コラム

“MBA”の話題のコンセプトカーを振り返る、市販化が期待されるも輝いて消えたクルマたち

モーターショーのブースで華やかに飾られるのがコンセプトカー。その中には夢のようなスポーツカーから未来のハイテクを満載したモデルがある。ここでは、MBAの残念ながら市販化には至らなかったモデルを紹介しよう。

元々、コンセプトカーといえばモーターショーなどでクルマ好きに「夢」を売るための徒花的存在。その昔は自走すらできないモックアップが当たり前だっただけに、市販化されなくともなんら不思議ではない。だが、いま改めて3強の作品を振り返ると、単にコンセプトカーとひと括りにはできない一種の“温度差”がうかがえる点は興味深いところだろう。

メルセデスは未来志向

たとえばメルセデスの場合、そのコンセプトカーはクルマの未来を意識させるものが目立つ。近年では市販車のティザーに近いモデルもあるが、コンセプトIAAや前々回の東京モーターショーに登場したヴィジョン・トウキョウなどは良い意味でコンセプトカーの典型だ。そんな中にあって、多少異色だったのはヴィジョンSLAだろう。Aクラスベースのオープンという構成は、具体的にして現実的。また、メルセデスからは未発売だがF700に搭載された自己着火式ガソリンエンジンも未来ではなく近々の実用化を想定したものだったはずだ。

VISION SLA/ヴィジョンSLA

デビューは2000年のデトロイト・ショーで、SLRマクラーレンや後の2代目SLKを彷彿とさせるデザインが特長的。ボディはアルミとプラスチックのコンビ。サイズは全長3773×全幅1831×全高1251mmで1.9Lエンジンを搭載。具体的な性能データも発表されていただけに、市販化も期待されたが……。

F800 STYLE/F800スタイル

Bピラーレスでリアのドアがスライド式という点はコンセプトカーらしいが、スタイリングは後の市販メルセデスに通じるF800は2010年に公開。パワートレインは、3.5LのV6エンジンに電気モーターを組み合わせたプラグインHV。総電力量10kWhのバッテリーを搭載、30kmのEV走行が可能と発表された。

CONCEPT IAA/コンセプトIAA

名前の通り、お披露目は2015年のフランクフルト・ショー。エアロダイナミクスを追求したコンセプトカーで、Cd値は実に0.19。最大の特長は走行条件に応じてボディそのものを可変させることで、前述の空力性能を発揮する際は全長が大幅に伸びる。とりあえず、現状の日本では市販化が不可能?

F700

2007年のフランクフルトで発表されたF700は、“自己着火式”ガソリンエンジンを搭載。「ディゾット」と名付けられた1.8Lユニットは、200km/hの最高速度と約19km/Lの低燃費を両立するとされた。このエンジンこそ商品化されなかったが、油圧式アクティブサスペンションは後のSクラスに採用。

VISION MERCEDES-MAYBACH 6/ヴィジョン・メルセデス・マイバッハ6

2016年のペブルビーチ・コンクール・デレガンスで初披露されたマイバッハブランドのラグジュアリーなEVコンセプト。駆動は4輪それぞれに配された電気モーターで総出力は実に750ps。文字通りのガルウイングドアや翌年にはオープンバージョンを発表しているあたりは往年の300SLを彷彿とさせる。

BMWは現実路線

一方、BMWは2000年代に入って以降、来たるべき市販車の存在を意識させる“現実路線”が主流。ここ20年弱を見ると、コンセプトカー然としたZ9も外観には随所に後の市販車が透けて見える。また、現在まで受け継がれるBMWの革新的インターフェイス、iドライブが初披露されたのもこのモデルが最初だ。

CONCEPT CS/コンセプトCS

デビューは、2007年の上海オートショー。ボディは全長が5mを超える堂々たる体躯で、4ドアながらクーペらしく優美に伸びるフロントフードも特長的。本誌に掲載された当時は次期7シリーズの布石? ともいわれたがBMWによる最初のクーペ4ドアは2012年デビューの6シリーズ・グランクーペだった。

