
50年の歴史が育んだ「世界基準」
筆者(黒木美珠)は、30歳を迎えたら憧れの輸入車を手に入れたいという夢を持っています。本連載では、その夢に向けてさまざまなモデルに触れ、その魅力を確かめながら、「心を奪われる一台」と出会うまでの道のりを綴っています。第8回となる今回は、半世紀にわたり世界中で愛され続けるフォルクスワーゲンの象徴的モデル「ゴルフ」を取り上げます。
【画像56枚】黒木美珠さんと、“クルマのベンチマーク・モデル”として名高い「VWゴルフ」
初代ゴルフが登場したのは1974年。約50年の歴史を重ねる中で、コンパクトカーの理想像を示し続けてきました。私にとってゴルフは「世界の大衆車」「日常の足」といったイメージが強いモデルでした。一方で、モータージャーナリストとして活動を始めてからは、多くの先輩方から「やっぱりゴルフは良い」「クルマを評価する基準になるモデルだ」と耳にしてきました。その評判を自分の肌で確かめることができたのは、今回の試乗の大きなモチベーションでもあります。
シンプルながら個性を放つデザイン
今回試乗したのは フォルクスワーゲン・ゴルフ eTSI R-Line。ボディサイズは全長4,295mm、全幅1,790mm、全高1,475mmで、ホイールベースは2,620mm。車両重量は1,350kgです。サイズはコンパクトながら日本の都市部でも扱いやすく、高さ制限のある駐車場でも止めやすいのが嬉しいポイントです。エンジンは1.5L直列4気筒DOHCターボを搭載し、最高出力150PS、最大トルク250Nmを発揮。街乗りから高速道路まで幅広く対応できるパワーを備えています。
試乗車のボディカラーは「クリスタルアイスブルーM」。淡いブルーのボディは爽やかでありながら高級感もあり、ゴルフらしい知的な印象を与えてくれます。まず目を奪われたのは、光る「VW」エンブレム。盛夏の直射日光下では気づかなかったものの、陰に入った瞬間に点灯したエンブレムと左右をつなぐライトバーが強い先進感を印象づけました。さらに両端にはシャープなLEDヘッドライトが配置され、フラットなフロントグリルと相まって端正なフロントフェイスを構成しています。コンパクトでありながら確かな存在感を放つこのデザインは、長年愛され続けてきたゴルフというモデルの完成度を象徴しているようです。
機能美を極めたインテリア
車内に足を踏み入れると、シンプルながらも上質感の漂う空間が広がっています。第4世代の MIB4システム と最大12.9インチのワイドディスプレイを備えたインパネは、整理されたレイアウトで視認性に優れ、誰が乗ってもすぐに馴染める操作性です。タッチパネルの操作は賛否が分かれるポイントですが、このモデルは必要な物理スイッチを残しつつ、画面に集約された機能も大きなボタンや文字で表示されるため直感的に操作しやすい印象を受けました。
シートはサイドサポートがしっかりしており、体を包み込むようなホールド感が心地よいです。背もたれと座面のクッション性も程よく、長時間のドライブでも疲れにくい仕立てとなっています。こうした使いやすさと快適性の両立は、長年世界中で評価されてきたゴルフならではの完成度を感じさせます。
荷室容量は381L。後席を倒せば1,237Lまで拡大できます。買い物や日常の移動はもちろん、旅行の荷物もしっかり積める実用性が魅力です。
走りは「扱いやすさ」と「楽しさ」の絶妙なバランス
今回の試乗は、一部ワインディングを含む一般道で実施しました。街中を走り始めると、まず感じるのは扱いやすさです。ボディサイズはコンパクトで視界も良好。取り回しのしやすさに加え、足回りは程よく硬めのセッティング。嫌な硬さはではなく、引き締まった乗り味が心地よく感じられます。
ワインディングロードに入ると、このセッティングが生き、正確なハンドリングとフラットな姿勢で安心感のある走りを見せてくれました。ステアリングは適度な重さがあり、操作のダイレクト感を感じられる設定です。乗り心地も高いレベルでまとまっており、日常からロングドライブまで安心して任せられる万能さが印象的でした。
