海外試乗

【海外試乗】「ポルシェ 718 スパイダー」復活したフラット6のビートに酔いしれる!

タイプ987で登場したボクスタースパイダーはエアコンレスを標準とし、徹底的に軽量化を図ったモデルだった。2代目となるタイプ981のボクスタースパイダーでは幌の開閉が一部電動化し、エアコンも標準装備とされた。今回、その後継モデルとなる718スパイダーが登場。早速、その内容と実力を報告しよう。

ボクスター系では初のリアマイナスリフト

見ての通り、新たに718スパイダーを名乗るニューカマーは、位置付けとしては従来のボクスタースパイダーのフェイスリフト版である。しかし開発が新たにポルシェのGTモデルラインに託されたことで、その美しくスポーティなフォルムの内側の部分は、完全に刷新されたと言っていい。
一番の注目は、やはりエンジンだろう。ミッドにマウントされるのは新開発の水平対向6気筒4L自然吸気ユニット。噂されていたGT3用とは別物の、911用3Lターボ用をベースにジャーナル径を拡大したクランクシャフト、ローラーカムフォロワーを用いた新設計のシリンダーヘッド等々の採用により、レブリミット8000rpmを実現した逸品だ。最高出力は420ps、最大トルクは420Nm。アダプティブシリンダーコントロールと呼ばれる気筒休止システムも搭載する。

718スパイダーは軽量のソフトトップを採用。手動折りたたみ式のトップは、数ステップでトランクリッドの下に収納が可能だ。

トランスミッションは6速MTのみ。パワーとトルクの増強に合わせて内部パーツは再設計されている。そんなパワートレインと同様、いやそれ以上に大きく手が入れられたのがシャシーだ。従来のボクスタースパイダーとは異なり、フロントサスペンションの多くのコンポーネンツを911GT3から流用し、リアサスペンションもサブフレームやアーム類に至るまで専用設計とした、718ケイマンGT4とまったく同内容のシャシーが奢られたのである。PASMも装備されるし、何とスプリングレートまで共通だという。確かに、車重は両車一緒なのだ。
空力も大幅なアップグレードが図られている。注目は、マフラー形状の工夫により実現したリア大型ディフューザーの搭載だ。これによりボクスター系初のリアマイナスリフトを実現したという。

シャシーはよりダイレクトにするためにボールジョイントを採用。30mm車高を低めるPASMは車両の重心を下げ、コーナリング性能を向上させている。

それにしても、ロックのみ電動であとは手動の簡易的なソフトトップやヘッドレスト後方パワーバルジのような盛り上がりなど、スパイダー特有のデザインは実に切れ味がいい。オープンにするにはロックを外したあと車外に出て、ソフトトップ左右のテンショナーフィンを巻き取り、リアリッドを開けてソフトトップを収納し、最後にリッドを閉じる。1人の時にはちょっと難儀するが、それも軽量化のための割り切りである。
キーを捻って始動させると、低速域ではエンジン音より補機類のヒュンヒュンという音が目立って、空冷時代を彷彿とさせる。エンジン音は低音域が強調されていて、ややドライな印象。回転が高まるほどに勢いが増してきて、もっともっと回したくなるのは、高回転型自然吸気ユニットならではだ。8000rpmまで回すチャンスは公道ではなかなかないが、隙を見てはシフトダウンを繰り返し、アクセルを踏み込んでしまう。
フットワークも、やはり素晴らしい出来栄えだ。剛性感に満ちたステアリングを切り込むと、ほとんどロールを許さずクルマ全体が鋭く向きを変えていく。スタビリティ、トラクションも十分。ハードなスプリングレートに心配した乗り心地も、もちろん硬派ではあるが十分許容範囲内で、ドライブを思う存分楽しめた。

4L水平対向6気筒エンジンの最高出力は先代モデルを45ps上回る420ps。420Nmの最大トルクは5000-6000rpmで発生する。0→100km/h加速タイムは4.4秒、最高速度は301km/hをマーク。新欧州サイクルでの燃費は10.9L/100km。

価格は従来より大幅に上がっているが、これだけ進化した内容を見せつけられたら納得するしかない。実は筆者も即座に購入を決意したのだが、日本仕様はRHDのみということで断念した次第である。実用車ではなく趣味の対象、しかもプレミアムカーなのだから、ポルシェジャパンにはLHDの導入も再検討をお願いしたい!

フォト=ポルシェジャパン/PORSCHE JAPAN ル・ボラン2019年10月号より転載
島下泰久

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