
清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)
Number 71:ポルシェのターボ vs 自然吸気論争に終止符
ポルシェ911カレラS(後期991Ⅱ)vs ポルシェ911カレラ4GTS(991型)
2011年に新プラットフォームを投入し、ホイールベースが100mm長くなったことで、高性能GTクーペのキャラクターがより鮮明になった911。しかし、その同シリーズも2015年秋にエンジンを全面改良。新たに3.0Lフラット6のターボエンジンを搭載した。今回はその3.0LターボとNAエンジンの新旧カレラを徹底的にテストする。
新型カレラのシャシーはどう進化したのか
「ダウンサイジングでなくライトサイジング」。これは、今回テストを行なったフラット6をターボ化した991型カレラ後期型モデルに搭載するパワーユニットを指すのはもちろんのこと、新しく水平対向4気筒ターボを搭載した718ボクスターや同ケイマンも含めた最近のポルシェの言い分だ。彼らは「単に排気量を下げてターボ化したのではない」ということを主張している。
ターボ化に伴い大幅な変更を受けたパワーユニットをどう評価するのか。多くのポルシェファンが気になるポイントは、まさにそこだろう。ということで、やはり新しい3.0Lターボに俄然注目が集まるが、スペックを見れば911カレラSの最大トルクは500Nmで、なんと996時代の911ターボと同じトルクを発生している。しかも後輪駆動のカレラなので、911 GT2を彷彿とさせる。
しかし、DSTでは単にターボ化されたエンジンパフォーマンスをテストするのではなく、車両の総合的なダイナミクス性能を評価するので、ハンドリングやブレーキングなどシャシー性能も進化していないと辻褄が合わなくなる。
加速性能は圧倒的にターボのほうが勝るが、はたして街中を走らせたときに自然吸気エンジンのスムーズさに勝てるのだろうか。
実際に行なった発進加速の比較では、自然吸気よりもPDKのクラッチミート回転数が低いのれ、フィーリングもいいことが分 かった。ターボによるタイムラグも気にならない程度。音や振動もターボの方が少なく、洗練されたエンジンとPDKの組み合わせで あることを強く感じた。
また、今回テストはしなかったが、ターボのMT車はWマス(フライホイールの質量を重くしたタイプ)のフライホイールを採用し、低回転でも粘り強い走りをみせることを確認済みだ。テスト前までは、自然吸気の911カレラが消えてしまうのをとても寂しく思っていたが、実際に乗り比べてみて、洗練された新型のターボエンジンに改めて惚れ込んでしまった。
しかし、私の気持ちを動かしたのはエンジンだけでなく、前期型より確実に進化したシャシー性能にあった。特にブレーキフィールがめちゃくちゃに素晴らしいのだ。普通にブレーキを踏んだときでも微妙なコントロールが可能だし、宇宙一だと思っていたこれまでの991前期型のブレーキを完全に凌駕している。後期型991IIのそれを味わった後では、前期型のブレーキフィールは少し「板っぽい」感じが否めないほどだ。
一体何が違うのか。フロントローターを見て驚いた。なんと後期型991IIはセミ・フローティング式を採用しているではないか。ハウジングはアルミ製だった。ローターは熱変形するとブレーキジャダー(振動)の原因になるが、フローティング式のローターを採用することで、ブレーキフィールを改善しているのだ。
シャシー性能を確認するために高速周回路の高速コーナーを約160km/h、0.7G程度の横加速度で走ると、カレラ4GTSよりも後期型カレラSの方がリアの接地性が高く、安心感が得られた。スペック的にも4駆のカレラ4GTSの方が安定性は高いと考えがちだが、2駆のカレラSもスタビリティは大きく向上している。
前期型と後期型を徹底的に比較すると、まるで空冷から水冷になった「あの時」と同じ度合いの進化があると感じる。自然吸気かターボかというエンジンだけの論争はもうやめて、911カレラのスポーツカーとして洗練されたシャシー性能にも注目しておきたい。
RESULT
ポルシェは常に「最新が最良」であることが証明された
●ポルシェ911カレラ4GTS:16.5/20点
●ポルシェ911カレラS:17.5/20点