
スポーティな走りを楽しむなら、やっぱりFRでしょ? というアナタ。確かにおっしゃる通り。だけど、ちょっと待ってください! いまやBMWのエントリーモデルには扱いやすいボディサイズで、ハッチバック、セダン、SUV、ミニバンと、好みと使い勝手に合わせて選択できる豊富なFFモデルが揃っているのです。それを試さない手はないのでは?
エンジン横置きBMWの魅力を導き出す
エンジン縦置き+後輪駆動のパワートレインをいまだに主軸としているBMWとメルセデスの「下からふたつのシリーズ」、つまりBMWなら1/2シリーズ、メルセデスならA/Bクラス、それらの派生モデルのX1/X2シリーズとGLA/GLBシリーズは、いずれもエンジン横置き+前輪駆動がベースとなっている。

BMW M135i xDrive/ついにFRからFF主体のレイアウトを採用した1シリーズ。試乗車のM135iはメッシュデザインのキドニーグリル、Mリアスポイラーをはじめとする特別装備と、4WDのxDriveを採用すたエントリーモデルらしからぬパフォーマンスを発揮する。
パッケージの観点からすれば、縦置きよりも横置きのほうがパワートレインのキャビンへの侵食が少なく、小さな外形でも大きな室内空間を確保しやすいし、コストが抑制できる。世界中のコンパクトカーのほとんどすべてがFFの駆動形式を採用している潮流もそれが理由で、BMWとメルセデスの判断は必然とも言える。
編集部から「BMWのベストFFコンパクトを探せ」みたいなことを仰せつかったが、厳密に言えばxDriveの4WDもあるわけで、要するに「エンジン横置きBMWの魅力を導き出せ」ということだろうと解釈した。皆さんもご存じのように、“2シリーズ”と言っても従来のプラットフォームを使い続けているクーペやカブリオレやM2はいまだエンジン縦置きのFRが基本なので、今回の特集には含まれない。でも、もはやコンパクトFRというのはBMWの2シリーズクーペ/カブリオレ/M2くらいしか世の中には見当たらないので、“有形文化財”的な大変貴重な存在となったのも事実である。また、あえてオーソドックスなX1にもご遠慮いただいたようだ。「そのほうが個性が際立つモデルばかりが揃ってなんだか楽しそう!」という楽天家の担当編集者の意向である。
FF化のメリットが感じられる1シリーズ
現行の1シリーズは“ARB”と呼ばれる機能を備えている。これは簡単に言うと反応がすこぶる早いトラクションコントロールのようなもの。そもそもARBが最初に導入されたのはi3で、急激にトルクが立ち上がることによるパワーアンダーステアを抑える目的だった。1シリーズはi3ほどのパワーを持ち合わせていないものの、旋回中に駆動力をかけて挙動が乱れるような場面で有効なデバイスだ。つまり、基本的にARBはスロットルペダルを踏まないと作動しない。
1シリーズのターンインでの頭の入り方がまるでFRのようで、それがARBの効果であるとする向きもあるようだけれど、セオリー通りの運転をしていれば、減速の後のターンインの段階ではスロットペダルを踏んでいないはずなのでARBの影響とは考えにくい。むしろ、“BMWパフォーマンスコントロール”が作用していると考えられる。これはブレーキを使ったトルクベクタリング機構で、旋回中にイン側の車輪にブレーキをかけることでLSDに似た効用が期待できる。実際1シリーズは、エイペックスに向かって磁石で引き寄せられるような頭の入り方をする。こうした挙動はFFではあまり見かけない。FRの駆動形式に長くこだわってきたBMWの、FFの操縦性に対する新しい提案なのだろう。
ハンドリングに特徴付けをした1シリーズで、実は個人的に感心したのはパッケージである。従来型の後席は大人ふたりにはちょっと厳しかったが、現行モデルになってそれが大きく改善されていた。さまざまな事情や都合でFF化されたものの、FFとしてのメリットをきちんと反映させたクルマ作りの現れである。
ルックスも走りもスポーティなX2
X2は2018年に登場したコンパクトSUVで、車名の数値が“偶数”であることからも分かるように、パッケージよりもスタイリングに重き置いたSUVである。1シリーズにはB38A15A型の直列3気筒1.5Lエンジンと、B47C20B型の2L直列4気筒ディーゼル、そしてM135iのB48A20E型の2L直列4気筒の3タイプのエンジンが用意されているが、X2はこれらにB47C20Bのパワースペック違いとB48A20A型という2L直列4気筒ガソリンエンジンを加えた計5種類から選べるようになっている。駆動形式は廉価モデルのsDrive以外、すべて4WDとなる。
X2の最大の特徴はその全高だろう。大きなタイヤを履くSUVルックでありながら、全高は1535mm。これは都市部で生活する者にとってみれば、機械式駐車場に躊躇なく突っ込んでいけるなんともありがたい数値である。いくら経済的余裕があっても駐車場スペースという物理的余裕がなければクルマは購入できないからだ。

