旅&ドライブ

日本海に突き出た小さな火山の半島(秋田県・妻恋峠)【絶景ドライブ 日本の峠を旅する】

遠景から眼下の近景まで360度の展望が広がる

妻恋峠という名前は、その昔、峠を通りかかった僧侶の詠んだ歌に由来するもの。

遮るもののない、一面の草原に覆われた寒風山を越えていく妻恋峠は、東北エリアでは一、二を争う絶景のワインディングロードとして知られる。その山頂から四方を見下ろせば、男鹿半島の成り立ちさえ見て取れるような気がしてくる。

古くからナマハゲ発祥の地とされてきたのが男鹿半島中央部の真山地区。真山神社や伝承館(なまはげ館)など、ナマハゲゆかりのスポットも数多く点在している。

なだらかな海岸線が続く東北地方の日本海側にあって、ただ一カ所だけ、海に向かって大きく突き出ている陸地が男鹿半島である。その付け根に位置するのが標高355mの寒風山。妻恋峠は、この山頂の間近を東西方向にゆったりと横切っていく。
妻恋峠のある県道55号は、30年ほど前までは有料道路だった道で、当時の『寒風山パノラマライン』という呼び名の方がいまでも通りがいい。まさにパノラマラインという名に恥じない眺望抜群の道なのである。

緑の草原のなかを妻恋峠へと続く寒風山パノラマライン(県道55号)。気持ちのいい走りを存分に楽しめる。

東の内陸側から峠をめざして登っていくと、しばらくは木立に囲まれた見通しの良くないコーナーが続くが、峠の2kmほど手前で視界は大きく開け、緑の草原に覆われた寒風山が目の前に姿を現す。そこから先の眺めは、まるで信州のビーナスラインや阿蘇のやまなみハイウェイのよう。一面の緑の絨毯の上を気持ちのいいワインディングロードが延びていく。

この寒風山は今から2万年ほど前にできた小さな火山で、土地の保水力が低いため、背の高い木はほとんど育たなかった。そのため、古くから屋根を葺く茅や牧草の採取地として利用され、今でも毎年4月上旬には恒例の山焼きが行なわれている。美ヶ原や阿蘇と同じように、この寒風山もまた、自然の姿に人々の生活の営みが加わることによって維持されてきた美しい風景なのである。

男鹿半島の入り口にこんもりとそびえる寒風山。頂上に回転展望台があるため、遠くからでもひと目で分かる。

妻恋峠のピークからは、回転展望台のある寒風山山頂へ向かう道が枝分かれしていて、そこからはさらにスケールの大きな展望が広がる。南と北には大きく弧を描く日本海の海岸線、東には八郎潟の干拓地、西には男鹿半島が眼下に一望となり、遠くには山形との県境にそびえる鳥海山、青森との県境に連なる白神山地も浮かび上がる。360度、遮るものがないだけに、まるで地図をそのままジオラマにしたような大パノラマが展開する。

アップダウンを繰り返しながら、男鹿半島の海岸沿いを走る県道59号。途中にはゴジラ岩など見所がたっぷりある。

ただし、春から秋にかけては多くの観光客やパラグライダーを楽しむ人で賑わう寒風山も、冬になると訪れる人はほとんどいなくなる。積雪が少なく、妻恋峠のある県道55号は通年通行可(峠から回転展望台までの道は除雪が行なわれないため、基本的に冬季は通行不能)だが、周囲に遮るものがないだけに日本海からの季節風はまともに吹き抜けてゆく。地吹雪で視界がまったく効かなくなることも珍しくないらしい。

県道121号脇の八望台の展望所からは、美しい火口湖(一ノ目潟と二ノ目潟)を眼下にすることができる。

あしびきの

山の秋風寒き夜になむ

妻恋の鹿もなくなり

その昔、冷たい風の吹きすさぶ秋の夜に、一人の僧侶が峠を通りかかり、牝鹿を探し求める牡鹿の切ない鳴き声を聞いて詠んだと伝えられるのがこの歌である。どことなく哀愁の漂う峠や山の名前は、この名もなき僧侶の歌に由来すると言われる。
寒風山の骨身にしみる寒さを味わってみたいという酔狂な人以外は、本格的な冬が到来する前に訪ねた方がいいだろう。

北海道から南紀まで日本中の風景が楽しめる

北緯40度に位置する男鹿半島の入道崎。夕日の美しいことで知られる。

寒風山の頂上に立って妻恋峠の方向を振り返れば、この山が火山だったことは、誰にもひと目で理解できるだろう。妻恋峠を挟んで並ぶ大小ふたつのすり鉢状の窪地はかつての噴火口。その西には直径1km近い大噴火口(寒風山第一火口)跡が広がり、道はその縁に沿って大きく半円を描きながら男鹿半島の奥へと下っていく。
ある意味、パノラマラインの眺めがいいのも当たり前のこと。妻恋峠の西側区間は、世にも珍しい『お鉢巡り』の道なのである。

