コラム

BMWが5シリーズで実現した1クラス上の快適性能とは?【自動車業界の研究】

「駆けぬける歓び」を提唱するBMWの伝統的な中核モデルと言えば7シリーズ・5シリーズ・3シリーズといったあたりを思い浮かべる方も多いかと思いますが、その中でもど真ん中にポジショニングしているのが5シリーズです。
5シリーズはBMWの1960年代における主力モデル“ノイエ・クラッセ”の後継として1972年に初代モデルが登場して以来、既に半世紀以上の歴史を有している伝統モデルで、およそ7年ぶりにフルモデルチェンジした8世代目は先代モデル同様にドイツの「ディンゴルフィング工場」において生産され2023年の7月から日本にも導入されています。
今回は、その中からガソリンエンジンに「マイルド・ハイブリッド・テクノロジー」が組み合わせられ、快適性が重視されている「523i Exclusive(エクスクルーシブ)」にフォーカスして、その本質的な魅力や位置づけなどを中心にご紹介したいと思います。

5シリーズのポジショニング

BMWの5シリーズは、メルセデス・ベンツのEクラスやアウディのA6、キャデラックのCT5、レクサスのESなど、欧州で言うところのEセグメント、エグゼクティブカーに分類されますが、このセグメントはショーファードリブンも兼ねるFセグメントのモデルを除けば最上位に位置しているため、オーナーズカーとして最高峰のポジションとも言えます。

そのためこのセグメントには、いつの時代も自動車産業をリードする最先端の思想や技術などが惜しみなく投入され、およそ考え得る全てが詰め込まれていると言っても過言ではないほどです。
各ブランドにおいて初めての技術や機能をこれでもか!と搭載するケースも多く、8世代目の5シリーズも“AirConsoleプラットフォームを用いた車内ゲーム”がBMWとして初めて搭載されています。

そういった各ブランドを代表するEセグメントの中でもBMWの5シリーズは「駆けぬける歓び」を提唱するだけに走りの良さには定評があって確固たるブランドオリジナリティを確立、言い方を変えれば同クラスの中においてスポーティーな特徴を持つキャラクターが際立ち、それが半世紀以上にわたって伝統的に受け継がれてきました。

また5シリーズにはツーリングと称される実用性や利便性を追求してより多機能化されたステーションワゴンのモデルもラインアップされていて、そのあたりもメルセデス・ベンツのEクラスやアウディのA6と同様で、ことステーションワゴンにおいてEセグメントは最高峰に位置しています。

5シリーズ 第1世代〔E12〕1972年~(BMW)

5シリーズ 第2世代〔E28〕1981年~(BMW)

5シリーズ 第3世代〔E34〕1988年~(BMW)

5シリーズ 第4世代〔E39〕1995年~(BMW)

5シリーズ 第5世代〔E60, E61〕2003年~(BMW)

5シリーズ 第6世代〔F10, F11〕2010年~(BMW)

5シリーズ 第7世代〔G30, G31〕2017年~(BMW)

5シリーズ 第8世代〔G60, G61〕2023年~(BMW)

5シリーズ AirConsole〔ゲーム〕(BMW)

優雅さとクールさを合わせ持つエクステリアと上質で快適性の高いインテリア

現行5シリーズのボディサイズは〔全長×全幅×全高、ホイールベース=5060×1900×1515、2995(mm)〕、先代モデル〔同=4975×1870×1480、2975(mm)〕と比較して、全長85(mm)、全幅30(mm)、高さ35(mm)、ホイールベース20(mm)とそれぞれ拡大され、ひと昔前の7シリーズと言っても良いほどの大きさになっていて、セグメントの中でも最大級の大きさを誇ります。
そのサイズ感はドライバーズカーとしては目一杯といった感じはするものの、威風堂々とした存在感を与えていて、エクステリアは一目でBMWとわかるキドニー・グリルによって優雅でバランスの取れたフロントからなだらかな曲面で構成されるサイドライン、フロントボンネットからシャープにつながったルーフはCピラーにかけてクーペ風に少し傾斜してトランクリッドへとスムースに処理されクールさを醸し出しています。
5シリーズ伝統の均整のとれたプロポーションやお馴染みのホフマイスター・キンクといったアイデンティティをしっかりと受け継ぎつつ、新しいデザイントレンドと思えるディティールの処理やサイドスカートのデザインが絶妙に組み合わせられているところに好感が持てます。

