
20年ぶりに訪問した中国の道路はすっかり別世界
20年ぶりに訪れた中国、そこには以前の風景は全く見られませんでした。当時、道路は荒れていて過積載のトラックや2輪車、リヤカーや歩行者等が縦横無尽に混在しており「ハンドルを握りたい」という思いは微塵も感じなかったです。欧米や日本などの一世代前の車両や傷んだ車両が多く、中国仕向け車両開発へのモチベーションは決して高くはなかったと記憶しています。
【道路の変化】欧米環境に近く高速道路の増加と車線増加、路面の改善
中国は2008年の北京オリンピックと、2010年の上海国際博覧会以降、一級都市整備を地方都市整備に拡大し、法規を含めた大きな交通環境改善に取り組んでおり、広大な国土の整備を進めてきています。ここではそんな中国の自動車文化の進化と現状を紹介していきたいと思います。
道路は〈一般道〉〈高架路〉〈自動車専用道〉に大別され、〈一般道〉は上限100km/hで環境に応じ細かく設定されており、多くが4輪と2輪、そして歩行者が分離され混走は殆ど見られません。〈高架路〉は欧米ハイウェイ同等で2車線以上の高速道路。上限120km/hで分岐点が多くモール等へ直結しているため、生活道路とし活用されています。〈自動車専用道〉はETCが完備された大都市間を結ぶ有料高速道路で、上限は120km/hです。
【規制の変化】欧米法規の取り入れと中国文化の融合
中国といえば渋滞の多さ、マナーの悪さも気になっていましたが、速度取り締まりが厳しく制限速度を大きく超えるクルマは欧米同様に少なくなりました。車線、路肩が増強され迷惑駐車による渋滞も減少しました。中央分離帯の位置を時間により変えたり(北米同様)パークアンドライドも多く取り入れられています。
交差点信号規制は右折(日本の左折)は直進車が無ければ自由。ランナバウト、4way stop等、法規にも欧米の文化が多く取り入れらており、一部の信号機は信号の変わるタイミングをカウントダウン表示し、赤信号での交差点進入抑制に効果が上がっている様です。
【クルマの変化】求める多様化した性能に応えるクルマ創り
中国自動車メーカーは諸外国自動車メーカーに追い付く事を第一とし、ベンチマークによる類似したクルマ作りを行ってきました(見た目重視)。環境、法規の改善によりユーザーのクルマに求める(期待する)性能は徐々に変化し、中国メーカーはその期待に応えるためにベンチマーク開発から独自の性能開発へと大きく変化しました。中でも先進安全性能は大きく進化し 基本性能においても欧州メーカーに匹敵するレベルになっています。
自動運転の増加
市販車は 認知、判断、操作の一部を機能が実施する《支援運転装置》の開発が主流です。運転ミスによる事故の低減(被害低減)、運転疲労の低減が目的であり代表的な機能がPCS(衝突被害低減)、ACC(速度、車間距離維持)、LTA(レーントレース)等ですが、殆どが自動車専用道路等で同一車線を走行している事が前提にあり、進路変更、交差点等はドライバーによる認知、判断、操作に大きく依存します。
中国はドライバーの認知、判断、操作の全てを機能が行うことを目標とした《自動運転装置》の開発に一早く取り組んでいました。歩行者、対向車、交差点の無い専用道から一般道へ拡大し、2024年のアメリカのWaymoによるロボタク(無人タクシー)の営業開始は、多くの自動車関係者が驚きましたが、2025年には中国バイドゥによるロボタクも営業を開始し、そのほか複数のメーカーも無人化に向けた市場でのデータ収集を進めています。
自動運転は商用目的(タクシー、路線バス等)とされていましたが、中国では一般市販車への自動運転機能搭載が急激に広がっています。商用目的の自動運転車には多くのセンサーが必要で、その結果車両の形状は複雑になり、オーナーとしてクルマを見た時に購買意欲が大きく低下します(正直かっこ悪い)。そのため洗練されたボディ形状を維持しつつ、コンパクトで人の認知力を超えるセンサーの搭載が市販車には必要です。
また、ロボタクが決められた範囲での営業であることから、判断に必要な環境データは限定的となりますが、市販車では中国国内全土をカバーする必要があり、膨大な環境データ 最新情報を常時アップデートするAI・通信等、今までのクルマにない性能開発が必要となります。
中国ユーザーは車内での居住性がどこまで向上できるか? この観点からクルマを選び始めています。自動運転機能を搭載した車両はドライバーが目的地を設定しスタートさせるだけで クルマが目的地へ自動で走行します(現状の性能ではスタート時から自動運転モードに入らないため最初は運転が必要)。
