
エンジンにM3/M4譲りのパーツを使用
昔は「クロカン(クロスカントリービークル)」なんて呼ばれていた四輪駆動車(4WD)。そこから、もっと身近で乗用車ライクなSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)なるジャンルが派生して早二十余年。SUVはいまや世界中で人気を博しているが、ここまでメジャーな存在になると、さらに人とは違ったものを欲しがる層が出てくるのも事実。そんな人たちにいちはやくアプローチしてきたのがBMWで、ワゴンタイプのX5とX3にルーフの低いスタイリッシュなクーペ仕様を設定、すでにX6、X4としてリリースしている。
今回試乗したのはそのX4に追加設定された高性能モデル「X4 M40i」で、これは標準仕様の「X4 xDrive35i」をBMWのモータースポーツ部門である「M社」がチューニングしたクルマ。搭載する3.0リッター直列6気筒エンジンはノーマルを54馬力も上回る360馬力を発生するなど、ほとんどスポーツカー並みのハイパフォーマンスを売りにしているのだが、外観はノーマル系スポーティグレード「Mスポーツ」のエアロパーツに控えめなシルバーの加飾パーツをプラスしたり、専用のアルミホイールを装着するにとどまる。0-100km/h加速4.9秒の俊足を誇る割にはかなり控えめな装いなのだ。
だが運転席に乗り込み、スタータースイッチをプッシュするとそんな感想は一変する。「ヴァォゥン! ボボッ、ボボボボボボ……」と、盛大に吠えたあとも周囲に敵意をむき出しにしたまま、ずっと低く唸っているのだ。このあたりがxDrive35iとの大きな違い。M40iはテールパイプが左右2本出しになる、専用のデュアルエグゾーストシステムを装着しているのだ。いまどき珍しい(?)ほどの肉食系である。
そして走り出すと、もちろんエグゾーストサウンドのボリュームがさらに大きくなってゆくのだが、これに官能的なエンジンのメカニカル音や吸気音が加わり、次第にハイトーンに、そしてビートの粒もそろってくるからたまらない。いまや高級車でも4気筒エンジンが普通になってしまったが、改めて6気筒、しかもBMW謹製のストレート6に乗ると、そのスムーズさ、滑らかさはやはり感動モノ。ひと昔前は320iでも直列6気筒が味わえたのだが、あぁ、君はずいぶんと遠いところに行ってしまった……。だから「どうせ乗るなら最高の6気筒を」と思う気持ちもよくわかる。そんな情勢もM40i登場の背景にはあるのかもしれない。ちなみにこのエンジン、想像以上にM社の手が加えられているあたりもソソられるポイント。コンピュータの調整だけではなく、鍛造クランクシャフト、専用ピストン、スパークプラグなどはあのスポーツカーM3/M4譲りのパーツに変更。オイルクーラーまで追加されているのだ。
走行モードの変更でさまざまな表情をみせる
ハンドリングもほとんどスポーツカーのそれ。BMWが先鞭をつけた連続可変ギアレシオの「バリアブル・スポーツ・ステアリング」のおかげもあり、タイトなコーナーでも面白いようにクルマがグイグイと内側に入ってゆく。これはコーナリング中、内輪のブレーキをちょっとつまんで回転方向の動きを作り出したり、4輪の前後駆動力配分を最適に調整してくれるといった、ハイテクの数々が大きく貢献しているはずだ。そこにはもはや「背の高いSUVを操っている」という感覚はまるでない。どちらかといえば「アイポイントの高いスポーツカーに乗っている」という感じだ。ただしエンジンもステアリングも何もかもが操作に対して刹那に反応するので、個人的にはもう少し「0と1の間」というか、課程というかアナログ感を楽しみたい気もするが……。
乗り心地はノーマル系と違ってランフラットタイヤを採用していないこともあり、想像したよりも悪くないな、という印象。特に路面の段差やひび割れは上手く鞣しているようだ。これは減衰力可変式サスペンションの「ダイナミック・ダンピング・コントロール」を標準装備することも大きいはず。ただしサスペンション自体は引き締められているので、路面がうねっていたりするとクルマがそれを拾ってしまい、フロアが前後方向に同じように揺れてしまう傾向はある。もちろん不快なほどではなかったが。
実用性については、ルーフが低くなりガラスエリアが小さくなっただけ側方/後方視界はX3より悪化しているものの、取り回しのしやすさはX3とほぼ同じ。ラゲッジルーム容量もX3の550~1600リッターに対して500~1400リッターに減っているが、床面積は変わらないので、いつも荷室いっぱいにモノを積み込むのでなければあまり影響はないだろう。燃費は公称11.2km/Lだが、今回取材でアクセルを気の向くままに踏み込んだ結果、約200kmを走って7.0km/Lだった。このハイパフォーマンスを堪能してこの燃費なら上等だろう。
走行モード選択システム「ダイナミック・パフォーマンス・コントロール」は標準装備。「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ・プラス」「エコ・プロ(燃費重視)」の4モードが設定されているから、走りの振れ幅は大きい。サルーンに飽きた方も、カッコいいSUVに乗りたい方も、新種のスポーツカーが欲しい方も。X4 M40iは、多くの人にマッチする、いまいちばんエッジの効いた選択肢といえるかもしれない。
BMW X4 M40i
東京標準現金価格 ¥8,760,000
全長/全幅/全高 4680/1900/1625㎜
ホイールベース 2810㎜
車両重量 1920㎏
エンジン型式/種類 N55B30A/直6DOHC24V+ターボ
総排気量 2979㏄
最高出力 360ps(265kW)/5800rpm
最大トルク 465Nm(47.4㎏-m)/1350-5250rpm
トランスミッション 8速AT
燃費(JC08) 11.2㎞/L
サスペンション形式 前:ストラット/コイル
後:5リンク/コイル
ブレーキ ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前:245/40ZR20 後:275/35ZR20
問い合わせ先 BMWジャパン http://www.bmw.co.jp