300台の珠玉のモデルと8000人のファンが集結
空冷ポルシェの文化を独自の視点で祝う世界的イベント「ルフトゲクールト(Luftgekühlt)」の第12回大会が、ポルシェ・カーズ・ノースアメリカの本拠地であるアトランタ近郊で開催された。ハリケーンの接近によるスケジュール変更という困難を乗り越え、会場には8000人の熱狂的なファンと300台の厳選された空冷ポルシェが集結した。モータースポーツの歴史を彩った伝説のレーシングカーから、数奇な運命をたどった貴重な1台まで、バリケードのない自由な空間で珠玉のストーリーが共有された。
【画像22枚】美しい街並みを彩る300台の空冷ポルシェ。ポルシェ北米の本拠地で開催された「ルフトゲクールト12」の展示風景を見る
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北米ポルシェのホームタウンを彩る厳選された300台
毎回異なる場所やテーマで開催されるルフトゲクールトだが、今年の「ルフト12」はジョージア州アトランタの南に位置する文化拠点「タウン・アット・トリリス」を舞台に選んだ。アトランタは1998年からポルシェ・カーズ・ノースアメリカが本社を構える、アメリカにおけるポルシェのホームタウンでもある。開催当日はハリケーンの警告により開始時間が数時間遅れる事態となったが、天候が回復すると8000人ものファンが来場し、並木道はまたたく間に世界最大のポルシェエキシビションへと変貌した。
展示された300台の空冷ポルシェは、単に美しいだけでなく、それぞれのクルマが持つ背景や歴史が慎重に審査され選び抜かれたものばかりである。クリエイティブディレクターのジェフ・ズワートが語るように、イベントに集まる新たなクルマを通じてこれまでにないストーリーを見つけ出し、来場者に伝えることがこのイベントの大きな目的となっている。
レーシングカー「935」の50周年と「タルガ」の歴史
今回のイベントでは、究極の空冷レーシングカーと称されるポルシェ935の誕生50周年が盛大に祝われた。会場にはホイッティントン兄弟がレースで活躍させた3台の黄色いモデルなどが集結した。なかでも注目を集めたのは、1979年のル・マン24時間レースで総合優勝を果たした「ポルシェ935-K3」である。この車両をドライブしたホイッティントン兄弟は、優勝した同時期に地元のレーストラックであるロード・アトランタを買収しており、開催地アトランタとの深い縁を感じさせる見事な主役となっていた。
また、過酷な公道レース「タルガ・フローリオ」でのポルシェ初勝利から70年という節目にも焦点が当てられた。1956年に550 Aスパイダーが初勝利を挙げて以来、ポルシェは同レースで最多となる11勝を記録している。会場には勝利を目前で逃した1959年型718 RSKや、優勝を果たした1960年型RS 60などの歴史的モデルが並んだ。さらに、アメリカ市場の安全基準に対する回答として生まれた固定式ロールバーを持つ「911タルガ」の車名が、このレースに由来していることも紹介され、北米市場とポルシェの深い結びつきが改めて示された。
名車たちが紡ぐ、それぞれの数奇なストーリー
ルフトゲクールトの魅力は、クルマが歩んできた幅広いストーリーに直接触れられる点にある。会場には、鮮やかなガルフカラーを纏った917Kも姿を見せた。この車両は1970年のル・マンのテスト走行でファステストラップを記録した後、映画『栄光のル・マン』の撮影に貸し出されたという華々しい経歴を持つ。長らく表舞台から姿を消していたが、現在はブルモス・コレクションに収蔵されており、今回のルフト12のために特別にアトランタへと運ばれてきた。
一方で、まったく異なる過酷な運命をたどったのが1957年型356 Aアウトローである。雑貨店の地下の瓦礫の下から発見されたこのクルマは、下半分が錆びていたため、別のボディと溶接してつなぎ合わせるという大がかりな修復を受けた。その後、未完成のまま売却されたが、20年後に当時のオーナーの自宅近くで、直筆のメモが残された部品箱とともに再び売りに出されたのである。イベントでは、美しくレストアされつつも経年変化の味わいを残した堂々たる姿が披露され、多くの来場者の心を打った。
クルマとファンが垣根を越えて交流する唯一無二の空間
ルフトゲクールトは、展示されるクルマだけでなく、そこに集まる人々もイベントを構成する重要な要素となっている。公式ホストを務めたトミー・ケンドールに加え、アメリカのレーシングドライバーであるレー・キーンも自身が手がけたカスタムビルドのポルシェ911を展示した。これらは彼がジョージア州でクルマを走らせた原体験や、ポルシェのラリー仕様車からインスピレーションを得て製作されたもので、開催地にふさわしい彩りを添えていた。
会場には展示車両を囲むバリケードが一切なく、来場者は自由に建物や通りを散策しながら名車に近づくことができる。クルマを自らの目で発見し、ファン同士で語り合い、その背景にある物語を読み聞きするというスタイルこそが、ルフトゲクールトが世界中から愛される理由である。今回のルフト12もまた、空冷ポルシェを愛するすべての人にとって忘れられない特別な週末となった。
【ル・ボラン編集部より】
水冷化や電動化を経てなお、空冷ポルシェの祭典がこれほどの熱狂を生む理由。それは356の誕生から70余年、頑なに守られてきた「気負わず毎日乗れ、操る歓びに満ちた実用的スポーツカー」という哲学の原点が、そこに息づいているからだ。最新の「911 S/T」や「ダカール」が、高度な電子制御の時代にありながら、あえて軽量なフライホイールや豊かな足まわりによってドライバーとの濃密な対話を蘇らせたのも偶然ではない。ルフトゲクールトに集う名車たちが紡ぐ物語は、単なる懐古ではなく、現代のポルシェが目指す「走りの血中濃度」の基準点そのものなのである。
【画像22枚】美しい街並みを彩る300台の空冷ポルシェ。ポルシェ北米の本拠地で開催された「ルフトゲクールト12」の展示風景を見る
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