「モビリティ・ライフ・デザイン」を改めて考える
2022年8月上旬、午前5時過ぎ。長野県茅野市の山間部にある「アルトピアーノ蓼科」で小鳥たちの声を聞いて目を覚ました。関東各地は連日の猛暑だが、こちらは湿度も気温も低く、まさに避暑地である。
いまから1年2ケ月前、アルトピアーノ蓼科を初体験した模様をお伝えしたが、改めてご紹介すると、ここは神奈川県を拠点するとトヨタモビリティ神奈川が同社が販売するキャンパーシリーズ車などのオーナー向けに提供する滞在型の施設だ。
長引くコロナ禍で、オートキャンプや車中泊への注目が益々高まっていることをご存じの方も多いだろう。グランピングやコテージなど、家のような空間を活用しながら自然を満喫する新設の施設や、以前からあったキャンプ施設を大幅にリノベーションするビジネスモデルも最近なり増えてきた。
そうした中、アルトピアーノ蓼科は、大手自動車販売店で新車を購入した「オーナー様限定の無料施設」という、極めて稀なケースであることを改めて実感する。基本にあるのは「モビリティ・ライフ・デザイン」という考え方だ。
キャンピングカーという括りだと、一般のユーザーにとっては、車高や車幅が大きくなることでの車両保管場所に対する配慮や、車両価格とリセールバリュー(下取り価格)に対する心配など、そして定期整備に対する不安など、ちょっとした”心のハードル”があるように思う。
そんな”心のハードル”を無理なく乗り越えるために、「SUVより自由に、キャンピングカーより手軽に」というコンセプトで商品企画されたのが、コンちゃんをはじめとする、トヨタモビリティ神奈川のキャンパーシリーズだ。
連載【桃田健史の突撃! キャンパーライフ〜コンちゃんと一緒】第7回 ~信州長野から上州群馬への旅路~前編 「アルトピア―ノ蓼科」でノンビリ 蓼科とトヨタの意外な関係とは?
さらに、オートキャンプっぽい体験を、まずは気軽に楽しんでもらおうと、オーナーズキャンプヴィラという発想でアルトピアーノ蓼科が生まれた。キャンパーシリーズオーナーは年に2回(1回1泊)が無料で使用できるが、ここでの体験をベースとして、オーナーそれぞれの家族が別のオートキャンプ場に行ったり、デイキャンプでバーベキューをしたりするような、クルマを介した楽しい生活に結び付けようとしている。
なぜ、そこまでお金をかけてトヨタモビリティ神奈川は「モビリティ・ライフ・デザイン」を大事にしようとしているのか? それは、自動車販売ビジネスの将来に対する大きな準備が必要だからだと言えるだろう。
自動車産業とは、自動車メーカーがクルマを企画・開発・製造して自動車販売店に卸売り販売をする。そうして仕入れた新車を販売店がユーザーに小売りするという「売り切り型」のビジネススタイルが長らく続いてきた。
だが、これからの日本は少子高齢化が進み、クルマを購入する購買層が減少する可能性が高い。また、様々な物事に対して「所有から共有」という考え方がグローバルで広まる中で、「クルマのシェアする」というトレンドが巻き起こっている。さらに、EV(電動化)という大波が欧州基点で日本にも押し寄せて来ている。
先日、EV関連で話をした日産本社関係者は「近い将来、シェアリングなど新しいビジネスの拡大で、新車販売台数が半減してしまうことも十分承知している」として、日産社内でも真剣な議論を進めているという話を聞いたばかりだ。アルトピアーノ蓼科は、そうしたクルマ関連ビジネスに関わる大きな時代の変化の中で生まれたといえるだろう。
今回も、現地責任者の常川領太さんをはじめ、施設の管理に携わる皆さんに暖かく出迎えて頂いた。茅野市に隣接する原村の「たてしな自由農園」で新鮮野菜などを仕入れて、夕食も朝食もバーベキューグリルをフル活用。また、今年6月にアルトピアーノ蓼科の敷地内に新設された、宿泊者のみが予約して使える、貸し切り風呂も体験した。内風呂に加えて、露天風呂も完備されていて、時間枠である1時間でゆったりと癒された。
夜空を見ながら、コーヒータイム。畳敷きの部屋に羽毛布団を敷いて熟眠。ワンちゃん連れの利用者も複数組いたが、皆さんしっかりとマナーを守り、滞在した全員が静かな夜を過ごすことができた。
チェックインの午後2時からチェックアウトの午前10時まで、アルトピアーノ蓼科を満喫した。
蓼科山聖光寺にお参り
アルトピアーノ蓼科は開業してまだ4年ほどと日が浅いが、茅野市内には古くからトヨタ本社、トヨタグループ企業、そして全国のトヨタ販売店の社員やOB向けの保養施設が数多い。
トヨタ関係者によるとこの周辺の基礎開発が始まったのは1970年代。「三河や首都圏から車や電車でのアクセスが良く、軽井沢などに比べると別荘開発による商業化のタイミングが少し後になったことで、広い敷地を確保するとができた」という。
なかでも、トヨタ販売店と茅野市とのつながりは強い。その中心人物は、トヨタの自動車販売網の基盤を築き”販売の神様”とも称さた、元トヨタ自動車販売会長の神谷正太郎氏である。
その縁で、茅野市内にある蓼科山聖光寺(しょうこうじ)は、「大きな社会問題となっていた交通事故の撲滅を祈願するために、トヨタ自動車(当時のトヨタ自動車販売)及びトヨタ自動車系列諸会社・トヨタ自動車販売店協力会等によって昭和45年(1970年)7月に創建された」(聖光寺のホームページ)と記されている。
聖光寺には毎年7月、トヨタ本社幹部が交通事故者慰霊万灯供養と交通安全夏季大法要に訪れている。トヨタ関係者によると今年7月も、豊田章男社長が聖光寺を訪れているという。 筆者も、コンちゃんと一緒に聖光寺で交通安全祈願。
それから、茅野市のDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する取材し、いったん松本市に出てから塩尻市の奈良井宿を通り、AI(人工知能)を活用したオンデマンド交通の実用化や自動運転の実証を進めている塩尻市役所の関係者と意見交換を進めた。
これからもコンちゃんと一緒に、時代変化の現場をじっくりと巡っていきたい。
この記事を書いた人
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。