
Dセグメントのメインストリームではないのかもしれないがドイツ勢に比肩する快適性と機能性が与えられ、イタリアンらしいスポーツ性が輝くジュリア。巨人たちのなかにあって、善戦を続けるセダンである。個性派が支持される理由を、あらためて探る。
モダンクラシックで魅せるエモーショナルな走りと官能のフォルム
ジュリアという名前がよみがえった。と、聞いてもピンと来ない人が増えている。少なくとも若い世代は1960年代と被らせてこのクルマを見ていない。各ブランドが己の威信をかけて新型車を送り出すDセグメントのセダンというカテゴリーに、あらゆる新機構を盛り込んで投入した新生アルファ・ロメオ・ジュリアである。
それでも1960年代に郷愁を抱きつつアルファを乗り継ぐ層は常に一定数いて、彼らからは好評を持って迎えられているようだ。あるいは156、147あたりでアルファにどっぷり浸かった人や、ジュリエッタからの乗り換え層も多いと聞く。出会いはどうあれ、誰もがどこかに自分自身が定義した“アルファらしさ”に魅力を見出して、それがきっちりとジュリアには継承されているからだろう。
どこを見渡しても高品質かつ高機能で、けれどもちょっぴり均質化を感じるDセグメント界にあって、ジュリアはやっぱり尖っている。全方位的な優等生など最初から求めていないような割り切り思想がある。それをあらためて感じるために、ジュリア・スーパーと過ごした。尖っているというなら最高出力510psという強心臓を持つクアドリフォリオがいいのかもしれない。しかし速さは時に何もかもを刺激に変えてしまう。アルファらしさを自分なりに解釈して濃密に感じ取るためには、ベーシックモデルのほうがいい。
ベーシックとはいってもスーパーの内容は、プレミアムブランドを標榜するアルファ・ロメオのセダンらしい雰囲気を持つ。ヨーロッパ標準に当てはめても立派な内容である。走りを意識させられる流麗で柔らかいフォルムの中には、明るいベージュレザーのインテリアが拡がり、そこにはウッドパネルが調和する。けして体積第一主義でもなく、豪華装備一辺倒でもない。仕立てのいいタイトジャケットのような風合いに仕立ててくるあたりがアルファっぽい。
総合力を高めながらアルファ流を貫く
スポーツセダンであることを主張するのが、使うことを義務付けられたような大きなパドルシフトだ。これを見たとき、急に156時代のセレスピードを思い出した。感性と一致しないオートモードがわずらわしくて、いつも手動で変速していた。今や8速ATになり、もはやDに入れっぱなしで何の不満もない。しかし手動変速してエンジンと対話してこそアルファだと思う。パドルが大きすぎてウインカー操作が不便と思わずに、それを踏まえてウインカー作動に余裕を持たせるのがアルファ流の安全運転である。
低速域でのブレーキタッチが唐突で急激に減速Gが立ち上がることがあったり、アクセルのオン/オフによる挙動変化が大きすぎたり、さらには操舵感の軽い電動パワステに12:1と極端にクイックなステアリングギアレシオが相まって、街中でスムーズに操るとなると神経を使う面はある。雑に扱えば同乗者は不機嫌になるだろう。しかし、機械の動きを感じ取りながら丁寧な操作を心がければ、クルマ側も呼応してくれて実に心地のいいサルーンとなる。「自動運転機能をフル活用しつつ、雑に扱っても快適かつ快速」というのが正義と感じる人には勧められない。しかしクルマが好きで運転することそれ自体を楽しいと感じるのなら、この操作に対する呼応感は魅力的だ。先のパドルシフトに加えて、剛性感のあるオルガン式ペダル、アルファ特有のDNAドライブモードシステムなど、運転に集中しながら楽しむための準備はきっちり整えられている。
ネガティブな要素を前向きに捉え、ポジティブな要素を思いっきり享受してこそアルファ乗りかもしれない。超軽量素材を駆使し、前後重量配分を50:50に近似させたFRパッケージなだけに、先述した忙しない動きに馴染んだその先にあるスポーツドライビングの世界は格別だ。フロントにダブルウィッシュボーン、リアにマルチリンクを採用するサスペンションは、基本的には極太タイヤや電子制御に頼らずに安全性能を確保しつつ、いかにもFRらしい挙動を持って軽快に駆けぬけていく。この爽快な動きにはスーパーの有する200ps/330Nmの動力性能で充分だ。往年のアルファ製自然吸気とは趣を異にする小気味いいビート感を伴って、軽やかな車体をグイグイと押し出す。同じスーパーでも2.2ターボディーゼルは、より豊かなトルク特性を感じさせながら、積極的に高回転まで使いたくなる特性は変わらない。その上にはヴェローチェ、そしてクアドリフォリオと用意されるが、しかしスーパーがエントリーではないのもアルファらしい。
フロントヘビーに代表されるFF固有のデメリットと闘い続けて築き上げたアルファらしいファン・トゥ・ドライブの世界は、FRという骨格を得たジュリアでより光り輝いたようだ。これを旧来のアルファ好きのものだけにしておくのはもったいない。ドイツ勢を筆頭とする定番FRセダンの乗り味に慣れ親しんだ人こそ、まずは乗ってみることをオススメする。好き嫌いは別にして、100人いれば100通りの“アルファらしさ”を発見できるはずである。

プレミアムを標榜するだけあって高いデザイン性と質感が表現されたインテリア。それでいてドライバー中心のレイアウトを採り、オルガン式ペダルなど拘りが貫かれている。インテグレーテッドブレーキシステムの採用により、100→0km/hの制動距離は38.5mと優秀。

ジュリア・スーパーの心臓部に収まるのは2L直4ターボ。200ps/330Nmのパワースペックを持つが、数字以上に扱いやすく、パワフルだ。ストップアンドゴーの多い都市部のようなシーンでもジェントルかつスポーティに、キビキビと走る。だから低速でも愉しめる。
ALFA ROMEO GIULIA 2.0 TURBO SUPER
【Specification】
■全長×全幅×全高=4645×1865×11435mm
■ホイールベース=2820mm
■車両重量=1590kg
■エンジン種類/排気量=直列4気筒DOHC16V+ターボ/1995cc
■最高出力=200ps(147kW)/4500rpm
■最大トルク=330Nm(33.7kg-m)/1750rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウィッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/45R18:255/40R18
■車両本体価格(税込)=5,430,000円
■問い合わせ=FCAジャパン 0120-779-159
【Interview】アルファ・ロメオ流の独創的なプレミアム性で魅了
感覚的な部分に訴える、それこそがジュリアの魅力
「アルファ・ロメオはよりプレミアム路線へと舵を切りました。その象徴がジュリア。我々の考える“プレミアム”を、世界的主流であるDセグメントで表現した意欲作です」
FCAジャパンはそうした意図を持ってジュリアを見据える。発売開始された2017年10月から2018年の販売台数をみると、ドイツ車勢を筆頭とする競合に食い込んだ。2019年には2.2ターボディーゼルの発売も加わったので、Dセグメントでのシェア拡大が見込めそうである。
「我々の考えるプレミアムとは、決して全方位的な性能を約束するわけではありません。大事なのは人間の感覚に訴える官能性。デザインが美しいか、素材がフィットするか、何よりもステアリングを握ってワクワクできるのか——数字ではなく感覚的なところを訴えるために全面刷新したジュリアがあります。時に賛否両論が発生するようなクルマをつくることができている。それこそアルファ・ロメオだと思っています」