BMW X2 xDrive 20d M SPORT X EDITION JOY+/BMWのXモデルらしいオフロード性能と都会的な存在感を併せ持つコンパクトモデル。試乗車の20dは18dとは同じ2Lだが、プラス40psを誇るX1には採用されないパワフル系クリーンディーゼルモデルだ。
X2は廉価版の“スタンダード”以外、すべてのグレードは“Mスポーツ”(とM35i)で、スポーツサスペンションと19インチのタイヤ&ホイールを装着している。これが操舵の初期応答性をちょっと過剰なくらいよくしているとともに、路面からの入力が身体まで伝わる硬めの乗り心地を提供する。スポーティな乗り味をご所望であればそれでもいいが、個人的には17インチとノーマルサスの組み合わせの“スタンダード”のほうが穏やかにドライブできると思う。
乗り心地重視の快適ミニバン
穏やかなドライブということであれば、2シリーズのアクティブツアラー/グランツアラーはまさにそういうセッティングになっている。そもそも“M”が付くグレードはないし、グランツアラーは全車17インチ、アクティブツアラーには16インチの設定もある。

BMW 218i GRAN TOURER LUXURY/BMW初のコンパクト・マルチ・パーパス・ビークル(MPV)として、スポーティな走行性能と広い室内空間、快適性、安全性を備えたグランツアラー。3列目シートを使用すれば最大7名まで乗車可能となる。
実際、この2モデルは望外に乗り心地がよく快適だ。我々にいつも供される広報車両は、いわゆる“映え”を狙って大径のホイールを履く場合が多いのだけれど、このツアラー系はそもそも設定がなく、「ホイールが小さいとこんなに乗り心地がいいのか」と驚くわけである。
見栄えやスポーティな操縦性を重視する人ばかりではないだろうから、ツアラー系以外の車種でも小径ホイールの仕様も検討してみたらいいのではないだろうか。 ツアラー系はパッケージ優先なので、室内の広さも特徴のひとつ。小さくない“ミニバン”が蔓延る中にあって、この2台こそまさしくミニバンだろう。人にも荷物にも優しいしつらえになっている。
ミニとは一線を画すBMWのFFモデル
グランクーペは4枚ドアのエンジン横置きモデルの中で、唯一の3ボックスである。3ボックスの優位性についてはこれまで何度か触れてきたように、ボディ剛性やNVで2ボックスよりも有利な構造となっている。
メルセデスはグランクーペの競合車であるCLAの他に、アウディA3セダンとも戦うべくAクラス・セダンも追加導入したが、BMWはいまのことろフレームレスドアのボディ形状のみである。本当にフレームレスドア=スポーティな印象なのかどうか、個人的には釈然としないけれど、世の中的にはそういうことになっているらしい。
後席によってキャビンとトランクが仕切られるため、後方のこもり音の類は気にならずしっかりとしたボディの剛性感も伝わってくる。そのおかげで18インチでも減衰が速いので、2ボックスの18インチよりも乗り心地はいくらか改善されている。試乗車は218dのディーゼルだったが、ディーゼル特有の音や振動はほとんど気にならなかった。トランスミッションはガソリンエンジンがDCTであるのに対してディーゼルはATであるものの、シフトマナーはまったく申し分なかった。
当初は「前輪駆動のビーエムかよ」とか「中身はミニと一緒」などと揶揄されたものの、月日の経過とともに進化を遂げ、いまではミニとも違うBMWらしいFFベースのクルマにいずれもなっていた。ボディやエンジンのバリエーションも豊富なことも魅力だが、やっぱり価格がフレンドリー(一部グレードはそうでもない)であることに親近感が湧くのである。
【Specification】BMW M135i xDrive
○パッケージの改善による後席空間の余裕
×ややスポーティが過ぎるハンドリング
■全長×全幅×全高=4355×1800×1465mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1580kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1998cc
■最高出力=306ps(225kW)/5000rpm
■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/1750-4500rpm
■サスペンション=(前)ストラット、(後)マルチリンク
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤサイズ=(前後)225/40R18
■車両本体価格(税込)=6,330,000円
【Specification】BMW 218i GRAN TOURER LUXURY
○乗り心地や居住性といった快適性の高さ
×他よりも垢抜けない感じがするスタイリング
■全長×全幅×全高=4585×1800×1640mm
■ホイールベース=2780mm
■車両重量=1590kg
■エンジン種類/排気量=直3DOHC12V+ターボ/1498cc
■最高出力=140ps(103kW)/4600rpm
■最大トルク=220Nm(22.4kg-m)/1480-4200rpm
■サスペンション=(前)ストラット、(後)マルチリンク
■ブレーキ=(前)Vディスク、(後)ディスク
■タイヤサイズ=(前後)205/55R17
■車両本体価格(税込)=4,810,000円
【Specification】BMW X2 xDrive 20d M SPORT X EDITION JOY+
○機械式駐車場にも収まる使い勝手のいいサイズ
×乗り心地が全般的に硬めなのは残念
■全長×全幅×全高=4375×1825×1535mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1680kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1995cc
■最高出力=190ps(140kW)/4000rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/1750-2500rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=(前)ストラット、(後)マルチリンク
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤサイズ=(前後)225/45R19
■車両本体価格(税込)=5,360,000円
【Specification】BMW 218d GRAN COUPE PLAY EDITION JOY+
○走る/曲がる/止まるのバランスがいい
×ここはイヤだなと思う大きなバツはなし
■全長×全幅×全高=4535×1800×1430mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1510kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1995cc
■最高出力=150ps(110kW)/4000rpm
■最大トルク=350Nm(35.7kg-m)/1750-2500rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤサイズ=(前後)205/55R16
■車両本体価格(税込)=4,200,000円