成熟を重ねたモデルは高い品質が備わっている
MBUXと呼ばれる対話型インフォテイメントシステムが話題の新型Aクラスだが、同セグメントには走行性能を鍛えたり、安心・安全を着実に積み重ねてきたライバルたちもまた多く存在する。ここでは、キャラクターの異なるコンパクトカーを集め、新型Aクラスの総合力を考察した。
成熟を重ねたモデルは高い品質が備わっている
AIを駆使した対話型インフォテイメントシステム(MBUX)ばかりに話題が集中するAクラスではあるものの、クルマとスマホは根本的に違う。安全性能にユーティリティに、何よりもファン・トゥ・ドライブに――。とクルマの本質的な魅力を見据えたときに、どれほどの魅力があるのか。Aクラスの属するCセグメントには並み居る強豪がひしめくばかりか、コンパクトカーだからといってグランツーリスモ性能やスポーツマインドを求める層も大勢いる。あらゆる性能を高いレベルで求められる難しいカテゴリーだ。
今回、Aクラス(A180スタイル)を取り上げつつ、個性的なライバルと比較してみたい。あえてドイツ御三家的な真っ向勝負を避けつつ壇上に上げたのは、フレンチハッチ界の名手プジョー308、北欧の薫り漂うボルボV40、いつの時代も王道として認知されるフォルクスワーゲン・ゴルフである。現行型をみると、308の発売開始が’14 年、ゴルフとV40は’13 年と、そのどれもが相応の時間が経過している。もちろん、どれもがことあるたびにマイナーチェンジを実施して商品力を上げているが、こと鮮度という意味ではAクラスに対して少々分が悪い。
しかし、最新のAクラスと比べることで、それぞれが時間軸を超越するかのような固有の魅力が宿ること。さらに熟成を重ねたがゆえの品質や立ち振る舞いを持っていたのは、意外な新発見だった。
01. MERCEDES-BENZ A180 STYLE
例えばゴルフに乗るといつもホっとさせられる。まるで服を着るようにばっちり決まる操作系の位置関係や、絶妙な感触を持つペダルやステアリングフィール。過度な刺激や興奮はないが、淡々と必要性能を届けてくれるパワートレインなど何もかも人間の感性と一致している。’17 年のマイナーチェンジでデジタル化と安全装備の充実が図られ、特にこのTSIハイライン・テックエディションはそうした電脳装備が網羅される。それでも乗員への配慮と使い勝手を、高品質な乗り味を機械として徹底的に追求している姿を前に、余計な電脳装備は不要だと思えるほど。昔ながらの“いいクルマ感”を味わうのならゴルフがいい。
対してV40もまた同じ路線を歩む。ただし、見た目のカジュアルさとは裏腹に、操作系の感触や実際の立ち振る舞いなどは、ゴルフよりもより重厚感あふれるグランツーリスモのように仕立てられていた。1.5Lターボを積むT3は、スペックを眺める限りはイマドキのダウンサイジングターボだが、お手軽なシティコミューターというよりは、溢れ出るトルク性能を駆使して高速を淡々と長距離移動したいタイプ。スウェーデンの外科医がアドバイザーとして参加したというフロントシートや、タッチパネル全盛の今でこそ少々ボタン配置が煩雑にみえるが実際は使い勝手のいい操作系も、その性格を後押しする。
02. VOLVO V40 T3 INSCRIPTION
解釈が難しく、意見が分かれそうなのは308である。外観は端正だが、操作系はプジョーの主張がてんこ盛り。iコクピットと呼ばれるそれは、メーター類をステアリングの中から見るのではなく、小径ステアリングの上部からやや見下ろすようなポジションとなる。日本人の体格の問題なのか「見にくい」という意見は多いものの、慣れればさほど気にならなかった。国産のミニバンやコンパクトカーにはセンターメーターが珍しくなく、視界に入るステアリングの外でメーターを見る風習が根付くことを考えると、むしろ国産から乗り換えた人のほうが違和感は少ないのかもしれない。また、今回の1.5Lディーゼルターボ(Blue HDi)と8速ATの組み合わせによる、ぶ厚いトルク性能を緻密なATで引き出す走りを前に、コンパクトカーを超越したグランツーリスモ性を感じた。
新時代を予感させながら欧州車然としたAクラス
さて、あらためてAクラスである。右手でシフト操作して、左手でCOMANDシステムを操る近年のメルセデスが貫く“個性的な”操作系は、メルセデスを乗り継ぐ人には常識となったが、他車から乗り換えると多少の慣れは必要かもしれない。それでも冒頭で触れたMBUXを含めて未来感は満点で、その操作ひとつひとつをエンタメ的に楽しむことができるし、慣れれば使い勝手は抜群だ。
03.VOLKSWAGEN GOLF TSI HIGHLINE TECH EDITION
