いまや、コンパクトの世界にも続々とBEVが登場しており、さまざまなボディタイプも用意されている。最近ではスタイリッシュなクーペSUVも人気だけれど、今回はEQBを中心に、オーソドックスなSUVのカタチをしたコンパクトBEVを比較してみた。
バッテリー容量が同じEQBとiX1
以前にも書いたけれど、数あるメルセデス・ベンツのSUVの中で、GLBはもっともバランスのいい1台だと個人的には思っている。ご存知のように、メルセデスのA/Bクラスは共通のプラットフォームを使っているが、GLBだけがわざわざホイールベースを100mmも伸ばしている。これは、3列目シートを装備するための策だったのだけれど、結果的には直進安定性も乗り心地も向上して、A/Bファミリーの中では別格の快適性を得ることになった。
そんなGLBにも、気にならなくはない点がひとつあって、それが重心の高さだった。実際、A/Bファミリーの中では一番の高身長なので、物理的に仕方のないことでもある。全高の高さ=重心の高さは、タウンユースで足を引っ張るほどではないものの、ワインディングロードなどでステアリンを右へ左へ連続的に切り返すと、ばね上が振り子のようにゆっくり動いてしまうような感触を覚えたりするのも事実だった。
ところが、そんな唯一といってもいい欠点がほぼ解消されたモデルが導入された。それがEQBである。ホイールベース内のフロア下に敷き詰められた重い駆動用バッテリーのおかげで重心は下がり、重量が増えて乗り心地までもがさらによくなってしまった。そもそもは「シートをもう1列増やす」ことから始まったGLBのディメンションとパッケージは、偶然というか必然というべきか操縦性や快適性へ多大なる恩恵をもたらし、BEVになって完成形となったと言っていいだろう。ただし、EQB350 4MATICの約900万円という車両本体価格が妥当かどうかは首をかしげるけど。
試乗車は4WDなので、前後にそれぞれモーターを置いている。フロントモーターは194ps/370Nm、リアは98ps/150Nm(システム最大出力は292ps、最大トルクは520Nm)。前後の駆動力配分は毎秒100回というとてつもない頻度で状況に応じて変えているという。今年6月にEQB250+の前輪駆動モデルはバッテリー容量が66.5kWhから70.5kWhへ拡大されているものの、350 4MATICは66.5kWhのままで、航続距離は467kmと公表されている。250+は航続距離重視(557km)、350 4MATICは動力性能重視ということなのだろう。確かに350のほうがあらゆる場面でスタビリティが高く、高速域でも優れた直進安定性を示す。
こんなメルセデスのBEVのSUVと比べて欲しいと編集部が用意したのは、BMWグループの2台とステランティス・グループのジープである。
BMWはiX1のxDrive30xLine。BMW銘柄としてはもっともコンパクトなBEVのSUVである。日本仕様は前輪駆動のiX1 eDrive20と4WDのxDrive30の2種類で、後者には価格は同じで装備が異なるxLineとM Sportが用意されている。2駆と4駆を揃えているのはメルセデスを意識しているからなのかもしれないが、おそらく偶然とはいえ、バッテリー容量が66.5kWhでEQB(の4駆)と同値というのは興味深い。航続距離はeDrive20が495km、xDrive30が465kmで、EQBよりはそれぞれ若干短い。
EQBと同じ4駆でも、まったく同じモーターを前後に使っているのがこのクルマの特徴のひとつ。いずれも190ps/247Nmを発生し、システム最高出力は306ps、最大トルクは494Nmとなる。EQBよりも出力は出ているが、トルクは少し控え目だ。前後のモーターをあえて同規格にしたのは、xDriveによる随時可変前後駆動力配分の使い勝手を考慮したからだろう。理論上は100:0でも0:100でも、前後輪にかかる駆動力を同等にできる。たとえ航続距離的には不利であっても、あくまでも走りにこだわるBMWらしい設定である。
ボディサイズはiX1のほうが185mm短く85mm低いが全幅は同値。EQBよりもわずかに小さいボディであることもたぶん影響して、同じバッテリー容量で同じ駆動形式ながら車両重量はEQBより150kgも軽く仕上がっている。それでも2トンは超えているのですごく軽快とまではいかないものの、2トン超えの背の高いSUVにしてはよく曲がるというか曲がりたがる操縦性である。この辺りも、まっすぐ走ることを得意とするEQBとは大きく異なる点だ。ステアリングを切ってからのクルマの動きを納得いくまで煮詰めたんだろうなと想像できる、エンジニアの気概が伝わってくるようなスムーズな回頭性だ。
そしてEQBと比較した場合のiX1の圧倒的アドバンテージは価格だろう。718万円の車両本体価格自体は決してリーズナブルとは言えないけれど、EQBより約200万円も安い。シートは1列足りないが、その他の装備や動力性能や操縦性を考慮すればiX1はずいぶんと頑張った価格設定になっていると思う。
お買い得?なミニとアベンジャー
今回、iX1 xDrive30とミニ・カントリーマンSE ALL4を比べてみて、あらためて分かったことがある。実はこの2台、プラットフォームもパワートレインも基本的にはまったく同じなのだ。2690mmのホイールベースから同一のプラットフォームであることは分かるし、4輪駆動として前後に設置されるモーターのスペックも同じ。66.5kWhの駆動用バッテリー容量も同じである。重量はカントリーマンのほうが10kg軽いのに航続距離が14km短い(451km)のは、おそらく全高と全幅がiX1よりも長く前面投影面積が広いことにより、空気抵抗が少し大きいことが影響しているのではないかと推測する。