VISION Connected Drive/ヴィジョン・コネクテッドドライブ

「ヴィジョン」と名付けられたBMWのコンセプトカーは比較的現実的なものが多いが、2011年のジュネーブで発表されたこのモデルは“それらしい”仕立て。名前の通り、その目的は現在に至る「繋がる」機能をアピールすることにあったが、往年のZ1をイメージさせるスタイリングも特長的だ。

i VISION DYNAMICS/iヴィジョン・ダイナミックス

こちらは比較的新しいBMW iのコンセプトカーでデビューは2017年。市販車のi3にも通じるデザインからも明らかな通り、純然たるコンセプトカーではなく将来的にはi5としてデビューする見込み。ピュアEVとしてのパフォーマンスは、航続距離が600kmオーバー。最高速は200km/hという。

Z9

1999年のフランクフルト・ショーではクーペが、翌年のパリ・サロンではオープン仕様が発表。BMWにおける「ブックシェルフ・コンセプト」を提唱したデザイナー、クリス・バングルの作らしい造形は後の市販モデルに反映。現在に至る「iDrive」のインターフェイスも、このZ9で初披露された。

アウディから発表された作品は多いが……

そんな両者に対し、中間的立ち位置を感じさせるのはアウディ。実は近年で発表されたコンセプトカーのバリエーションは3強でも最多。作りも市販車として通用しそうなものばかりなのだが、現実に商品化されるケースはむしろ少ない。そうした手法には、メルセデスとBMWという巨頭に対峙するアウディらしいしたたかさがうかがえて面白い。

NANUK QUATTRO CONCEPT/ナヌーク・クワトロコンセプト

2013年のフランクフルト・ショーに登場したスポーツカーとSUVのクロスオーバー。開発にはカーデザイン界の巨匠、ジウジアーロが率いたイタルデザインも携わった。ミッドシップに搭載されるパワーユニットは544psを発揮する5LのV10ディーゼルで、最高速は300km/hオーバーと発表された。

SPORT QUATTRO CONCEPT/スポーツ・クワトロコンセプト

2010年のe-tronコンセプトやクワトロコンセプトの流れを汲むモデルで、デビューは2013年のフランクフルト・ショー。その外観は現在のA5クーペを彷彿とさせる。パワートレインは、4LV8ツインターボに電気モーターを組み合わせたプラグイン・ハイブリッドで、システムの出力は700psに達した。

TT SPORTBACK CONCEPT/TTスポーツバック・コンセプト

2014年のパリ・サロンで発表された、TTクーペのスポーツバック。実質2シーターなTTクーペの5ドア版というと強引なイメージだが、実車の佇まいはご覧の通り。4ドアクーペが当たり前の時代であることを思うと「アリなのでは?」と思わせる出来映えだ。エンジンは2Lの直噴ターボを搭載していた。

CROSS CABRIOLET QUATTRO CONCEPT/クロスカブリオレ・クワトロコンセプト

オープンモデルとSUVのクロスオーバー、というと市販車では先代レンジローバー・イヴォークが記憶に新しいが、こちらは2007年のLAショーで発表。搭載するパワーユニットは3Lディーゼルターボで、駆動はもちろん4WDのクワトロ。現実的な作り込みだったが、さすがに市販化とはいかなかった。

AVANTISSIMO/アヴァンティッシモ

スタイリッシュなワゴンとして定評ある「アバント」を擁するアウディの作らしいコンセプトカー。デザインを手がけたのは当時アウディに籍を置いていた日本人デザイナーの和田智氏で、ボディは全長が5mを超えるA8級。搭載するパワーユニットは430psと813Nmを発揮する4.2LのV8ツインターボ。

 

ル・ボラン2020年2月号より転載
小野泰治

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