白黒の縞模様が印象的な入道崎灯台。『日本の灯台50選』のひとつで、灯台展示資料室(入館料200円)もある。

寒風山が活発な火山活動をしていたとされる2万年前は氷河期の終わりの時代。その後、気温の上昇とともに海面も上昇して、男鹿半島は本州から切り離され、約1万年前には日本海に浮かぶ火山島になっていたという。そして、さらに時代が下ると、海流の影響で島と陸地の間に砂が堆積し、2本の砂嘴で再び本州と結ばれた。

秋田名物“ババヘラアイス”。道ばたのパラソルの下、おばあちゃんがヘラを使ってアイスを盛りつけてくれる。

琵琶湖に次ぐ国内第2位の面積を誇っていた八郎潟は、砂嘴と砂嘴の間に取り残された海の名残。この水深のきわめて浅い汽水湖は、昭和32年(1957年)からはじまった干拓事業により、その大半が農地に生まれ変わったのだが、そんな湖の誕生から生まれ変わりまで、寒風山の頂上に立って眺めると、手に取るように分かる……ような気がしてくる。

男鹿半島の南側に位置する潮瀬崎。ゴジラ岩をはじめ、カメ岩、双子岩、帆掛島など、様々な形をした奇岩が点在する。

男鹿半島をクルマで旅していると、何より驚くのは、その風景が実に変化に富んでいることだ。
県道59号で半島の南側から北端の入道崎をめざすと、まるで南紀のような荒々しい海岸風景が続く。その大半は火山噴出物が作り出したもので、八望台周辺には美しい火口湖まで点在している。一方、内陸のなまはげライン沿いには、いかにも東北らしいのどかな田園風景が広がり、入道崎を回り込んだ北の海岸には美しい砂浜もある。さらに八郎潟の干拓地へと足を延ばせば、まるで北海道のような大平原と定規で引いたような直線路にも出会うことができる。
日本海にちょこんと突き出した半島をひと巡りするだけで、日本中の風景を楽しめるといったら、ちょっと誉めすぎだろうか。

近くには鬼伝説の残る五社堂もある。八郎潟放水路にかかる男鹿大橋のたもと、総合観光案内所の駐車場に立つ巨大なナマハゲ像。身長は15mもある。

妻恋峠3Dマップ

◎所在地:秋田県男鹿市◎ルート:県道55号入道崎寒風山線◎標高:275m◎区間距離:10.2km◎高低差:260m◎冬季閉鎖:なし

 

【A】寒風山回転展望台(かんぷうざんかいてんてんぼうだい)

13分で360度ぐるりと一回転
1階にレストラン&お土産コーナーがあり、2階から上は有料(入館料540円)の展示&展望施設になっている。4階の回転展望台は所要時間13分で1回転。●8:30-17:00/無休(12月上旬-3月下旬は休館)/男鹿市脇本富永字寒風山62-1/0185-25-3055

 

【C】男鹿真山伝承館(おがしんざんでんしょうかん)

伝統のナマハゲ行事を体験
大晦日に行なわれる男鹿伝統のナマハゲ行事を間近で再現してくれる施設(4-11月は毎日、12-3月は土日祝日のみ実施)。各種展示施設(入館料共通)も併設。●入館料800円(夏季)/8:30-17:00/無休/男鹿市北浦真山字水喰沢/0185-22-5050

 

【D】入道崎 海陽(にゅうどうざきかいよう)

ここでしか味わえない逸品
ハタハタを丁寧に3枚におろし、米麹などで2週間漬け込んだのが『トギ(骨)ナシはたはた寿司』。これを香ばしく炙った丼(1,500円)は海陽でしか味わえない逸品。寿司は土産用もある。●9:00-17:00/無休/男鹿市北浦入道崎昆布浦2-71/0185-38-2530

豪快な漁師伝統の石焼き料理も男鹿の名物。入道崎・海陽でも、一人前2,000円で用意している。

 

【E】大潟富士(おおがたふじ)

干拓地の日本一低い山!?
八郎潟の干拓地にある大潟村のシンボルとして、1995年に築かれた大潟富士。標高3776mmの頂上はちょうど海抜0m。かつて大潟村が国土地理院の地図への掲載を求めたが、築山ということで見送りに……。●0185-45-3653(大潟村産業建設課)

アクセスガイド

寒風山に最も近いのは秋田道・昭和男鹿半島ICで、東北道・浦和ICからは589km、仙台宮城ICから262km。そこから妻恋峠までは約22km、30分あまりの道のり。妻恋峠から男鹿半島北端の入道崎までは、快適な広域農道・なまはげラインを通って約24km。国道101号、県道59号などを使って男鹿半島の海岸線を一周すると約80kmになる。

ご当地グルメとして人気の高い“男鹿しょっつる焼きそば”。提供店は市内各地にあり、回転展望台でも味わえる。

妻恋峠から寒風山回転展望台へと向かう道。全長1km足らずの短いルートだが眺望は抜群。バックに広がるのは八郎潟干拓地。

とても日本とは思えないような広大な農地が広がる八郎潟の干拓地。そのなかを定規で引いたような直線路が延びていく。

入道崎の南、戸賀湾にある男鹿水族館GAO(入館料1,100円/9:00-17:00)。水量815トンの大水槽やシロクマのペアが人気。

 

 

掲載データなどは2016年7月末時点のものです。実際におでかけの際は、事前に最新の情報をご確認ください。

注目の記事
注目の記事

RANKING