中身は一緒でも、もちろん乗り味には差別化が図られている。しいて言えば、カントリーマンはiX1とEQBの間に位置する感じで、iX1よりも直進時の安定感があり、EQBよりは曲がることが楽しいハンドリングになっている。そしてもし、ミニの独特な世界観に共感できるなら、装備もハードウエアもほとんど同じiX1より56万円も安いこのカントリーマンSEはお買い得かもしれない。
お買い得といえば、今回の4台の中でもっともお買い得なのはジープ・アベンジャーである。ジープなのに4駆ではないところはちょっとなんだけれど、EQBより300万円以上も安い580万円という車両本体価格は、これだけでもアベンジャーを選ぶ真っ当な理由になるだろう。
プラットフォームは同じくステランティス・グループのフィアット600eと共有するものの、4駆ではないとはいえ雪や砂地など6種類の走行モードを備えたセレクテレインTMシステムや、下り坂でも一定の速度を保つヒルディセントコントロールなどを備え、ジープの名に恥じない走破性を有している。航続距離も486kmを確保しており、メルセデスやBMWグループと遜色ない性能である。全長4105mm、全幅1775mmのボディも市街地などでは取り回しのいいサイズとなっている。本革シートや各種安全装備など、標準装備品目も多数であり、4台の中ではもっともバリュー・フォー・マネーなモデルと言える。
メルセデスの歴史とブランド力は時に人のよりどころになるが、より現実的な局面でライバルと比べると、もはやそれだけでは勝負できない時代に突入しているとも言えるかもしれない。
【SPECIFICATION】MERCEDES-BENZ EQB 350 4MATIC
■車両本体価格(税込)=8,990,000円
■全長×全幅×全高=4685×1835×1705mm
■ホイールベース=2830mm
■車両重量=2180kg
■総電力量=66.5kWh
■モーター最高出力=前:194ps(143kw)/5800-7600rpm、後:97ps(72kw)/4500-14100rpm
■モーター最大トルク=前:370Nm(37.7kg-m)/0-4500rpm、後:150(15.3)/0-4500rpm
■一充電走行距離(WLTC)=467km
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前:Vディスク、後:ディスク
■タイヤサイズ=前後:235/55R18
問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL0120-190-610
【SPECIFICATION】BMW iX1 xDrive30 xLINE
■車両本体価格(税込)=7,180,000円
■全長×全幅×全高=4500×1835×1620mm
■ホイールベース=2690mm
■車両重量=2030kg
■総電力量=66.5kWh
■モーター最高出力=前:190ps(140kw)/8000rpm、後:190ps(140kw)/8000rpm
■モーター最大トルク=前:247Nm(25.2kg-m)/0-4900rpm、後:247Nm(25.2kg-m)/0-4900rpm
■一充電走行距離(WLTC)=465km
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:225/55R18
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437
【SPECIFICATION】JEEP AVENGER ALTITUDE
■全長×全幅×全高=4105×1775×1595mm
■ホイールベース=2560mm
■車両重量=1580kg
■総電力量=54kWh
■モーター最高出力=F:156ps(115kw)/4070-7500rpm
■モーター最大トルク=F:270Nm(27.5kg-m)/500-4060rpm
■一充電走行距離(WLTC)=486km
■サスペンション=前:ストラット、後:トーションビーム
■ブレーキ=前:Vディスク、後:ディスク
■タイヤサイズ=前後:215/55R18
■車両本体価格(税込)=5,800,000円
問い合わせ先=ステランティスジャパン TEL0120-712-812
【SPECIFICATION】MINI COUNTRYMAN SE ALL4
■車両本体価格(税込)=6,620,000円
■全長×全幅×全高=4445×1845×1640mm
■ホイールベース=2690mm
■車両重量=2020kg
■モーター最高出力=前:190ps(140kw)/8000rpm、後:190ps(140kw)/8000rpm
■モーター最大トルク=前:247Nm(25.2kg-m)/0-4900rpm、後:247Nm(25.2kg-m)/0-4900rpm
■一充電走行距離(WLTC)=451km
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:225/55R18
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-3298-14