モータースポーツ

2017年シーズンF1グランプリの後半戦を振り返る

 2017シーズンのF1世界選手権は11月26日の最終戦アブダビGPで全20戦を終了し、ルイス・ハミルトン(32/英)が2年ぶり4度目のワールドチャンピオンを、所属するメルセデスAMGは、2014年から排気量1.6リッターV6ターボHVパワーユニット(PU)がマシンに採用されて以来、4年連続となるダブルタイトルを制覇。ハミルトンは年間9勝を含む全戦入賞の強さに加え、予選ポールポジション獲得11回と抜群の速さを発揮し、忠実なナンバー2のバルテリ・ボッタス(28/フィンランド)でさえお手上げ状態の『ハミルトン劇場』で他を圧倒したのである。

 とどのつまり、またしてもメルセデスの独走に終わった今季のF1を、面白かったと思うファンは全体の何割いるのだろう? もちろんハミルトンとメルセデスのファンは満足だろうがそれ以外のファン、特にフェラーリを応援していた人々にとっては、セバスチャン・ベッテル(30/独)がランキング首位に立ち続けたシーズン前半に夢を描いたぶん、よけいにフラストレーションが残ったのではなかろうか。何しろ、ハミルトンが夏休み明けの第12戦ベルギーGPから第18戦メキシコGPまでの7戦で5勝を挙げ、獲得ポイントのグラフが右肩上がりの弧を描いたのに対し、ベッテルは『フェラーリ病』と言うべきメカニカルトラブルの頻発や雨の第14戦シンガポールGPでの僚友キミ・ライコネン(38/フィンランド)との同士討ちなどで横ばい状態。結局、ベルギーGP以降の5戦で一度も表彰台に上がれなかったことが、メキシコGPでのハミルトンとメルセデスの戴冠を許す要因となった。

 とはいえ、今季のフェラーリはベッテルの年間5勝に加え、ライコネンの2006年フランスGP以来となる第6戦モナコGPでのポールポジション獲得や2012年以来となる獲得ポイント200点超えなど、未勝利に終わった昨シーズンと比べても格段に安定した戦闘力を発揮。ルノーPUが自己評価ほど威力を発揮しなかったレッドブルに代わって製造者ランキング2位に浮上したフェラーリを、来季も打倒ハミルトン&メルセデスの先鋒としてを推す声は高い。

 残りの勝ち星はメルセデスのボッタスが3勝、レッドブルの若き有望株マックス・フェルスタッペン(20/オランダ)が2勝、同僚ダニエル・リカルド(28/オーストラリア)が1勝とトップ3チームが分け合い、中団以下のチームで表彰台に上がったのは、荒れた展開でハミルトンとフェラーリの2台が消えた第8戦アゼルバイジャンGPで3位に入ったウィリアムズのランス・ストロール(19/カナダ)のみだった。

 年頭の株式買収でF1新運営会社となったリバティメディアが掲げる「面白いF1の復活」にはまだ遠い現状に、運営会社トップのチェース・キャリーCEOは上位3チームとそれ以下の『格差』是正および新規の参入を促すべく、有力チームへの優遇措置の撤廃や2021年以降の次世代エンジン規則(現行PUの熱エネルギー回生システムの撤廃)などの策定をブチあげたが、欧州の格差社会に慣れ親しんでいる上位チームは当然反対の立場を取っている。特にF1の代名詞的存在であるフェラーリは伝家の宝刀『撤退』の二文字をチラつかせて米国人CEOを強く牽制。それがどこまで本気なのか図りようもないが、10年ほど前の分配金をめぐる分裂騒動の際にフェラーリがとった姿勢を思い出すと、合理主義の北米でキャリアを積みながらイタリア人気質を身体の芯で理解しているセルジオ・マルキオンネ会長(65)の『脅し』を、運営会社の米国人トップも軽く受け流すなどできないはずだ。

 さて、PUメーカーのトレードというウルトラCでマクラーレンとの離婚が成立し、来シーズンからはトロ・ロッソと新たに出直すことになったホンダが組織変更を発表した。
「これまでF1総責任者が担っていた技術開発とレース現場指揮監督の責任範囲を分離し、開発とレース、テスト現場それぞれが、よりスピーディに業務を遂行できる体制へと進化させる」という発表は、一見、前向きな改革を謳っているかにみえるが、つまりは新パートナーとの共闘で芳しい結果が出なかったとしてもホンダ側の責任の所在は不明瞭にして不明確になるという、実際は後ろ向きな内容である。少なくとも攻めの姿勢をそこに感じることは私にはできない。

 思えばこの第4期参戦、たしか最初は『まったく新しい人材での挑戦』を謳っていた。第三期のF1活動を無かったことのように扱い、第三期に関わったエンジニアらを蚊帳の外に置いて計画をスタートさせたものの、F1どころかモータースポーツ全般の経験すらアヤしいメンバーだけでは立ちゆかなくなり、結局は第三期経験者に招集をかけることでどうにか回っていたというのが実情だ。今回の改革で廃止となった『F1総責任者』も、モータースポーツ初心者で今活動のの混乱の元を作ったひとりでもあるのが初代で、その引っかき回すだけ引っかき回した後始末をしたのが第三期経験者の2代目だった。初代の尻ぬぐいがようやく終わり、心機一転、本当のスタートが切られるのかと思いきや、成績低迷の全責任をおっつける格好で2代目は退任。なのに新組織は責任分散型へ移行するという。

 いったいホンダはF1で何をしたいのか。どなたか理解できる人がおられたら、ぜひともご教示いただきたいと真剣に思う。

 

レポート:段 純恵 S.Dan/フォト:熱田 護 M.Atsuta(Chrono Graphics)

レポート:段 純恵 S.Dan/フォト:熱田 護 M.Atsuta(Chrono Graphics)
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CARSMEET web編集部

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