コラム

【2020秋・バスファン向けツアー】その1京阪京都交通の“幕車”で狭隘路線を走る

いろいろなことが難しかった2020年もそろそろ秋かというころ、バス会社がマニアックなツアーを4つ企画しました。
その内の一つは残念ながら最少催行人員に達しなかったため中止になってしまいましたが、他の3つは臨時日も設定されるほどのものもあるなど大盛況。
それぞれにテーマがありなかなかに楽しいツアーだったので内容をぜひお知らせしたいと思い3回に分けてお届けすることにいたしました。
第1回は京阪京都交通が主催した“残りわずか!方向幕車両の記録会と狭隘路を満喫!!”です。2000年式日野ブルーリボン(KC-HU2MMCA)と三菱ふそうエアロスター(KC-717M)の2台に乗って撮りました。

ツアーの起点はJR亀岡駅。京都パープルサンガのホームスタジアムとサッカーボールのオブジェ、そして検温と消毒セットがお出迎え。

こんな車両で丹波路を走ります。

残りわずかの方向幕車両で狭隘路をゆく

こんなところ大型バスで走れるか?すれ違えるか?曲がれるか?というようなことを思うバス路線のことを狭隘路線と呼びますが、このツアーではできる限り実際に運行されている京阪京都交通随一の狭隘路線を走ることがハイライトになっていました。
40系統JR亀岡駅南口からJR園部駅西口間の路線なのですが、本当に狭くて距離が長い。亀岡からしばらくは国道なので広いのですが、一歩集落に入ると途端に狭くなります。
ほとんどの区間ですれ違いができない。遠くに対向車が見えるとどの場所でどちらが避けるのかを瞬時に計らなければなりません。この間合いを間違えるとバックしてもらったり、一度横道に入ってもらったりしなければならなくなります。でも乗用車のほとんどが地元のドライバーなので、片道平日11本、土休日6本のダイヤを感覚で覚えていてそのあたりは心得ているのでそんなことはめったに起こらないそうです。しかしこの日はツアーの貸切でダイヤにないタイミングでの通過だったので、「あれ、なんでこの時間に?」と不思議そうにすれ違うクルマもありました。
とにかく先読み力とテクニックが問われる路線です。

撮影のために立ち寄ったドライブインも絶滅危惧種

昼食休憩と撮影のために京都府京丹波町蒲生にあった“ドライブインやまがた屋”に立ち寄りました。
ドライブインという名称もすっかり見かけなくなりましたが、ここも2020年11月末に60年の歴史に幕を下ろしてしまいました。
店内は現代の道の駅風の部分もありましたが基本的には昭和の香り漂う懐かしい空間。中年以上の人は子どものころに一度は家族で立ち寄ったことでしょう。
全盛期はやはり1970年代。バスやマイカーでの旅行が盛んになったころ。団体を受け入れていた老舗旅館やドライブインには必ず掲示されていた旅行会社や協会の指定サインがたくさんありました。懐かしい。
京都縦貫道が開通したためこの場所を通るクルマが極端に減ってしまったのが一番大きな要因のようですが、便利になった陰でひっそりとこういうことが日本各地で起こっているのでしょう。
2020年度中に消滅する“幕車”で2020年に廃業してしまうドライブインに立ち寄るなんて昭和後期に人生の全盛期を過ごした人は泣きそうな演出です。
私が乗車参加した9月22日と撮影参加した10月17日のツアーに使われたバスは両日とも2台なのですが、10月17日の方は事情で“Tカー”が出動したためこの日この場所でだけは3台が並んだので、あいにくの雨模様でしたがラッキーでした。

目当てのバス部品に目が血走る

終点だった西日本ジェイアールバス京丹波営業所内の桧山駅ではまず塲田営業所長より園福線および桧山駅の歴史についての説明、続いて両社のバス部品やグッズ販売がありました。
ちなみに営業所隣接のバス停の正式名称は“桧山”ですが鉄道の駅舎のような建屋には“桧山駅”の表示があります。時刻表に奈良交通カラーのボンネットバスのイラストが描かれています。なぜでしょう?気になる方は調べてみてください。
バリエーション豊富な町営バスも多くやってくるのでバスウォッチングも楽しい場所です。

バス部品は一点ものや数に限りがあったので、最初の休憩場所であった京都府南丹市園部町の道の駅京都新光悦村で予め購入順位を決める抽選が行われました。ここではその順番に従って一人ずつ買い物をしたのですが、目当ての部品が自分の番まで残っているのかみなソワソワ。
やはり方向幕は人気。巻かれているので中身がわからないため最初の方のコマだけでもと確認を怠りません。
一番大物は運賃箱でした。まだ新品の香りがする備品だったので欲しかったのですが他の人に買われてしまいました。

フォトランの時間もたっぷり

営業所付近を何周かする間、思い思いのポイントでカメラを構えて撮影します。2台で内回りと外回りを走行したので途中のすれ違いも撮影できた。方向幕を回しながら走行したのでベストポイントで欲しい行き先表示が出ているかは運次第。

営業所内での撮影では幕の内容を全て順番に表示する“幕回し”も行われ、めったに見られない行き先や廃止された行き先の出現に歓声が漏れます。こういうイベントでは定番で、ほとんどの人が全コマ撮影しています。

