雲のじゅうたんの向こうに北方領土の山々が浮かぶ
この取材で筆者が知床半島を訪れたのは2014年7月上旬のこと。夜明け前にウトロの宿を出発した時は、空一面に低い雲が垂れ込め、細かい雨がアスファルトをしっとり濡らしていた。
ところが、知床横断道路を走り出してしばらくすると、雲は徐々に薄れ、路面も乾いていった。そして、知床峠の手前2〜3kmのところで雲が途切れると、頭上には突然青空が広がっていった。
雲の上に出たのだ。
羅臼岳を仰ぎ見ながら、知床峠まで登り詰めると、そこには信じられないようなシーンが待ち構えていた。東の根室海峡は雲のじゅうたんで覆いつくされ、その向こうに国後島の山々がまるで離れ小島のように浮かんでいたのだ。
ただし、陽が昇り、気温が上がると、雲の海はたちまち薄れていった。やがて峠の駐車場に観光バスが続々到着する時間帯になると、あたりはからりと晴れ上がり、「目の前に羅臼岳、海峡の向こうに北方領土の島々」という、ごく当たり前の“絶景”が広がっているだけとなってしまった。