マクラーレン

【国内試乗】走り・エンジン・乗り心地、すべてがマクラーレン流。ここまでの圧倒的な一体感を味わえるクルマは他にない「マクラーレン 750S」

永遠のスーパーカー少年を自負する西川淳氏が選ぶ太鼓判は、マクラーレンの最新スーパースポーツ「750S」。ストイックに己の道を突き進む、マクラーレンが持つ魅力とは?

ドライバーとの濃厚な意思疎通が魅力のクルマ

動き出した瞬間から車体との一体感を容易に体感できるスーパースポーツなど、マクラーレンをおいて他にない。前輪はまるで両腕と繋がっているようだし、パワートレインを大きめのランドセルのように背負っている。路面を蹴ったり踏み止まったりという動きに右足が直結する。要するにマクラーレンはドライバーをシートに座らせて初めて全てが繋がる。“クルマとして完成する”と言い替えてもいい。12C以来、マクラーレン最大の魅力はそこにあった。

リアミッドに搭載されるのは4LV8ツインターボエンジン。車名の由来にもなった最高出力は750psで、0→100km/h加速は2.8秒というパフォーマンスを誇る。720S比でパワーだけでなく、サウンド面も改良されている。

昨年デビューした750Sは、そんなマクラーレンの中核というべきスーパーシリーズの最新版だ。ロードカービジネスの原点となったMP4-12Cのデビューが2011年で、2017年には第二世代の720Sへとフルモデルチェンジ。さらにそのマイナーチェンジ版として登場したのが750Sだった。

マクラーレン・750Sクーペ

車名の数字がリアミッドに積まれた4LV8ツインターボエンジンの最高出力を表す。前期型720から後期型750へのバージョンアップで差し引き30psの増強となったわけだが、空力や制御の進化度合いを知った今となっては、そんな最高出力の差など、ネーミングという最もわかりやすい手法で表現されたアイキャッチャーでしかないと知る。実際、両車の間には765LTというサーキット走行を重視した高性能グレードが存在しており「750」という数字は(メーカーにとってもオーナーにとっても)リーズナブルな落としどころでもあった。

空力ファーストで造られたボディ造形が目を引く。

750Sには765LTはもちろん、アルティメットシリーズのセナを送り出した経験と知見がパワートレインにとどまらず車体設計の広範囲において生かされている。720Sのオーナーでもないかぎり、外観をパッとみて前後期の違いを言い当てることは難しいかも知れない。けれどもその中身は見栄えの変化を大きく超えて進化した。わかりやすく言えば750Sは、ロードユースを主眼においた765LTのリファイン版。事実、サーキットにおける750Sは765LTに迫るパフォーマンスでドライバーを喜ばせた。

リアスポイラーは車速に応じて自動で立ち上がるほか、車内のスイッチから任意で開閉することも可能。

ツルシで無敵のトラックパフォーマンスを誇るスーパーカー。12Cでロードカービジネスを本格化させて以来、マクラーレンの各モデルはそう語られることが多い。けれども多くのユーザーにとってサーキット走行は縁遠く、敷居も高い。そんな場所での性能を誇られてもなぁ、と思われる方も多かったことだろう。けれども実際には冒頭でも述べた通り、マクラーレンの魅力の根源はマシンとの一体感にこそある。マシンのドライバーに対するコミュニケーション能力が魅力なのだ。それゆえサーキット走行はもちろん、交差点の右折時でさえ、その資質を十分に感じることができる。

タイヤサイズは前245/35ZR19、後305/30ZR20で、ピレリPゼロを組み合わせる。

市販スーパーカーの乗り心地革命と呼べる存在

街乗りでのライドコンフォートは相変わらずスーパーカー離れしたもの。コクコクッとリズミカルで硬質な動きで、路面からのショックを潔く受け流す。硬くて軽いCFRPボディあってこそ。マクラーレンは1980年代以降、レーシングカーはもちろんロードカー分野においてもカーボンシャシー以外を使ったことがない。なかでも12Cは市販スーパーカーの世界に“乗り心地革命”をもたらしてくれた。12 Cの登場以降、他ブランド製スーパーカーの乗り心地もすべて良くなった。

