ドライバーが前方から目を離す機会を減らして安全性を高めようというものだ。またADAS(先進運転支援システム)に関しても、かつてのようにEクラスやSクラスなど上級モデルにのみ採用するのではなく、量販モデルにこそ早く投入すべきというポリシーから、Aクラスにもオプションで用意されている。6月末までウェブサイトの「プレオーダーメルセデス」から申し込みすれば、約25万円のレーダーセーフティパッケージが無料になるキャンペーンを行っている。もはやAクラスにも標準装備すべきと言ってもいいくらいの必須アイテムだと思う。
試乗車のA180は、1331ccゆえお世辞にも速いわけじゃないが、街乗りに使う分には不満はない。ハンドリングもメルセデスらしく、シャープすぎず素直な味付けだ。もし長距離ドライブによく出かけるという人であれば、よりトルクフルなディーゼルのA200dをおすすめする。
安全上、MBUXでは窓ガラスやサンルーフの開閉はできないようになっていると聞いていた。試しに「サンルーフを開けて」と話しかけると、かつては無反応だった。それが今は「スライディングルーフのブラインドを開けます」と答え、シェイドがあいた。まさに成長を感じた瞬間だった。

リポート=山田弘樹/K.Yamada(1シリーズ)、藤野太一/T.Fujino(Aクラス) フォト=柏田芳敬/Y.Kashiwada ルボラン2020年8月号より転載
LE VOLANT web編集部

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