
















キャンピングカーの王者が描く、電動化の未来
フィアットの商用車部門であるフィアット・プロフェッショナルは2025年7月3日、ブランドの電動化戦略における重要な一歩となる新型「デュカト・カーゴボックスBEV」の生産を、イタリアのアテッサ工場で開始したと発表した。このモデルは、2024年9月にドイツ・ハノーファーで開催された「IAAトランスポーテーション2024」でプロトタイプが披露され、大きな注目を集めたものが、ついに市販化された形だ。
【画像16枚】広大な荷室とゼロエミッションを両立。キャンパーベースとしても注目の「デュカト・カーゴボックスBEV」を見る
キャンパーベースとしての実力は? パワートレインと積載量をチェック
日本市場においては、すでにバンタイプのデュカトが正規導入され、その広大な室内空間からキャンピングカーのベース車両としても絶大な人気を博している。現時点でこの新型EVの日本導入は未定ではあるが、もし実現すれば、日本のレジャービークル市場に新たな潮流を生み出す可能性を秘めている。
今回発表されたデュカト・カーゴボックスBEVは、既存のEVバン「Eデュカト」と共通するバッテリーEV専用のシャシーキャブをベースに開発され、商用車としての性能と積載能力を極限まで追求している。その心臓部には110kWhの大容量バッテリーが搭載され、最高出力200kW(270ps)、最大トルク410Nmという、重量物を積んだ状態でも余裕のある力強い走りを実現する。欧州のWLTPモードにおける航続距離は最大323kmで、日々の配送業務から、休日の長距離移動までをカバーする実用性を確保している。
商用車、そしてキャンピングカーのベースとして最も重要視される積載能力も、クラスをリードする水準にある。標準仕様の荷室は、18.3立方メートルという圧倒的な貨物容量を誇る。その内寸は、全長4230mm×全幅2032mm×全高2150mmと、広大な空間が確保されている。さらに多くの容積を求めるプロフェッショナルのために、ロングホイールベースのL4バリエーションも用意されている。こちらは荷室長が4400mm、荷室高が2300mmへと拡大され、積載容積は20.5立方メートルに達する。加えて、キャブ上の追加収納スペースといった多彩なオプションも設定されており、これらを組み合わせることで、L3バージョンでは最大21立方メートル、L4バージョンでは実に22立方メートルもの空間を創出することが可能だ。この圧倒的な空間は、キャンピングカーとして架装する際のレイアウトの自由度を格段に高め、ユーザーの夢を形にするための最高のキャンバスとなるだろう。
充電時間は半分に。揺るぎない信頼性とEVならではの利便性を両立
EVとしての使い勝手を左右する充電性能も、大幅な進化を遂げた。デュカトの電動モデル全ラインナップにおいて、従来の11kWから倍増となる22kWのAC普通充電器が新たに標準装備された。このアップグレードにより、大容量の110kWhバッテリーをわずか6時間で満充電にすることが可能となった。これは従来のソリューションと比較して充電時間を半分に短縮する画期的な改良であり、事業所での夜間充電で翌日の業務に万全の体制で臨むことや、長旅の途中で宿泊地にいる間に充電を完了させるといった、柔軟な運用を可能にする。
デュカトが欧州のキャンピングカー市場でいかに特別な存在であるかは、具体的な数字が物語っている。現在、欧州の公道を走るキャンピングカーの実に75%が、デュカトをベース車両として採用しているのだ。さらに、ドイツの権威ある専門誌『Promobil』において、「ベスト・ベース・フォー・キャンパー・バン」に17年連続で選出され続けているという事実は、その信頼性と完成度の高さを何よりも雄弁に物語っている。
この「キャンピングカーの王様」とも言えるプラットフォームが、今回初めてBEVとして提供されることの意義は計り知れない。ゼロエミッションという現代的な価値を手に入れながらも、これまでユーザーやビルダーから絶賛されてきた快適性、そして無限の可能性を感じさせる多彩なコンフィギュレーションは、そのまま受け継がれているのである。
工場品質のカスタマイズを実現する「CustomFit」プログラムとは
この高いカスタマイズ性を支えているのが、ステランティスが推進する「CustomFit」プログラムである。これは、ベース車両の製造ラインと、顧客の特別な要求に応えるための架装プロセスを工場内でシームレスに統合する、画期的な取り組みだ。キャンピングカーのような複雑なカスタマイズも工場内で一貫して行うことで、品質、安全性、そして納期管理において、外部の架装業者に依頼する場合とは一線を画す、卓越した水準を保証する。ステランティスは世界中に550社を超える認定架装パートナーとの強力なネットワークも構築しており、顧客のあらゆるニーズに応える体制を整えている。
静粛性に優れ、排出ガスを一切出さないデュカト・カーゴボックスBEVは、自然の中で過ごすアウトドアレジャーの体験を、より豊かで質の高いものへと昇華させるポテンシャルを秘めている。エンジン音のない静かな朝を迎え、環境への負荷を気にすることなく美しい景色の中を駆け抜ける。そんな次世代のバンライフが、この一台から始まるのかもしれない。
日本市場への導入が正式にアナウンスされる日を、今から心待ちにしたい。デュカト・カーゴボックスBEVは、単なる商用EVという枠を超え、我々のライフスタイル、特にレジャーのあり方に革新をもたらす、大きな可能性を秘めた一台だと言えるだろう。
【画像16枚】広大な荷室とゼロエミッションを両立。キャンパーベースとしても注目の「デュカト・カーゴボックスBEV」を見る