清水和夫のDST

レクサスの新鋭スポーツクーペが 美しき強敵、M6カブリオレに善戦【清水和夫のDST】Number 85-1

清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)
Number 85

レクサス LC500 vs BMW M6 カブリオレ

レクサスにとってLCのような、エレガントなスポーツクーペの誕生は長年の夢だった。販売台数こそ見込めないが、高級ブランドとしてイメージアップに繋がるポジショニングになるからだ。一方のM6はすでに市場で存在感を放ち、実際北米では人気を誇るモデル。ともにV8ユニットを搭載するニューカマーとベンチマーク、その実力を徹底的にテストした。

 

新鋭のLCがM6に挑む! どこまで対抗できるのか?

高級車の基本となるFRプラットフォームは、レクサスLCから始まった。チーフエンジニア兼FRプラットフォームの開発を指揮した佐藤氏は、シャシー技術の出身であるため、数値になりにくいドライバーだけが知る世界をクル マ造りに反映しようとしていた。ゆえにシミュレーション技術によるモデルベース開発を進めた上で、最終的にはドライバーの実車試乗での評価を重視し、世界中の様々な道を走って煮詰められた。

R32GT-Rを開発した当時のスカイライン・チームは、「ドライバーは神の声」という信念で開発を進めたと言われている。マツダのロードスターも同様で、名車と呼ばれるクルマは、必ずドライバー中心の開発が行なわれている。

LC500のダイナミクスは悪くない。基本スペックとしては低重心化と前後重量配分の最適化、さらにドライビングポジションを低くし、ダッシュボードを下げたことで、スポーツカーの感覚で乗れる高級クーペに仕立てられてい る。しかも乗り心地が驚くほど良いのは、専用開発されたミシュランのランフラットタイヤの存在が大きい。サスペンションとタイヤがうまくマッチングしていて、ランフラットの常識を変えるような快適性を実現している。パワートレインはV8ガソリン仕様とハイブリッドがラインナップされ、肉食系と草食系といったところ。今回テストしたのはV8ガソリン仕様だが、ハイブリッド仕様のダイナミクスも気になる所ではある。

パワーではLC500を圧倒するBMW M6のV8ツインターボは、自然吸気にも負けない鋭いレスポンスが光っている。このM6に搭載されているエンジンは、BMWの他のV8ツインターボとは異なり、ロスバンクエキゾーストマニホールドという独自のシステムを備え、1気筒ごとに鼓動を感じるMモデル独自のホットなV8なのだ。最近流行しているバンク内にターボを配置するスタイルだが、M6のV8は向かい合うシリンダーを2気筒ごとにペアを組み、4本のエキゾーストマニフォールドに集合させている。結果的に2基のツインスクロール・ターボに導かれるわけだが、このシステムでは排気ガスエネルギーの立ち上がりが早く、タービンのレスポンスが高まるのだ。これはBMWの特許技術のため、世界でオンリーワンのV8ツインターボなのである。

テストにおいても、このM6独自のV8と、BMWが得意とするダイレクトなハンドリングがとても印象的だった。ダブルレーンチェンジでのハンドリングのダイレクト感は、スポーツカー以上の鋭さを持っている。

気になったのは一般道路のブレーキが過敏で、街中を走りにくかった点。もう少しタウンスピードでの走りやすさを追求して欲しく、加えてウェット旋回ブレーキの場面でも性能自体を高めて欲しいと感じたが、これについては、次世代の新規プラットフォームに期待したいところである。

 

レクサスの新たな世界観とブレないBMWらしさ

2012年のデトロイト・ショーで披露されたLCは、レクサスの高級クーペのスタディモデルだった。その夢が叶って誕生したのがLC500だ。ハイブリッドという独自の武器と、クルマ好きを唸らせるV8を設定して登場。やはりド ライバー目線で開発されたため、テスト結果を含め、完成度の高さを体感することができた。BMWにとって6シリーズは重要な機種だ。レースの世界では、FIA GT3でM6が主役を務めており、空力に優れ、サーキットでも速い。今回はカブリオレだったが、そのダイナミクスは素晴らしかった。ベンチマークたる実力は期待を裏切らない内容だった。

 

RESULT

潜在能力の高いM6に見劣りすることないLC500の高い完成度
●BMW M6 カブリオレ:17.0/20点
●レクサス LC500:17.0/20点

ル・ボラン 2017年12月号より転載
LE VOLANT web編集部

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