それでも「回す楽しみ」に溢れている
試乗車として富士スピードウェイのピットに用意されていたのは高性能版のC63 S。ちなみにここまではベースモデルの新型C180クーペに乗ってきたのだが、ホワイトのボディーカラーまで同じなのに外観の印象が2台でだいぶ異なることに気がつく。ひとことでいうならC180は「エレガント」、C63は「レーシー」だろうか。それもそのはず、聞けばドア、ルーフ、トランクを除くほぼすべての外板パーツがC 63 クーペ専用に仕立て直されているというではないか。先代はフロントトレッドだけの拡大でリアはノーマルと同じボディを使っていたが、新型は前後ともトレッドが40㎜ほどワイドになり、これに対応して前後フェンダーを大きく張り出させているのである。このあたりの差別化はオーナーにとって大いに満足度の上がるポイントだろう。
ヘルメットを被るとやや後部に圧迫感を覚えるものの、ポジション自体はバッチリ決まるスポーツシートに収まり、スタータースイッチをプッシュ。キュキュッというごく短いクランキングのあと、すぐに低く「ヴオォォォォォォォ……」と、牙をむいた獣よろしく唸りはじめるあたりがターボ時代のAMG流だ。早速走行モードを「S(スポーツ)」にセットしてコースイン、まずは味見を試みる。
4.0リッターV8ツインターボにはもう、文句のつけようがあるべくもない。踏めば1750rpmというごく低回転から700Nmの最大トルクが炸裂、「ヴオァァァァァァァン!」というやや濁ったテノールを周囲に撒き散らしながら強烈な縦Gをドライバーに見舞う。ターボエンジンゆえ以前の自然吸気6.2リッターに比べると加速感はややフラットでドライなのだが、それでも4000rpmを越えたあたりからさらにぐんぐんと車速が伸びるから「回す楽しみ」は健在だ。そしてレッドゾーンのはじまる7000rpmにタコメーターの針がタッチした瞬間、電光石火でシフトアップ! DCTにもひけをとらぬこの変速スピードとダイレクト感は、AMG C63を「スポーティなクーペ」ではなく、れっきとした「スポーツカー」たらしめている大いなる理由のひとつだと思う。
260km/hでもリフト知らず
ハンドリングは大きく重いV8ツインターボエンジンをフロントに積むのにクセというものがまったくなく、切れば切っただけ曲がっていく印象。追い込んでも旋回軌跡をダラダラと膨らませるようなことはほとんどない。しかもボディの開口部が小さい2ドアゆえにセダンやワゴンよりも剛性感が高く、後半にあるタイトかつテクニカルなコーナーが連続するような場面では、ハンドリングがより引き締まっているように感じられた。繊細なステアリングワークやアクセル&ブレーキの操作に、クルマがより緻密に、正確に、瞬間的に応えてくれるような印象なのだ。
そして最終コーナーを立ち上がり、メインストレートでアクセルをフラットアウト! まるでスピードメーターの針がタコメーターの針と同期しているかのようにスピードが乗ってゆき、あっという間にデジタルメーターは260km/hを表示。そんな時でも「あれ、リミッター付いてないの……?」なんてことを考えてしまうほどクルマはビタリと路面に貼り付いてリフトする気配すらみせず、ドライバーに不安な感情を抱かせない。プレス資料には空力についての言及はほとんどなかったが、控えめなエアロパーツが吟味に吟味を重ねてデザインされていることは間違いなさそうだ。
その後はAMGダイナミックセレクトを「S+」「レース」などに変えてあれこれ試しつつサーキット走行を楽しんだが、都度エキゾーストサウンドやドリフトアングルの許容度が変化するので「このクルマ、もしオーナーになったらきっと攻略し甲斐があるだろうなぁ……」なんてつい考えてしまった。
それでいて心ゆくまでサーキット走行を楽しんだら、帰路はアダプティブクルーズコントロールの「ディストロニック」をオンにして、半自動運転に切り替えて家路につくことさえできるのだ。これぞ究極のスポーツカー。そう言わずして、果たしてなんと言えばいいのだろうか?
メルセデスAMG C63 Sクーペ
東京標準現金価格 ¥13,580,000
全長/全幅/全高 4750/1877/1400㎜
ホイールベース 2840㎜
車両重量 -㎏
エンジン型式/種類 M177/V8DOHC32V+ツインターボ
総排気量 3982㏄
最高出力 510ps(375kW)/5500-6250rpm
最大トルク 700Nm(71.4㎏-m)/1750-4500rpm
トランスミッション 7速AT
燃費(JC08) –㎞/L
サスペンション形式 前:4リンク/コイル
後:マルチリンク/コイル
ブレーキ ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前:255/35R19 後:285/30R19
問い合わせ先 メルセデス・ベンツ日本 http://www.mercedes-benz.co.jp
- Report : Naohide ICHIHARA (Editor in Chief) Photo:MERCEDES-BENZ JAPAN
- Report : Naohide ICHIHARA (Editor in Chief) Photo:MERCEDES-BENZ JAPAN
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