5シリーズ エクスクルーシブ(BMW)

5シリーズ エクスクルーシブ フロント&リア(BMW)

5シリーズ エクスクルーシブ サイド(BMW)

BMW 523i Exclusive

続いてインテリアですが、室内の広さや居住性は前後席共にもちろん申し分なく、白基調の上質なレザー(試乗車オプション)が用いられた大柄なフロントシートは、ホールド性がありつつも窮屈感が無くて乗員を優しく包み込んでくれるので長時間乗車でも疲労は少なく、リアシートはショーファードリブンとしても利用できるほどの居住性を有し、「パノラマ・ガラス・サンルーフ(試乗車オプション)」による採光や「4ゾーン・オートマチック・エア・コンディショナー(試乗車オプション)」による後席左右の温度設定が変更できることなども相まって、開放感と高い快適性が兼ね備えられています。

各種操作は基本的にフロントのディスプレイからタッチパネル操作で行いますが、これには物理スイッチと異なり慣れが必要で、それをサポートするように最新の「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント(AI音声会話システム)」が搭載されていて、「OK BMW」と話して「暑い!」と言えばエアコンの温度を下げてくれたり「〇〇に行きたい!」と言えばナビゲーションの行き先を設定してくれたりします。

またボディサイズ同様にトランクルームの前後長や左右長(特にホイールハウスから後ろ側の部分)は十二分で広大と言っても良く、40:20:40分割可倒式のリアシートによるBMWでは「スルーローディング・システム」と称されるトランクスルー機能も備えているので、大概の荷物は積み込めて実用性も高いです。

さらに「Bowers & Wilkins サラウンド・サウンド・システム〔655W、17スピーカー、9チャンネル・サラウンド〕(試乗車オプション)」はクリアで低音から高音まで美しい音場を提供してくれるので、心地良いドライブを提供してくれます。

BMW 523i Exclusive フロントインテリア

BMW 523i Exclusive リアインテリア

BMW 523i Exclusive エアコン(リア操作パネル)

BMW 523i Exclusive トランクルーム

BMW 523i Exclusive Bowers & Wilkins

BMWが誇る最新テクノロジー満載の2.0L 直列4気筒ガソリン・ターボ・エンジン

「EfficientDynamicsエンジン」と称される新世代のモジュール式高効率2.0L直列4気筒のBMWツインパワー・ターボ・ガソリン・エンジン「B48B20P」はフロント・ミッドシップに搭載され、高精度ターボ・システム&バルブ制御やツイン・インジェクションを用いたミラー・サイクル・エンジンにより進化していて、48Vマイルド・ハイブリッド・システムが組み合わされることによって、システムトータルでは最高出力190PS(140kW)、最大トルク31.6kgm(310Nm)のパフォーマンスを発揮して「アダプティブ・サスペンション」と「パノラマ・ガラス・サンルーフ」が装着された車両重量1810kgの車体をストレス無く走らせながら、WLTCモードで14.4km/Lという燃料消費率も両立しています。

後述の走行インプレッションでも触れていますが、エンジン自体のNV(Noise=騒音、Vibration=振動)性能、要するに静粛性がとても高い理由として、エンジンの音や振動がそもそも少ないことが大きく貢献していることが、エンジンフード裏の防音材が装着されていないところからも伺い知ることができ、エンジンの素性としてのバランス(具体的にはピストンやコンロッド、クランクシャフト等)や各部の剛性(特にエンジンブロック等)、エンジンマウントによる共振対策といったNV性能に影響のあるところが巧妙に設計されていることが、直列4気筒エンジン特有の往復2次振動によるうなりが抑えられて、低回転から高回転までの全域においてスムースで気持ちの良いフィール(音や振動)を実現しているところからも感じとることができます。

やはり、このあたりがエンジン屋たるBMWの“技術的なポテンシャル”の凄さで、それらを実現するには設計や製造などにおける多くの経験から様々なノウハウが詰め込まれている必要があるため、これが加速性能や最高速度といった数値的性能やスペックには表れない“BMWならではの魅力”だと思います。

