クールなBXと比べると、GSはなんとエモーショナルなことか
第2次世界大戦後の新しい社会構造のなかで、かたやDS、かたや2CVという、両極的な2車種がシトロエンのラインナップのすべてだったが、だんだんとその中間的な車種を求める新しい層が育っていく。そこでシトロエンが、1961年に用意したのがアミ6だった。アミ6は1969年にアミ8となり、ボディ・スタイルもファストバックの5ドア・セダンとなった。そして1970年にはアミ8の上級車種であり、さらにアミ8の購買層も移行させるためのモデルでもあるGSを生み出した。しかし実際のところ、GSはDSで培った先端的な技術を惜しみなく大衆車に傾注したクルマだった。
GSには新開発の空冷水平対向4気筒エンジンが搭載され、ロベール・オプロンによるファストバックのデザインは、ピニンファリーナのレオナルド・フィオラヴァンティによるBMCアエロ・ディナミカの影響も指摘されているが、アミ8のモチーフの進化型とも言える。ともあれ流麗で美しいデザインだった。
シトロエンの次の転機は1974年だった。かつてトラクション・アヴァンを開発した頃と同じようにGS、SM、CXや、ヴァンケル・エンジンの膨大な開発費、さらにオイル・ショック後の景気の後退が重くのしかかっていた。結局はライバルのプジョーの傘下ということになり、この保守的な経営陣のもとで前衛的だったシトロエンは舵取りの向きが大きく変わった。一言で言えば、フランス的エスプリに満ちた独創性のあるメーカーから、インターナショナルな万人受けするメーカーへと方向が変わったのである。
そんな中、GSの後継車として1982年に登場したのがBXであり、シトロエンとして初めて社外のデザイナーへエクステリアもインテリアも委ねられた。フロアパンやエンジンはプジョー製だったが、ハイドロニューマチックは踏襲されている。ベルトーネにおけるガンディーニは、鬼面人を驚かせるためのデザインと揶揄されることが多かったが、実はそのディテールも含めて、実用に耐えるデザイン、古びないデザインであることはBXからも証明されるだろう。BXは、インターナショナルなデザインでありながら、シトロエンらしい個性もある素晴らしいデザインだった。GSは、その発展型のGSAも含めて16年に渡り244万台が生産され、BXも12年もの長期に渡って生産されて231万台が生産されたヒット作となった。
なおBXだけでなく、ガンディーニがシトロエンのデザインに携わったのは、1度ならずあった。最初は1972年のジュネーブ・ショーで発表されたカマルグで、GSのコンポーネンツから造られたフォリ・セリエだ。次が、シトロエンが傘下に収めたマセラティのカムシンであり、足まわりにシトロエンの技術が導入されていた。そしてBXであり、そのあとガンディーニはベルトーネから独立して、自らのデザイン事務所を開き、XMのデザインを提案した。XMで採用されたのはベルトーネの提案だったが、もしもガンディーニのXM案が選択されていたら、シトロエンの歴史は変わっていただろうか。
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