※この記事は2004年12月に発売された「VW GOLF FAN Vol.2」から転載したものです。
GTIは“特別な存在”?
フォルクスワーゲンは様々な意味を込め「GTI IS BACK」という。これまでがGTIらしくなかったことの反省、新型はよりGTIらしくありたいという願望。彼らのGTIに対する思い入れの強さは実に相当なものなのである。では、新しいGTIは一体どういうクルマなのか。
生産型のゴルフGTIが発表された今年のパリ・サロンでインタビューした、フォルクスワーゲンの技術担当取締役、ヴィルフリード・ボッケルマン氏は。
「私が開発陣に望んだのは、“ホンモノのGTI”を作るということです。初期の頃のGTIに回帰して“ホンモノのGTI”たらんことを目指したのです」と、いっていた。
そう、フォルクスワーゲンが今度のGTIで初期の頃のGTIに回帰するとした背景は、有り体にいってしまうと、GTIが世代を経るにつれ“特別な存在”ではなくなってきてしまったからだ。
’76年に登場した初代、Ⅰ型のGTIは、小さなボディにフュエルインジェクションを装着したSOHC1.6リッター、110psのエンジンを搭載。コンパクトカーとしては驚くべき高性能を発揮して、上級車あるいは高級車に顔色を失わせた。それまでは厳然としてあったアウトバーン上のヒエラルキー、つまり追い越し車線を走れるのはメルセデスやBMW、ポルシェといったそれなりの格、権威を持ったクルマだけという暗黙の了解を、その高性能でいとも簡単に打ち破ってみせたのだ。その圧倒的な人気を他のメーカーが看過するわけがなく、次々と同種のクルマを世に送り出し、結果として、ゴルフGTIは“GTIカテゴリー”という新しいジャンルを生み出すことになる。クラスレスといわれるゴルフのなかでも、GTIは“特別な存在”となっていくのである。
しかし、GTIも3代目ともなると、かつての威光は衰え始める。IIIのGTIは、IIに比較してやや大きく重くなったボディをカバーすべく、シリーズ唯一の2リッターDOHCエンジンを搭載したものの、IIのGTIが持っていたキビキビとした操縦感覚は失っていた。総合的には、IIのGTIを上回る速さを実現していたが、スポーティな感覚は薄れてしまっていた。4代目、IVのGTIはGTI史上初めてターボチャージャーを装着し、高性能化しての差別化を図ったが、結果的には、シリーズのスポーツレンジの最高峰というだけであって、“特別な存在”にはなり得なかった。人気モデルではあったが、かつてのような存在感は示せなかった。
かつての栄光を知るだけに、フォルクスワーゲンも悩んでいたといえるかもしれない。だからこそ、彼らは初期のGTIへの回帰を謳い、新型が“ホンモノのGTI”であることを標榜するのだ。