
新カーボンコンポジット工場が完成、風洞施設も再起動
日本を代表するレーシングカー・コンストラクターズとして知られる童夢が、滋賀県の米原駅前にある本社横に新しいカーボンコンポジット開発製造拠点となる『Dome Advanced Carbon Laboratory(童夢アドバンスド・カーボン・ラボラトリー)』を建設。また4月1日から50%スケールのムービングベルト風洞施設『風流舎』を再び童夢の元で運用していくことを発表した。

滋賀県米原市にある童夢本社。そのエントラントには、1979年に市販を目指して2台が製作された童夢P-2をはじめ、スバル製フラット12を搭載したジオット・キャスピタ、FIA F4のF110、さらにシビックTCRなどが展示される。
“童夢”と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか?
1978年のジュネーブ・ショーで衝撃的なデビューを果たしたスーパーカー、童夢 零、2カー・エントリーで79年のル・マン24時間に挑んだ零- RL、国産グループCカーとして初優勝を果たした84C、F1用のフラット12気筒を搭載したスーパーカー、ジオット・キャスピタ、94年に国産F3000として初のチャンピオンに輝いたF104、F1参戦を目指して開発されたF105、そしてガソリンエンジン車最速を目指してル・マンに挑戦したS102 e.t,c.……。確かにどれも童夢が作り出してきた名車たちだが、それらは彼らの40年以上にわたる歴史のほんの一部分に過ぎない。
なぜなら、レーシングカーやスポーツカーの開発、製作を通じて得た技術、経験を元にして行ってきた様々な企業、分野の研究開発が、童夢のもうひとつの“柱”だからだ。
その代表的な例と言えるのが、他に先駆けて行ってきた風洞を使った空力開発とCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を活用したカーボンコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材)技術である。
まだF1などの一部でカーボンコンポジットが使われはじめた1980年代から研究を始めていた童夢は、85年に世界初のオール・カーボンコンポジット・フレームをもつオートバイ、童夢DCF-1ブラックバッファローを開発し鈴鹿8時間耐久レースに出場。さらに88年には一体成型のモノコックタブをもつ国産初のカーボンモノコックF3000マシンF101や、グループCマシンのトヨタ88C-Vの開発にも成功している。そして2001年には静岡県三島市にCFRP専用施設となる童夢カーボンマジックを設立。06年には滋賀県米原市に大小数基のオートクレーブやNCモデリング室を備えた新工場を建設したほか、タイに量産を担当する子会社、童夢コンポジット・タイランドを設立するなど、CFRPの開発、製造に関しては日本で屈指の技術をもつ企業として活動してきた。
一方、空力開発に関しても処女作の童夢 零の開発に風洞を使った実験を活用。87年には当時の京都・大原の本社敷地内にすべて自社開発、設計の25%スケールのムービングベルト風洞施設を建設したほか、2000年にはF1級のコンストラクターの必需品ともいえる50%スケール・ムービングベルト風洞施設“風流舎”を滋賀県米原市に建設。童夢だけでなく、国内各メーカーの開発にも活用され、日本のレーシングカーのエアロダイナミクスの進化と向上に大きく貢献したのである。
「エンジンとタイヤ以外は自社製作が可能」な体制が整った
しかし創始者である林みのる氏が70歳を迎えた2015年に引退したことに伴い、童夢は2013年に東レへ童夢カーボンマジックを、2014年にトヨタへ風流舎を売却。その売却益をロードゴーイング・スポーツカーの開発費に充てると発表した。残念ながらそのスポーツカー計画は陽の目を見ずに頓挫することとなってしまったが、新たに社長に就任した髙橋拓也氏の元で米原駅前に新社屋を建設。FIA F4マシンのF110とスーパーGT GT300クラスで活躍するマザーシャシーの製造、販売を中心にレーシングカー・コンストラクターとしての活動を継続。F110を累計100台近く販売するなど、成功を収めてきた。
そんな童夢が再び動き出した。
なんとこの1月に、新しいカーボンコンポジットの開発・製造拠点となる『Dome Advanced Carbon Laboratory(童夢アドバンスド・カーボン・ラボラトリー)』が本社横に完成。2月1日から本格稼働をスタートしたのである。
1階に設備・作業エリア、2階に管理室・倉庫エリアを配した新拠点の延べ床面積は778.3平方メートル。そこに大型&小型のオートクレーブをはじめ、金属加工も可能な大型5軸NC加工機、カッティングプロッター、冷凍保管庫、塗装ブースなど最新鋭の設備を設置。ワンオフの小パーツから、レーシングカーのモノコック、ボディの量産に至るまで、あらゆるニーズに即時に対応する体制が整った。

2000年に米原市に完成した“風流舎”。F1級のコンストラクターの必需品ともいえる50%スケール・ムービングベルト風洞施設で、童夢はもとより様々なレーシングカーの空力性能向上に活用された実績を持つ。4月1日から再び童夢のもとでの運用が始まる。
さらに4月1日からは、車両の空力開発に欠かせないムービングベルト(移動地面板)を備えた高性能、高機能の風洞実験設備『風流舎』が再び童夢のもとで運用を開始。これにより「エンジンとタイヤ以外は自社製作が可能」と自他共に認める設備を手に入れることとなったのである。
ここで重要なのは、どんなに高機能で素晴らしい設備があっても、それを適切に使いこなすノウハウがなければ、なんの意味も持たないということだ。その点、童夢には過去40年間にわたるレーシングカー、自動車の設計、開発で得た膨大な経験と実績、データ、そしてそれらを熟知し、新たなアイデアを生み出す豊富な人材が揃っている。
また企画から研究、設計、製造までを自社内でできるスキームができたことで、高品質、高精度の製品や、最新のコンポジット技術を用いた全く新しいコンポーネントの提案が、迅速かつ高い機密性を確保して提供することが可能となったのが最大の強みであるという。
では、これらの体制を再構築した童夢が、どこに向かい、何を生み出そうとしているのか? 次回は髙橋拓也社長のインタビューをお届けすることにしたい。
【後編へ続く】
取材協力:童夢 http://www.dome.co.jp/