
911に対するエントリーモデルの718
日本でも718ボクスターのデリバリーがはじまり、ひょっとしたら911のエンジンが空冷から水冷に変わった時と同じくらい激しいんじゃないか? というほどにクルマ好きの間では侃々諤々が繰り広げられている。なぜかといえば、2012~3年に登場した3代目ボクスター/2代目ケイマンが2.7リッターと3.4リッターの水平対向6気筒エンジンを搭載していたのに対し、そのマイナーチェンジ版である「718ボクスター/718ケイマン」は排気量2.0リッターと2.5リッターの4気筒ターボにダウンサイジングしてきたからだ。
これはもちろん、迫り来る欧州の罰金付き燃費規制への対応として、エコ性能をトコトンまで引き上げなくてはならないという必要性から敢行されたもの。実際718ケイマンで11%、718ケイマンSで8%の改善が図られており、さらにパワーアップまでしているのだから文句はないように思えるのだが、スポーツカーだけに絶対性能よりも感覚性能を重視する人たちが多いのも事実。つまり燃費や速さより6気筒ならでは精緻な回転フィーリング、自然吸気エンジンらしい俊敏なアクセルレスポンスや乾いたエキゾーストサウンドをヨシとする人たちだ。そして悩ましいことに、先代モデルの時点でスポーツカーとしては十分に燃費性能が優れていたという事実もある。欧州複合燃費はケイマンで12.2km/L、ケイマンSで11.4 km/Lを示していたのだ。
私もどちらかといえば後者の立場に近いので、718ボクスター/ケイマンに対してはややいぶかった見方をしていたのだが……。果たして「最新が最良」のキーワードはここでも繰り返されるのだろうか?
718ケイマンの概要は以前の記事「ポルシェ718ケイマンの予約受注が日本でも開始。2017年モデルの左ハンドル車は6月中のみ!」に詳しいが、ここでも簡単におさらいしておこう。ケイマンといえば長らくオープンモデル=ボクスターのクーペ版で、よりパワフルなエンジンを積むことで価格も高く設定、上位モデルとして扱われてきた。しかしエントリースポーツカーとしての役割を強化すべく、エンジンや外観を718ボクスターと共通化し、ベーシックモデルは戦略的に価格も約10万円ほど引き下げられた(上級モデルのケイマンSは順当に引き上げ)。つまりケイマンとボクスターは「911に対する718、そのクーペとロードスター」という位置づけになり、価格設定も「クーペよりオープンの方が高い」という世の中の常識に則い、718ケイマンが619~865.4万円、718ボクスターが658~904.4万円と、プライスレンジも逆転することに。ちなみに「718」とは1950~60年代に4気筒エンジンをミッドに積んで活躍したレーシングカーにちなんだもの。ポルシェはこういったストーリー作りも上手い。
実はボディパネルもほぼ全面的に刷新
エンジンは718ケイマンが2.0リッター水平対向4気筒シングルターボで、最高出力300ps/最大トルク380Nm。これは先代を25ps/90Nmも上回るものだ。そして718ケイマンSは排気量が2.5リッターに拡大されており、同時にターボを可変タービンジオメトリー(VGT)タイプに変更。エンジン回転数に応じてより効果的に過給をすることが可能になり、350ps(+25ps)/420Nm(+50Nm)と、ひと昔前の4.0リッターV8級のパワフルさを誇るに至った。「排気量だけ下げて6気筒ターボにしてくれればよかったのに……」という声が聞こえてきそうだが、ちょっと考えて欲しい。718はミッドシップなのだ。その狭いエンジンコンパートメントでは、6気筒のままターボユニット一式を上手く取り回すことができなかったそうで、つまり2気筒をカットし、その空いたスペースにターボを押し込んだというわけ。その影響は排気系にもあらわれていて、エキゾーストマニホールドが不等長になった。このあたりがサウンドに与える影響も気になるところだ。トランスミッションは従来通り両車ともに6速MTが標準、デュアルクラッチの7速DCT、ポルシェがいうところの「PDK」がオプションとして用意される。
そしてこれらの改良によって得られる性能アップは劇的なほどで、欧州複合燃費は718ケイマンで13.5km/L、Sは12.3km/Lにまで向上。0-100km/h加速は5.1秒と4.6秒で、それぞれ0.6秒、0.4秒も短縮している。なおSにPDKとスポーツクロノパッケージをオプション装着、ローンチコントロール機能を使ってダッシュすれば4.2秒で100m先のゴールテープを駆け切ることができるのだが、これはもうちょっと前のスーパーカー級。調べたらフェラーリ360モデナの0-100km/h加速が4.5秒、アウディR8の4.2 V8が4.3秒だった。
さて、その718ケイマンの国際試乗会はスウェーデン第三の都市、マルメで行なわれた。天気は快晴。ホテルのエントランスにはレッドやイエローに加えてオレンジやブルーなど、目にもまばゆい色とりどりの718ケイマンがおよそ20台ほど並んでいる。実際にこの目で見るのははじめてのことだったが、フロントウインドーとルーフ、リアゲート以外はまっく新しい……という割に劇的な変化は感じられない。だがそれは狙いでもあるのだろう。しかしよく観察すればフロントバンパーに組み込まれた横長のデイタイムランニングライトがワイド感をいっそう強調しているし、ややもの足りない? とも思わせたリアにはオートスポイラーの下に「PORSCHE」のロゴが入ったアクセントストリップが追加されている。エンブレムやリフレクターが下に移動した関係もあってより重心が低くなり、安定感が増したような印象を受ける。あれ、ちょっとカッコイイんじゃないの?
まず乗り込んだのは2.0リッターの6速MTモデルだ。キーをスロットに差し、いよいよ左手で右へと捻る。果たして、4気筒ターボはどう吠えるのか……!【後編に続く】
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- Report : Naohide ICHIHARA (Editor in Chief) Photo:PORSCHE JAPAN