さらに、走行モードの切り替えによってキャラクターを自在に変えられる点も魅力です。ハザードスイッチ横のセレクターで「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「カスタム」を選択可能。
エコモードではパワーが過度に絞られることなく、自然な加速感で快適に走れます。燃費優先モードは我慢が必要という印象が強かった私にとって、街中での流れにスムーズに乗れるゴルフのエコモードは新鮮でした。買い物などの短距離移動では、あえて選びたくなるほどです。
コンフォートモードは街乗り向きで、ストップ&ゴーが続く道でも滑らかな加減速を実現し、疲れにくいセッティング。
一方、スポーツモードにするとアクセルレスポンスが鋭くなり、背中を押されるような加速感が味わえます。長い直線では思わずアクセルを踏みたくなる楽しさもあります。
普段は穏やかな性格のクルマが、一瞬で牙を覗かせるような変化が印象的です。また、パドルシフトを用いたマニュアルモードでは、自分の意思で変速する楽しさも味わえ、走り好きにはたまらない要素となっています。
「誰にでも扱いやすいけれど、運転好きの期待にも応える」、ゴルフの本質はまさにそこにあると感じました。
燃費性能と航続距離の安心感
今回の試乗では区間満タン計測は行っていませんが、車両のメーターには残り航続可能距離710kmと表示されていました。都内から片道約50kmのロケ地まで移動し、さらに撮影中にはインカー映像収録のため長時間アイドリングも行いましたが、それでも平均燃費は15.3km/Lを記録。移動中の高速区間では18km/L台も確認でき、ガソリンタンク容量51Lを考慮すると、理論上ワンタンクで約1000km近いロングドライブが可能な計算になります。
頻繁に長距離移動を行う身としては、この航続距離の長さは大きな安心材料です。長旅でも給油回数を気にせず走れるというのは、ドライバーにとって非常に魅力的なポイントだと感じました。
休日の朝、ハンドルを握りたくなるクルマ
今回の試乗でゴルフに触れ、ふと頭に浮かんだのは、休日の朝に家を出て高速道路で長野や山梨方面へ足を伸ばし、ワインディングを気持ちよく走り抜けるシーンです。
街中での扱いやすさや静粛性は、毎日の足として信頼できる要素ですが、一方でモードを切り替えれば、休日のドライバーの遊び心にも応えてくれそうな期待感があります。
そんな二面性を併せ持つところが、ゴルフの魅力だと改めて感じました。
価格は349万9000円(税込)から設定。輸入車の中では手の届きやすい価格帯でありながら、安全性、走行性能、質感のすべてが高い水準でまとめられています。輸入車デビューを検討する人にとって、まさに王道の選択肢といえるでしょう。
総評と評価
ゴルフは日常からロングドライブまでシームレスにこなす懐の深さが印象的でした。取り回しやすさや燃費性能といった実用性を備えながら、走りの楽しさや高い質感でドライバーを飽きさせない一台。先輩ジャーナリストたちの「まずはゴルフを基準に」という言葉の意味を、ようやく体感できた気がします。
【5段階評価】
美しさ:⭐⭐
個性:⭐
デザイン:⭐⭐⭐
サイズ感:⭐⭐⭐⭐
価格:⭐⭐⭐⭐
走り:⭐⭐⭐⭐⭐
購入可能性は……75%。華美なデザインではないものの、堅実で完成度が高く、「走り」という観点では筆者にとってピカイチの一台でした。さらに、中古車市場でも選択肢が豊富で、価格や条件を考慮すれば購入可能性は一気に高まります。
「輸入車デビューへの道」はまだまだ続きます。
今回は、ゴルフという歴史あるモデルの魅力を体感し、その完成度の高さを改めて実感しました。皆さんが気になる輸入車や試乗してほしいモデルがあれば、ぜひX(旧Twitter)で「#輸入車デビューへの道」をつけて教えてください。
それでは、また次のクルマでお会いしましょう。