中国でも市販車はレベル2の自動運転にあるため、自動運転モードに入ってもドライバーはハンドルから手を離すことが許されていないので、安全管理は必要になりますが殆ど自動で走行するため、ドライバーは機能の監視を担当することになります。その際は、交通環境に応じ最適な走路を選択し制限速度を重視しますが、HUAWEI等は交通の流れに合わせ制限速度に対し15%程度の調整を行います(流れを乱さないことも安全)。
音声認識機能も大きく進化し、クルマとの会話は人同士の会話に近く、全ての着座位置を判断し対応してくれます。窓の開閉、エアコン温度調整は勿論、観光案内等も可能です。電動ドアの搭載も多く、従来行っていた操作の大半がなくなり移動中の時間活用が大きく拡大されます。
運転席モニターにはクルマが見ている物が表示され、通常のドライバーには見えない物まで表示されます。これは人の視野に対しシステムは常時360度を認知しているからです。助手席や後席にもディスプレイは装備され、乗員はエンタメ等を常時楽しめます。
クルマの基本性能も大変高く、乗り心地、NV(Noise・Vibration)も大変優れており欧州高級車に匹敵する車両も多く存在します。驚くべきは、優れた乗り心地やNVを含めたクルマの開発、販売をMomennta・HUAWEI・Xiaomi等の自動車メーカーではない企業が実現していることです。これらのメーカーはシステム開発、販売も行っており、日本、欧州自動車メーカーの車両へもそのシステムが搭載されつつあります。
スポーツカーや高級車の増加
自動運転が増加する一方、クルマの運転そのものを楽しみたいと思っているユーザーは、スポーティなクルマやブランドイメージの高いモデルを選びます。国内メーカーも自動運転を強化しないクルマはスポーティに仕上げる傾向です。
現段階では完全な自動運転には達しておらず、地域限定や環境によって人の運転に頼らなければなりません。ドライバーは機能へ委ねる事が多いため、不完全な自動運転機能は大変危険ですが、認知性能はハード的には人より優れています。判断は人より劣るもののAIの進化やアップデートの強化等により、近い将来、優秀なドライバーと同等の判断能力に達するでしょう。操作はEVの拡大により精度の高い性能が期待できます。
また、身体の衰えによるヒューマンエラーが無く、乗員は上質なドライバーの運転に身を任せ快適な移動が実現されます。交通事故撲滅や移動中での付加価値向上など、すべての人の移動の自由を実現させる重要な性能で、未来の乗り物ではなく中国では庶民の乗り物になりつつあります。発展途上にある自動運転機能は今後のクルマ開発にとって大変重要な機能であり、既存に限らず多くの自動車メーカーが取り組んでいます。
【日本のクルマ創り】昭和からどのように変化してきたか?
新型車開発は、企画から始まり市販車両を改造した試作車をテストコースで走行し、正式な試作車を作製します。ここでは目標性能に達するまで走行を繰り返し、最終的にはテストコースでは判断し難い性能を、一般道で確認し販売します。
ただしこれはメーカーにより開発手法には若干の違いがあり、日本国内ではシュミレーション強化により開発の殆どをテストコースで完了させるのに対し、欧米では一般道で開発することも多いです。これは試作の状態で一般道を走行させるための法規や文化等の違いがあります。
自動運転開発はテストコースで行う事は大変難しく、一般道での性能開発が主流となります。他車や人の動き、複雑な道路環境、劣化している路面、表示・天候・仕向け国の環境の違い等は再現出来ないからです。
また日本では制限速度と実走行速度に乖離があります。車線数や路肩は少なく、2輪車と歩行者等の混走が多い中、法規順守で走行する自動運転は、大きな渋滞や無理な追い越しを増加させ交通事故を増やす可能性があります。
一方で、日本独特の譲り合いや曖昧な黄色信号もAIには難しい慣習です。中国では道路環境や法規、ネットアプリ等が国の改革と企業の商品開発が一体化することで大きく変化しています。アメリカや中国を中心に進化する自動運転に対して、今後日本メーカーが技術力をどのように活かしていくか? 運転の楽しさ、居住性、クルマに求める性能の多様化に対し、この数年が日本自動車業界の大きな分岐点となり、交通環境改善を含めた行政との連携を期待します。