つまり、「523i Exclusive」のエンジンはフィールに雑味が無く圧倒的に静かであるため、“良い意味で全く存在感の無い”ことこそがBMWの“技術的なポテンシャル”そのものであって、多くの自動車メーカーが手掛ける4気筒エンジンだからこそより際立って感じられます。

そして、これらの実現にはエンジンNVの課題である停止時のアイドリングや、スタート直後の極低速域においてエンジンを始動させずに駆動を受け持ってくれる「マイルド・ハイブリッド・テクノロジー」が非常にスムースで効果的に効いていることも大きく、エンジン自体の静粛性の高さも相まってシステムとしてエンジンも駆動を担っている時とモーターのみで駆動を担っている時の切替が意識をしなければ気づかないほどです。

5シリーズ 直列4気筒エンジン搭載車 透視図(BMW)

BMW 523i Exclusive エンジンルーム

BMW 523i Exclusive「B48B20P」エンジン

駆けぬける歓びと快適性を両立する足回り

ハンドリングに定評のあるBMWの走りを実現させるサスペンションは、フロントにダブルウィッシュボーンとリアに5リンクの形式が採用されています。従来から大幅に改良が加えられており、理想的な音響特性を実現するためにフロントアクスルのステアリング・ギア・マウントのバネレートも最適化されています。

さらに「コンフォート・ドライビング・パッケージ」によって装着されるショックアブソーバーを電子制御する「アダプティブ・サスペンション」には、新しく開発された制御ロジックが用いられ、縦横方向の加速度や走行速度、ステアリング角度やフロントアクスルの状態などから数ミリ秒以内で計算が行われて必要なダンピングが得られるように制御され、車体のローリングやピッチング、ヨーイングといった姿勢の維持と同時に快適性を担保できるだけのしなやかさを両立させています。

そして、制御の要である走行時におけるそれぞれのシチュエーションでの理想的なダンピングは数学モデル(マッピング)に基づいたシーケンシャルな制御ではなく、運転条件に関するデータからの物理的な計算に基づいたフィードバック制御によって実現されているため、セミアクティブサスペンションと言っても良いかもしれません。

5シリーズ エンジン搭載車シャシー 透視図(BMW)

高い快適性と必要にして十分なパフォーマンス(走行インプレッション)

「523i Exclusive」で走り始めると「マイルド・ハイブリッド・テクノロジー」によってエンジンは始動せずにスルスルとスタートして速度が上昇していきます。
その走り始めからの静かさは圧倒的で、エンジン音が無いことから走行時のノイズ対策が入念に必要になる「i5」というBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー型電気自動車)モデルと車体を共有することから、「523i Exclusive」は走行時のロードノイズや風切り音、その他の共振等による騒音感が徹底的に排除されていて、BEVと車体を共有する恩恵がハイブリッド車で得られていると実感でき、速度がのってきてエンジンが始動する際も非常にスムースです。
アクセルを踏み込めば大排気量ハイパワー車のようにパワフルとはいきませんが、必要にして十分と思える加速と共にBMWらしい上質でビート感のあるエンジンの鼓動が遠くに聞こえ加速が続き、100km/h走行時のエンジン回転数は1500rpmほどで粛々と走るため高速巡行はとても快適です。

また「駆けぬける歓び」を実現するハンドリングと快適性の高い乗り心地を両立する「アダプティブ・サスペンション」による優れた足回りのバランスは絶妙で、「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング(前後輪統合制御ステアリング・システム)」や、比較的軽量と言って良い大きさの直列4気筒エンジンをフロント・ミッドシップに搭載しているという重量配分等も相まって、速度域によらず走りは軽快で、適度にクイックに狙ったラインをトレースできるにも関わらず乗り心地もダンピングが適度に効いてあたりの柔らかいしっとりと落ち着いた走りを実現しています。

「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング」はおよそ60km/h以上では前輪と同位相に後輪を操舵、およそ60km/h未満では前輪と逆位相に後輪を操舵するシステムで通常走行時には全く違和感が無くスムースですが、後退時には思ったよりも車体後部が内側に行く(巻き込む)感覚があるので慣れが必要で留意点と感じるものの、Eセグメントでも最大級のボディを持つ5シリーズにとっては、この機能によって前進時も後進時も回転半径が小さいという恩恵は留意点を補って余りあると言っても良いと考えられます。

