世界の傑作車スケルトン図解

ド爆裂パワーを巧みに調教、誰でも乗れるジキルとハイド「ポルシェ959」【世界の傑作車スケルトン図解】#12-2

21世紀を予見したハイパー911

1983年秋のフランクフルト・モーターショーに出品された、グルッペB(グループB)と銘打ったコンセプトカーが、ポルシェ959の始まり。世界ラリー選手権への本格参戦を考えてのクルマだった。当時のラリー界では、すでにアウディ・クワトロの登場によって4WDが支配的な流れになっていたから、既成の911をいくらチューンしても勝ち目はなかった。

ルーフラインやウインドーには、911の骨格が現れている。トレッドは前1505mm、後1550mmと広く、そのためフェンダーも拡大。右リアフェンダー上にオイル補給孔のリッドが設けられる。アルミ製のボンネットとドアを除くと、ボディ外板の大半はケブラーとFRP製。

それだけに、グルッペBの内容は途方もないものだった。ポルシェの家紋でもある水平対向6気筒エンジンは、長く愛された空冷のままでは4バルブ化に対応しにくかったのでヘッドだけ水冷化。ここには936、956、962Cなどトップクラスのレーシングカーからの技術が継承された。2850ccの総排気量は、モータースポーツ界での過給換算係数1.4を掛けて4.0L以下に抑えるためで、吸気系に2基のKKK製ターボチャージャーを備え、450psという破格の高出力を叩き出した。

さすがポルシェだけあって、スーパーカーでも実用的。エアコンから電動シートまで持つコンフォート仕様は後席も完備した4人り。
軽量なロードスポーツ仕様(6台のみ)は装備も簡素な2シーター。

車体の後端に搭載されたエンジンの前側に6速MTが置かれ、そこから電子制御の多板クラッチを介して前方にもプロペラシャフトを伸ばし、4WDを構成した。前後輪への駆動力は前40%:後60%が基準だが、多板クラッチの圧着力を自動的かつ無段階に調節することにより、いろいろな路面状況に応じて変化した。サスペンションは911とは全面的に異なって前後ともダブルウイッシュボーン化され、片側2本ずつのダンパーが備えられた。これほどのメカニズムを盛り込んだだめスペアタイヤを積むスペースはなく、前235/45VR17、後255/40VR17または275/40VR17のタイヤは、ランフラット機能を持つデンロック・リムに組み付けられていた。ベースとなった911の後部を延長したボディは綿密な風洞実験により、空気抵抗を減らした(Cd=0.32)だけでなく、高速での浮き上がりもゼロに抑えられている。最高速は315km/h、ゼロ発進100km/hまで3.9秒、200km/hまでは14.3秒。

936以降ヘッドを水冷にしたのは、4バルブ化
で形が複雑になり、冷却の空気を流しにくく
なったから。後に911も、996世代から全面的に水冷化され、静かで扱いやすくなった。

しかし残念ながら、959が実戦で華々しく活躍することはなかった。規定の変更でラリーに出られなくなってしまったからだ。その結果、モータースポーツにおける主な戦績としては、パリ-ダカールでの優勝(1984、1986年)とルマン24時間でのクラス優勝(1986年)だけが輝くことになる。それよりも名声を高からしめたのは、現地価格3300万円で発売されてからのこと。発進からの低回転、低速ではまず小径のターボだけが働いて穏やかに走り、普通の乗用車のように扱いやすかった。その半面、いざ深く踏んで4000rpmを超え、大径ターボが加勢した瞬間から世界が激変するという、まさにジキル博士とハイド氏のごとき二面性を発揮し、幸せなオーナーを酔いしれさせた。1988年に生産が終了してからも人気は衰えず、もはや信仰の対象とさえなっている。

 

開発段階の953で試験的な挑戦を重ね(1984、1985年)、1986年には完成型の959がパリ−ダカールを制覇。1位、2位、7位という圧勝で、その余勢を駆って’87年から本格発売された。

解説:熊倉重春
CARSMEET web編集部

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