ドイツ製スペシャリティモデルの中でも、TTの存在感はとりわけ貴重だ
徹頭徹尾の作り込みを貫いた初代ほどの意気込みは感じずとも、TTのインテリアは相変わらず整然とした気持ちよさでドライバーを迎え入れてくれる。後席はもちろんエマージェンシーだが、荷室は大型スーツケースも収まるほど広く、ミニマルな2シーターワゴンとしての価値も不変だ。
初代から2代目に対して、3代目TTが最も進化したポイントはやはり走りということになる。取材当日は生憎の雨に見舞われたが、横置きの4WDは……と蔑まれてきたTTSのクワトロシステムはきっちりスタビリティの一助を果たしつつ、隙あらば積極的に後輪側へ駆動を振り分けアクティブに曲げようともする。現世代の横置き系クワトロは、サーキットをガシガシ走り込むような用途でもなければ、十二分にその恩恵をお楽しみの側でも感じさせてくれる。
動力性能的にはさすがにハイチューンのターボユニットだけあって、ごく低回転域ではトルクの薄さも感じることがあるが、4WDにして1400kg前半という重量がそれを巧く相殺する。TTSはエンジンを回して走るワインディングだけでなく、街中でもその軽快感を充分に満喫できるだろう。
眩いほどに華があるわけではない。でも理詰めに過ぎて退屈なわけでもない。ドイツ製スペシャリティモデルの中でも、TTの存在感はとりわけ貴重だ。この個性は、日本の生活観においても馴染みやすいものだと思う。