今回の試乗で最も印象に残ったのは、ゆったりと走っている時の静粛性の高さと乗り心地の良さが感動レベルにあるところで、セグメントを超えて1クラス上の上質さとさえ感じました。

駆けぬける5シリーズ セダン(BMW)

インテグレーテッド・アクティブ・ステアリング(BMW)

まとめ

自動車における世界的指標のひとつと言っても良い5シリーズの中から今回は「523i Exclusive」にフォーカスしてみましたが、その完成度の高さはやはり“さすが!”の一言で、特にBEVモデルとの車体共有によってボディ剛性やNV性能といった技術が向上したことによる恩恵を受けたと感じる静粛性の高さと乗り心地の良さが素晴らしく“良いクルマ”です。

BMWらしいハンドリングによる「駆けぬける歓び」はもちろん不変的で、決してハイパワーとは言えないものの必要にして十分で存在感が良い意味で薄い2.0L直列4気筒エンジンのフロント・ミッドシップ搭載による軽量さや重量配分の良さと、エンジンの鼓動をさらに打ち消すスムースでマナーの良い「マイルド・ハイブリッド・テクノロジー」の相乗効果によって、『とても強靭で優れた性能を持つ車体に乗っている』という感覚を助長してくれるので、静かに快適に移動する際のパフォーマンスの高さと乗り味は「駆けぬける歓び」を実現するハンドリングと相まって唯一無二の存在感を持っていると思います。
それらを両立して絶妙にバランスさせられる高い技術力は、長年の経験やノウハウによって培われたBMWの高い技術力によるものであることは疑いようもありません。

今後は車体をBEVとハイブリッド車で共有するのが一般的になりつつある自動車業界においては、その副次的効果やメリットをわかりやすく訴えかけてくれるBMWの「523i Exclusive」は伝統を受け継いだデザインと共に次世代に向けた最先端の存在であると思いますので、一度、その圧倒的に高い静粛性と快適性を味わってみることをおすすめします。

5シリーズ デザインスケッチ(BMW)

〔BMW 523i Exclusive 主要諸元〕
全長×全幅×全高=5060×1900×1515(mm)
ホイールベース=2995(mm)
エンジン=直列4気筒ガソリン・ターボ、総排気量=1998(cc)
最高出力※=140(kW)=190(PS)/ 5000(rpm)
最大トルク※=310(N・m)=31.6(kgf・m)/ 1500~4000(rpm)
※システムトータル(マイルド・ハイブリッド・システム)
電気モーター
最高出力=5(kW)=7(PS)/ 6000(rpm)
最大トルク=25(N・m)=2.5(kgf・m)/ 500(rpm)
トランスミッション=電子油圧制御式8速AT
駆動方式=FR(後輪駆動)
タイヤ、ホイール(フロント&リア)=245/45R19、8.5J×19
車両重量=1810(kg)※アダプティブ・サスペンションおよびパノラマ・ガラス・サンルーフ装備車=ベース+50(kg)
車両本体価格=¥7,980,000~

BMWのBrand Originality(ABeam Consulting)

参考リンク)
BMW Japan公式サイト
https://www.bmw.co.jp/ja/index.html
BMW GROUP PRESSCLUB JAPAN
https://www.press.bmwgroup.com/japan/
新型BMW 5シリーズ誕生
https://www.press.bmwgroup.com/japan/article/detail/T0423698JA/%E6%96%B0%E5%9E%8Bbmw-5%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E8%AA%95%E7%94%9F
The new BMW 5 Series Sedan.
https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0416261EN/the-new-bmw-5-series-sedan?language=en
インテグレーテッド・アクティブ・ステアリング
https://www.bmw.com/ja/automotive-life/drivingpleasure10.html

この記事を書いた人

橋爪一仁

自動車4社を経てアビームコンサルティング。企画業務を中心にCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等、自動車産業の幅広い経験をベースに現在は業界研究を中心に活動。特にCASEとエンジンが専門で日本車とドイツ車が得意領域。

橋爪一仁

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