いよいよ表彰台の頂点か?
M4 GT4が初のタイ戦に
ブランパンGTアジアの第2ラウンドが開催されるブリーラムのチャン・インターナショナル・サーキットは、タイの首都バンコクから陸路で5時間も掛かる。仮に、千葉県の成田空港に降り立った外国人ドライバーが、三重県の鈴鹿サーキットまで陸路で移動することを考えたら、なかなかシビレる距離だということは想像に難くないだろう。とはいえ、今回はBMWが最新SAVモデルのX3を移動用に提供してくれた。これかがなかなか快適な乗り心地だったので感謝感激である。
そもそも初めてのサーキットに向かうのは、不安の「ソワソワ」よりも期待の「ワクワク」が勝るタイプだから、数台のX3に分乗してのコンボイは陽気なもので、前戦のセパンを反省したり、慣れぬ異国のルールやしきたりを確認したりしているうちにアッという間に5時間が過ぎ去った。となると、もともとがポジティブ思考のチームだから、もう勝ったも同然の雰囲気に包まれる。早くも、レース後の祝勝会の店探しを始めたほどである。
楽観的になる理由には根拠があった。ブランパンGTアジアはルールが独特で、スケジュールを順当にこなせば勝てない理由が見つからなかったのである。たとえば、M4 GT4がエントリーするGT4クラス規定のひとつに「サクセスペナルティ」システムがある。前戦のレースで表彰台に立ったチームは、翌戦でピットストップ時間にプラス制限が課せられる。優勝チームは15秒で2位が10秒、3位は5秒も余計に停止しなければならない。日本のSUPER GTでは次戦に「サクセスバラスト」でウエイトが積まされるので戦闘力が落ちる。だがブランパンGTアジアは、戦闘力はそのままに、ピット時間を足枷としているのである。
もともとピット作業時間帯は定められている。レースディスタンスは1時間だ、そのレースがスタートしてから、25分から35分が経過するまでの時間帯にピットがオープンされ、その時間内にドライバー交代等の作業を進めなければならない。ライバルを出し抜くための早めのピットインや、敵の出方を確認してからピットインを遅らせる作戦は許されない。しかもそのピットストップは、ピットロード入り口から、数々の作業をこなしてピットロード出口のラインを通過するまで、125秒を下回ってはならないと定められている。さらに付け加えるならば、レースは耐久形式ではあるものの、ドライバーは1名でも2名でもいい。ただし、1名で走りきるチームも2名体制のチームと同様に125秒のピットストップが課せられるばかりか、さらに7秒間の延長が強いられるのだ。
今回最大のライバルと予想されていた666号車のメルセデスAMG GT4は、とびっきり速いエースドライバーひとりでの参戦だった。彼らはさらに7秒のハンディキャップを背負わされたのである。つまり、だ。前戦で優勝したAMG GT4の72号車は140秒のピットストップ。前戦2位の我々は135秒をロス。前戦3位の666号車は、125秒+5秒+7秒で合計137秒のストップ。上位争いが予想されたライバルの中では、BMW Team Studieの81号車はもっともピットストップ時間が短い。
前戦で表彰台を逃したチームに比べれば10秒のハンディキャップを背負わされるのだが、そのタイムはコース上で取り返す自信があった。というように、勝ち勘定ができていたのだから、バンコクからサーキットまでの道のりが陽気だったのも想像できると思う。
まさに好事魔多しの81号車
しかも、である。レーススケジュールが進行してからもさらに幸運が続いた。第1レースの予選では3番時計だったもの、ライバルの2台が車両違反と走行違反で最後尾グリッドに降格された。ピットタイム的に有利であるばかりかライバルは下位からのスタートなのである。「これで勝てなければ、いつ勝つの?」って話である。
ところがレースはそう都合よくは進まなかった。祝勝会の会場など探すとロクなことがない好例だ。BoP(性能調整)で圧倒的に有利なAMG GT4の666号車は、最後尾スタートにも関わらず、レースがスタートしてから数周した頃には、スタート担当の砂子塾長が好ラップを連発するも、さらに速いタイムで抜き去り、楽々とトップに立ってしまった。
その後、混乱した我々は、接触ペナルティを課せられたり、バーストしたりと自らのミスで撃沈。結局、最後尾でゴール。散々な展開でレースを終えてしまったのだ。
さらに悲劇は続いた。レース1では宿敵AMG GT4の666号車が優勝、72号車が2位になったから、レース2で彼らからは、それぞれ12秒と10秒のプレゼントをいただいてのスタート。圧倒的に有利な状況である。にも関わらず、レース2のスタートを担当した僕は、速さで優る666号車をオープニングラップで仕留めた! しかし、気を良くしたのも束の間、ライバルの猛追に防戦一方となり、耐えきれずに順位ダウン。
ここまではピットで得られる22秒と10秒を考えての判断だったが、運が悪いことに、主催者から配給された性能調整用のエンジンセンサーの不具合でパワーダウン。スゴスゴとピットに帰還したところでリタイヤを決断することになったのだ。そう、計算上勝てるレースを2レースとも落としてしまったのである。これにはマイッた!
チームメイトの82号車が3位でポディウムに立って派手なシャンパンファイトをしてくれたのが唯一の救いだったけれど、エースを自負する81号車がだらしない戦いをしたのでは、チームと応援してくださるファンに申し訳ない思いである。
次戦の鈴鹿ラウンド。前述のピットストップ規定を考えれば、圧倒的に有利な状況で凱旋レースを迎えられるのだ。ポディウムの頂上には立たねばならないと今から気持ちを引き締めている。
今回のタイ・ブリーラム戦の後に多くの方から激励のメールをいただいた。
「日本ラウンドで初優勝するために、今回はわざと負けてくれたんですよね?」
優しくもあり気の利いたコメントが唯一の癒しだった。
「さて、鈴鹿の祝勝会の席は……」いや、それは表彰台で考えることにします……。
BMW Team Studie公式サイト http://TeamStudie.jp/
【木下隆之】Takayuki Kinoshita
出版社編集部勤務を経てレーシングドライバーとしての活動を開始。全日本ツーリングカー選手権、全日本F3選手権、スーパーGT500/GT300等で優勝多数。スパ・フランコルシャン24時間、シャモニー24時間等々、数多くの海外経験を持ち、特にニュル24時間レースへの参戦は日本人最多出場記録および最高位記録を保持。一方で、数々の雑誌に寄稿するモータージャーナリストであり、ドライビングディレクター、イベントプロデュース/ディレクションをこなす。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。
【Blancpain GT Series Asia】 ブランパンGTシリーズ・アジア
FIA規定GT3マシンとGT4マシンによりポイントを争うGT選手権シリーズ。土日開催の各ラウンドを2名のドライバーが1台のマシンを駆り闘う展開の速い1時間のレースである。6ラウンド全12戦となる今季は、マレーシア・セパン(4/14-15)で開幕。タイのチャン国際サーキット(5/12-13)から鈴鹿サーキット(6/30-7/1)、富士スピードウェイ(7/21-22)、上海国際サーキット(9/22-23)をラウンドして中国の寧波国際サーキット(10/13-14)が最終戦となる。http://www.blancpain-gt-series-asia.com/