左右のシートが車体中央に寄せられ、凝縮感のあるコックピット。試乗車のインテリアはオプションである「750S TechLuxインテリアパック」が選択されていた。

750は前足の動きが720に比べていっそう鮮やかだ。ステアリングのギアレシオが早くなり、ワイドトレッドとなった。それでいてクイックすぎるとは思わない。アシの硬さを絶妙に緩めているからだ。ノーズは面白いように向きを変えるが、動きは自然で扱いやすさは以前からまるで変わらない。

右足を軽く踏み込んだダッシュパフォーマンスからして胸をすく。スロットルをフルに開けずとも、余裕たっぷりのトルクが軽量な車体をまるで波でさらうように沖(=前)へ沖へと押し流していく。そのとき720Sオーナーが地団駄を踏む様子が思い浮かんだ。エキゾーストサウンドが随分と耳に心地よいものになっていたからだ。

フロントフード下には150Lのラゲッジルームが備わる。

高速クルージングの安定感も向上している。エアロダイナミクスをいっそう煮詰めたことに加えて、足回りの改良に合わせシャシーもさらにきめ細やかな制御へと改良された。安楽な“GT”としても使えるのは大いに嬉しい。
高速走行中のマクラーレンの魅力は、追い越し加速の劇的さだろう。これもまた12C以来、ウォーキング製マシンの得意とするところ。パシンと鞭打たれた競走馬のような鋭いレスポンスはカーボンシャシーでなければ味わえない。

パドルシフトはシーソー式になっており、片手側からでもレバーの押し引きでシフトアップ&ダウンが可能となっている。

クローズドコースではある意味加速以上に楽しめた減速=制動フィールも、公道ではペダル半分以下の踏みでも十二分に手応えがあり、コントロールしやすい。プロ対応レベルの高性能を扱いやすく搭載する手腕という点でもマクラーレンは今、最も進んでいる。

ドライブモードはパワートレインとハンドリング、それぞれをコンフォート・スポーツ・トラックの3種類から選べる。

実をいうと一番感動したのは、だらだら流しているようなときでも750Sはとても従順で、ドライバーの心を冷静に保つことができることだった。妙に急かされることがない。踏めなくて苛立つようなこともない。私(750)も堪えるから君(ドライバー)も堪えてくれよ、という同志感が強い。これもまた車体との一体感によって生み出されるマジックだろうか。もしくは英国車ならではと言うべき大人の落ち着きか。マクラーレン製スーパーカーは街中でも、もちろんサーキットでも、新たな楽しみ方を提案してくれる。750Sはその最新モデルだ。乗っておくべき1台だろう。

【西川淳の推しポイント】車体中央に寄せられたシート位置

西川淳/一体感を生み出す重要な要素がシート位置だ。カップルディスタンスはホンダ・ビートかと思うくらい。いかに車体中央寄りに座らせられているかを物語る。車体は軽く、重量物は車体の中心へ、基本であろう。

【SPECIFICATION】マクラーレン・750Sクーペ
■車両本体価格(税込)=39,300,000円
■全長×全幅×全高=4569×1930×1196mm
■ホイールベース=2670mm
■トレッド=前:1680、後:1629mm
■車両重量=1277kg
■エンジン型式/種類=M840T/V8DOHC32V+ツインターボ
■総排気量=3994cc
■最高出力=750ps(552kW)/7500rpm
■最大トルク=800Nm(81.6kg-m)/5500rpm
■燃料タンク容量=72L(プレミアム)
■トランスミッション形式=7速DCT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ=前:235/35R19、後:305/30R2

問い合わせ先=マクラーレン東京 TEL03-6438-1963、マクラーレン麻布 TEL03-3446-0555、マクラーレン名古屋 TEL052-528-5855、マクラーレン大阪 TEL06-6121-8821、マクラーレン福岡 TEL092-611-8899、マクラーレン広島 TEL082-942-0217、マクラーレン横浜 TEL045-306-9707

フォト=郡 大二郎 ル・ボラン2024年6月号より転載

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