1909年にプロトタイプが誕生したモーガン・スリーホイーラー。そのアイコニックなフォルムはそのままに、21世紀の技術が投入され、気軽に? 運転できるようになった現代のスリーホイーラーに試乗してみた。
唯一無二の痛快な1台
モーガンが新生スリーホイーラーをお披露目したのは2011年のジュネーブ・ショーだったから、乗れるまでにずいぶん時間が経ってしまった。欧米ではモーターサイクル扱いなのに日本では四輪車扱いとなることから、モーガンカーズ・ジャパンは相当な苦労を重ねて導入に漕ぎ着けたようだ。
ブランド黎明期を支えたサイクルカーと呼ばれた前2輪、後1輪の3輪車を復活させたこのスリーホイーラーだが、ハードウェアは当時とは別物で、新たに設計されている。2座の車体の前端に搭載されるVツインユニットは、元々はハーレーのリプレイス用であるS&S社製2Lで、最高出力69ps、最大トルク129Nmを発生する。
エンジン出力は、エンジン振動を逃がすラバー製緩衝材を介してマツダ・ロードスターから流用された5速MTへ。そこからベベルギアで方向が変えられ、最終的にはベルトで後輪を駆動する。
サスペンションも当然、新たに設計されている。ブレーキもフロントはディスクとされるが、タイヤは今もショルダーが丸く、細いモーターサイクル用である。
エンジン動作中には熱くなるマフラーをまたいでコクピットに潜り込む。広くはないが、収まってしまえばスペースは十分。3点式シートベルトもちゃんと備わる。キーを捻っていよいよエンジン始動。途端にクルマ全体が思い切りシェイクしだした。何しろ気筒当たり1LのVツインエンジンである。その振動が車体やマフラーのフランジなど様々な所を震わせて、ガタガタ、カンカンと音を立てるのだ。
しかしクラッチは重過ぎず、ギアも軽く確実に入るから、走り出すのは容易い。あえて少しだけラフにクラッチを戻すと後輪をキュッと鳴らしつつ弾けるように車体が前に出る。何しろ車重は585kg。軽快も軽快なのだ。
エンジンは2000-4000rpmあたりを保っていれば力感十分だが、振動はどの回転域でも小さくはない。フロントスクリーンは70km/hくらいから効果を発揮しなくなってくるし、そもそも旋回中は顔に風が直撃してくる。
全幅は1740mmあり、しかも運転席から左前輪が視界に入らないから、最初は街中を行くにも気を使った。車重が軽くタイヤが細いので操舵力は軽いが、アンダーステアは強めの躾けだ。それはそうだろう、3輪車なのだから。
とは言え質量が小さいだけにレスポンスは軽快。ラインを読んで手前から正確に操舵してクルマを曲げ、右足に力を込めてダイレクト感たっぷりの加速を味わっていると、街中ですら楽しい。もっとも、アイドリング振動は相当なものだから、やはり信号の少ない土地の方が楽しめることは間違いない。実際、クルマから降りた後にもしばらく脳みそが揺れているような感覚が残ったほどだ。
クルマよりモーターサイクルに近いと表現されることの多いスリーホイーラーだが、筆者は何だか軽飛行機に乗っているようだと感じた。車体前端にエンジンを積んでいて、もちろんタイヤで地面に接してはいても4輪のクルマよりは浮いているのに近いから、だろうか。いずれにせよ、アビエイターキャップにゴーグルで乗るのが雰囲気かなと思った次第である。
一度乗ったら今のクルマはどれも似てしまっていて……なんて言えなくなる痛快な1台。気になったら絶対、試しておくべきである。