ヤマトタケル伝説の地に雲や霧が湧き上がる
関東平野の北西には、谷川岳、草津白根山、浅間山、甲武信岳といった日本百名山の山々が、まるで行く手をさえぎるように連なっている。上信国境(群馬/長野県境)でいうと、標高1000mを切る鞍部(稜線の低い部分)は利根川水系の碓氷川源流域しかない。だからこそ碓氷峠は古くから東西交通の要衝、そして、難所となってきたのだ。
真正面に見えるのは標高959mの高岩山。碓氷峠の南には、荒船山をはじめ、こうした奇怪な姿をした岩山が数多くそびえている。
日本古代の神話に登場する日本武尊が自分の身代わりになった妃の死を嘆いて、「あづま(吾妻)はや」と嘆いたとされる伝説の地は、なぜか山の稜線から雲や霧の湧く下界を見下ろす地が多い。磐梯吾妻スカイラインの吾妻連峰や群馬県の嬬恋、神奈川県の足柄峠や琵琶湖近くの伊吹山など……。伝説の理由は定かではないが、碓氷峠もそのひとつで、雲海の発生しやすい土地なのである。
4連のアーチが美しい信越本線(旧線)の碓氷第3橋梁。通称「めがね橋」とも呼ばれ、最近は人気の観光スポットになっている。
碓氷峠と言うと、漫画『頭文字(イニシャル)D』の舞台にもなった峠道、国道18号の旧道を思い浮かべる人が多いだろうが、雲海を見るには、それより古い時代の街道、旧中山道の碓氷峠の方がお勧めだ。そこにある碓氷峠見晴台からは、上信国境の山並みばかりでなく、八ヶ岳や南アルプスまでが一望となり、ダイナミックに湧き上がり、流れゆく雲の海と出会うことができる。
めがね橋や煉瓦作りのトンネルなど、かつてアプト式の機関車が走っていた鉄道跡は散策路として整備され、麓の横川駅からめがね橋まで、約13㎞(所要時間4時間)の
トレッキングを楽しめるようになっている。
時代ごとにさまざまなルートが開かれてきた碓氷峠のなかで、最も古いとされるのは律令時代の官道・東山道である。この時代の道は江戸時代の街道に比べると、道幅が広く、直線的なのが特徴で、「古代のハイウェイ」と呼ぶ人もいる。推定される道筋は、現在の碓氷峠よりも南寄りの入山峠や和美峠のあたり。古代のハイウェイが現代の新しい国道バイパスや高速道路の近くを抜けていたというのも何やら面白い話である。
アクセスガイド
碓氷峠に最も近いのは上信越道の松井田妙義IC。関越道の練馬ICからは約115km/1時間半で、そこから峠までは約20km。長野方面からアプローチする場合は、碓氷軽井沢ICが最寄りだが、その手前の佐久ICで降り、浅間山や追分宿などを見ながら走るのもおすすめだ。旧中山道は軽井沢町側からのみ車両の通行が可能だ。
Data【Route 24 中山道・碓氷峠】
雲海遭遇率 ★★
雲海の季節 通年
◎所在地/群馬県安中市、長野県軽井沢町
◎ルート/国道18号・旧道
◎区間距離/約15km
◎最高地点/標高958m
◎冬季閉鎖/なし
【A】おぎのや本店
横川駅の待ち時間に販売された名物駅弁
「峠の釜めし」は昭和33年(1958年)以来、半世紀以上にわたり愛され続けてきた名物駅弁。碓氷峠越えを前に横川駅で機関車を増結する待ち時間に販売された。鶏肉・ごぼう・椎茸・ウズラの卵などが入った炊き込みご飯で容器は益子焼の土釜。単品1000円のほか、セットメニューも豊富に用意。
●10:00〜16:00(土日祝日は9:00〜)/安中市松井田町横川399/TEL 027-395-2311
【B】元祖しげの屋
道中安全のお守りとして配られた力餅
碓氷峠の名物として、街道を行き来する旅人の人気を集めていた力餅。その伝統の味を今に伝えるのが元祖しげの屋だ。いつでも作りたてが味わえる力餅は、あんこ、ごま、くるみ、大根おろし、きなこ、味噌の6種類で、1皿450円〜。この店も向かいの熊野神社同様、群馬/長野県境をまたいで建っている。
●9:00〜16:00/定休なし(冬季休業)/軽井沢町大字峠町2 /TEL 0267-42-2402
観光情報
安中市観光機構 TEL 027-385-6555
軽井沢観光協会 TEL 0267-41-3850
文:佐々木 節/撮影:平島 格