新開発の1.3L 4気筒ターボはとにかく軽快で、動力性能に不満はない。操作系の感触もエンジンと同じく軽やかに仕上げられている。何もかも重くて昔ながらのメルセデス像に安心感を抱くのなら、肩すかしを食らうかもしれない。曖昧でミスもある人間の操作に、あえて重くてダルな操作系で対処していたのはもう昔のハナシ。今や賢い電子デバイスに頼れるのだから、安全性を維持したまま快適性や省燃費性能などの効率論を考えた結果として、この“軽さ”は歓迎できる。MBUXを内包したワイドスクリーンにイルミネーションに、という光りモノばかりが目立つインテリアの雰囲気にも合う。しかし決して軽薄なものではなく、メルセデスらしい重厚な設えのもとにこれらを成り立たたせているのには関心する。
04. PEUGEOT 308GT LINE BlueHDi
これら4車を前に、昔ながらの硬質で重厚な欧州車像を知る人にこそ、新しいAクラスや308で新時代を感じて欲しいと思えた。逆に初めて輸入車に乗る方や、最新の電子機器に慣れきった若者にこそ、ゴルフやV40で伝統的な工業製品としての魅力を味わって欲しい。その上でグレード選びを含む結論は、洋服の好みと同じように自分の感性に委ねたい。
【SPECIFICATION】メルセデス・ベンツ Aクラス
■全長×全幅×全高=4440×1800×1420mm
■ホイールベース=2730mm
■車両重量=1360kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1331cc
■最高出力=136ps(100kw)/5500rpm
■最大トルク200Nm(20.4kg-m)/1460-4000rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ=205/60R16:205/60R16
■車両本体価格(税込)=3,690,000円
■問い合わせ=メルセデス・ベンツ日本 0120-190-610
【SPECIFICATION】ボルボV40
■全長×全幅×全高=4370×1800×1440mm
■ホイールベース=2645mm
■車両重量=1755kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1497cc
■最高出力=152ps(112kw)/5000rpm
■最大トルク250Nm(25.5kg-m)/1700-4000rpm
■トランスミッション=6速AT
■サスペンション(F:R)=マクファーソンストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=ディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/45R17:225/45R17
■車両本体価格(税込)=4,140,000円
■問い合わせ=ボルボ・カー・ジャパン 0120-922-662
【SPECIFICATION】フォルクスワーゲン・ゴルフ
■全長×全幅×全高=4265×1800×1480mm
■ホイールベース=2635mm
■車両重量=1320kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1394cc
■最高出力=140ps(103kw)/4500-6000rpm
■最大トルク=250Nm(25.5kg-m)/1500-3500rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=マクファーソンストラット:4リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/45 R17:195/55 R16
■車両本体価格(税込)=3,529,000円
■問い合わせ=フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン 0120-993-199
【SPECIFICATION】プジョー308
■全長×全幅×全高=4275×1805×1470mm
■ホイールベース=2620mm
■車両重量=1360kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1498cc
■最高出力=130ps(96kw)/3750rpm
■最大トルク=300Nm(30.6kg-m)/1750rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=マクファーソンストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ=225/45 R17:225/45 R17
■車両本体価格(税込)=3,299,000円
■問い合わせ=プジョー・シトロエン・ジャポン 0120-840-240