“幕車”は絶滅危惧種

バスに乗る前に誰もが必ず見る行き先表示ですが、LED化が始まって久しく大都市圏では全く見なくなりましたし、地方でも大都市圏からの移籍車だったりLED幕への交換を進めていたりということもありいわゆる“幕車”を見かける機会がめっきり減ってしまいました。
最新型車でもずっと“幕車”を頑なに守ってきた京都市交通局もとうとうカラーLED幕への交換が始まり“幕車”は終幕へのカウントダウンが始まっています。方向幕を愛する私としては実に残念でなりません。
たかが行き先を表示するだけと言うことなかれ。幕時代の幕にはデザインや表示方法に会社それぞれの個性があっただけでなく、その色、書体などに意味づけされている場合もあり、且つ遠目にも見やすいように工夫がされていました。
奈良交通の例だと、黄色地に黒文字は市内循環路線、白地に青文字は前乗り後ろあるいは中後ろ降り均一料金路線、青地に白文字は後あるいは中乗り前降り整理券運賃路線という具合です。全ての種別が通るバス停だと自分が乗るバスなのかそうでないのか、どの扉から乗るのかが一目で判断できます。京都市交通局のように透過照明の色を赤に変えることによって終バスであることを表わすということもあります。
ところがこれがLEDになるとカラーLEDでもない限り基本的に同じです。系統番号の表示を反転させるなどの工夫もしてはいますが解像度が印刷に遠く及ばずかなり低いこともあり遠目には判りづらい。フォントもユニバーサルフォントじゃないし。
これだけバリアフリーを叫ぶにも関わらずこれは逆行じゃないのか?と常々疑問でした。
実はこれには大きく2つの理由があることを近年知りました。
一つはコストです。1台で数十万円もの費用がかかる幕はコストが大きいし、路線、行き先、系統の増減の度に作らなければなりません。毎回丸ごと作り直すことはできないので切り接ぎでしのいでいます。幕は概ね最大90コマなのでそのバス会社の路線全てを組み込めないため所属営業所の分しか行き先がありません。このため臨時で他の営業所に車両を貸し出したり転属させたりする際には都度交換しなければなりません。またちょっとのことで破れてしまうので補修も必要です。バスファン向けの廃部品販売で幕を買ってみると苦労の跡が確認できで胸が熱くなります。
LED化と同時に、別々に設定しなければならなかった車内放送も同時にセットできるようになるため初期費用は高額でもこのような労力が削減できるのでメリットがあります。
2021年度中の全車退役が決まっていて、鉄道ファンの間に退役を惜しむ声が少なくない近鉄の12200系通称“スナックカー”の方向幕が、LED化で不要になった22000系の廃品に交換され(通称“赤幕スナック”)、退役が決まっているのになぜ?と話題になりましたがこれも同じ理由からです。すぐにも廃車されるのに新製や修理費用がもったいないから、危なそうなものは数が潤沢にある廃部品にあらかじめ交換しておくと都合がいいのです。
もう一つはバリアフリー。目の不自由な人には透過光や反射光より自発光体の表示の方が見やすいのだそうです。恵まれている自分にはぜんぜんわからなかった。また、カラーLEDの場合その色は幕時代と微妙に違っていますがこれも色弱の人には判別しにくい色もあるので調整しているからだそうです。幕の記憶がある方は一度じっと見比べてみてください。
ちなみにLED化の際に単色時代を経ずいきなりカラーLED化されている京都市交通局と阪急電鉄だけは幕時代と表示デザインが変わっていないことが特徴ですが、そんな気の利いたことをしているのは私が知る限りこの二社だけです。阪急の車両はドット数が多いこともあり遠目には幕なのかLEDなのかがわからないくらいです。すばらしい。他の事業者もカラーLED化する際には幕時代のデザインに戻してもらいたいと思います。

この時期の丹波と言えば栗と黒豆そしてツアー参加者へのおみやげが魅力的

ドライブインやロードサイドで採れたての黒枝豆を売っていましたし、フォトランの経路にあった和菓子屋さんでは大粒の丹波栗を使った和菓子も買えました。
鉄道だと硬券入場券を買う人も多いですが、バスにはないのでその代わりに懐かしい大きい日付印やスタンプを押す綴りタイプの回数券をこの日の記念に買いました。

参加者向けのおみやげセットがまたいい。記念乗車証、方向幕制作指示集、マスクホルダー、クリアファイル、園福線歴史紹介冊子とバス好きをくすぐるものでした。
さすが情熱あふれる仕掛け人が考えただけあります。

コロナ禍のこのツアーで何かあったらシャレになりませんので、主催者も問診票の提出を求め、検温、消毒、社内換気に万全を期し細心の注意を払って開催していました。
参加者も社内サイレントを意識しつつ存分に楽しんでいた。
京阪京都交通主催のツアーなのに西日本ジェイアールバスの営業所でも楽しめたわけですが、両社に限らず事業者相互乗り入れのツアーはあちこちで開催されています。関東では関東バスの三扉車で東京空港交通の三扉車に会いに行くというツアーもありましたし。マメに情報をチェックしていると意外にもいろいろ見つかりますので気になる方はぜひ。

久しぶりのイベントでしたが、一日外で全身に自然の空気を当てることは、こんなときだからこそ気持ちいいし、心身の健康を保つためには必要なことだと思います。きっと。家族連れで参加してみな楽しそうにしていらっしゃった姿を見てもああいいなと思う次第です。

取材・写真・文:大田中秀一

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