清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)
Number95(SEASON.11):ニュルで鍛えたシャシー性能を武器に強豪440iに挑んだ新型クラウン
トヨタ・クラウン 2.0 RSアドバンス vs BMW 440i グランクーペ Mスポーツ
セダンでありながら流行のクーペスタイルを採り入れたトヨタ・クラウンとBMW440iグランクーペ。登場したばかりの新型クラウンは、BMWが熱心にテストしてきたニュルブルクリンクで開発を行ない、ダイナミクスに磨きをかけてきた。エンジンのハンディを割り引いて評価しなければならないが、ドイツの強豪相手にどこまで善戦するのか。期待感を抱いてテストに臨んだ。

新型クラウンは欧州車に対抗する術を得たのか
劇的に進化したクラウン。しかし欧州車はトヨタを上まわる勢いで、モデルイヤーごとに深化、熟成していく。この差は永遠に縮まらないのだろうか。私は決して欧州車信奉者ではない。むしろ日本車の応援団であり、30年も日本車と欧州車の差を実感してきて、欧州車を打ち破るクルマが登場する日を待ち続けているひとりだ。
クラウンはテストコースのようなフラットな路面を走る限り、レーンチェンジの安定性と収斂性が良く乗り心地も悪くない。ゆえに競争力のあるライバル車と比べても遜色ない領域まで到達していると思う。その部分はニュルで開発した効果なのだろうが、荒れた路面が続く、高速道路のようなシーンでは印象が一変する。それはロバスト性の問題なのだろうが……。
テスト前後、移動で走行した高速道路で気になったのは、わずかに発生するボディロール。それが抑えきれておらず、ACCとLKAS(車線維持機能)をオンにして走ると(自動運転レベル2)、ドライバーをアシストするのではなく、クルマのふらつきを人間が支援することになった。よほど運転が上手い人がクラウンの特性を把握して、デリケートなステアリング操作をすれば問題ないが、制御システムに任せると、人間のフィールと合わなくなる。結局、ロールダンピングなどの基本性能を高めないと制御もうまくマッチしないのではないだろうか。
クラウンを厳しく評価するのは、レクサスを含めて共通した課題があると思うからだ。高級車になるほど「乗り心地とNVH」、「ハンドリングとスタビリティ」などの背反事項を解決する必要がある。それができないと高級セグメントで競争などできない。
440iはボディやサスペンションの基本性能がとても高い
BMWはどうか。ボディやサスペンションの基本性能がとても高い。ゆえに制御システムが正しく機能する。高速周回路では、ランフラットタイヤとは思えないぐらい、しなやかなタイヤとサスペンションによって快適な乗り心地を提供してくれるし、まっすぐ走っていても、レーンチェンジしても自分の思いどおりにクルマが動いてくれる。440iは3シリーズのプラットフォームを採用するが、新型が登場したので次期型はさらに進化するはずだ。
LKASはステアリングの反力が非常に強く、違和感はあったものの、慣れてくると、これがBMWの主張なのだと気づく。コンセプトを明確にする割り切りがとても大切だと感じた。
安心、快適、楽しいという人間が感じる指標があるとするなら、BMWは楽しさが満載。7000rpmまでシュパン!と回るエンジン、ダイレクトで正確なステアリング、高速でのフラットライド。その走りは印象的で病みつきになってしまいそうだ。トヨタの場合、パワープラント面では独自のハイブリット技術に一日の長があり、衝突安全性能でも負けていない。しかし、ドライバーが感じる官能面ではまだその差は大きい。
ブレない姿勢を貫き磨きをかけるBMW
今回の2台は価格が300万円も違うし、エンジンの排気量も大きく異なる。クラウンが不利という声は多数かもしれないが、数値の背景にあるクルマづくりの考え方を評価することは可能だと思う。
そこでクラウンである。ドライバーズカーを目指したのか、メルセデスのような快適性と安全性を重視するセダンをつくりたかったのか? ニュルで鍛えたといっても、どのように反映されているのか、わかりにくかった。一方の440iはコンセプトが明快で、BMWが得意とする部分(性能)が磨き抜かれていた。その明確さがわかりやすさに通じるのであれば、課題はそこにあるはずだ。
RESULT
クルマの魅力や意思は明確でなければならない
●BMW・440iグランクーペMスポーツ:16/20点
●トヨタ・クラウン2.0RSアドバンス:13/20点
※通信簿は絶対評価なので比較した点数ではない。
