アバルト

【国内試乗】限定車アバルト595ピスタは操る楽しさ満点!

特徴はカラーリングだけじゃない

まるで1970年代半ば過ぎくらいのフィアット・アバルトのワークスマシンがまとっていた、「オリオ・フィアット」カラーを思わせるブルーとイエローのコンビネーション。かつての124アバルト・ラリーや131アバルト・ラリーの勇姿が浮かんで来て自然と気分が盛り上がる……のは、古いヲタクだからか?

フロントリップや電動ドアミラー、リアのインサートはイエロー仕上げ。リアディフューザー左右デュアル出しの「レコードモンツァ」エキゾーストエンドも特別装備だ。

いや、古い時代を知らなくても、気分がちょっとは浮き立つに違いない。通常では設定のないBlu Podio(ブル・ポディオ)というボディカラーに、リップスポイラー、ドアミラー、フロント・ブレーキキャリパー、ホイールのセンター、そしてリアデフューザーにピシッとイエローをあしらったその彩りは、まさしくイタリアンならではの手口。“やり過ぎ”感がないのに鮮やかな、その絶妙なセンスに撃たれる人も少なくないだろう。

そこが5月16日に発売となったばかりのアバルト595シリーズのスペシャルエディション“ピスタ”の最も大きな特徴だ……と思っていた。それに加えて、なんと通常の595シリーズにはないボディとエンジン、トランスミッションの組み合わせが選べることも。 合計240台限定の内訳は、クローズドトップの595ピスタには5速MTが95台、5速MTA(ATモード付き5速2ペダルMT)が51台、そして電動オープントップを持つ595Cピスタには5速MTが61台と5速MTAが33台。電動オープントップの“595C”と5速MT、さらには165ps仕様のエンジンと5速MTの組み合わせはかなり貴重なのだ。

ファインチューン版1.4L直4ターボは、最高出力165psと最大トルク230(ブーストアップ時)Nmを発揮。

そう、595ピスタに積まれる1.4L+ターボの直列4気筒エンジンは、シリーズのいわば中間グレード的存在にあたる595ツーリズモ/595Cツーリズモとスペックが共通していて、パワーは165ps/5500rpm、トルクは210Nm/2000rpm(スポーツモードでは230Nm/2250rpm)、そして使われているタービンがギャレット製のGT1446という同じ型番のもの。さらに仕様をチェックしていくと、4輪すべてにハイパフォーマンス仕様のコイルが、フロントは自社製FSDバルブ付きダンパーでリアにはコニ製のFSDダンパーが備わるなど、サスペンションやブレーキ周りの仕様も595ツーリズモと共通している。そんなところから、ツーリズモにスペシャルカラーを奢っただけのモデルなのかな、と思っていたのだ。

いや、もちろんそれならそれでちっとも構わない。595ツーリズモはその名の通り、乗り心地重視のツーリング仕様と思われてるところがあって、確かにそういう側面もしっかり満たしている。でも、単にそれだけのモデルというわけじゃない。実際にはアバルトのクルマ作りの考え方が最も純粋に反映されている、スタンダード仕様の“595”が持つ速さや楽しさ、日常使いにおける扱いやすさ、快適さといった諸々のバランスの巧みさを、ほぼそのまま全体的にワンランク引き上げたようなモデル。595=小型爆弾の楽しさをいかなるときでも堪能できるパフォーマンスとロングを走っても疲れの少ない乗り心地のよさの両方が高いレベルで融合している実力派で、個人的には最も好きな595だったりもする。だから、595ピスタが595ツーリズモと一緒でも微塵も問題はないのだ。ところが実際に触れてみたら、あれ? なところがあって、僕は驚かされたのだった。

まずはキーを捻った瞬間だ。595ピスタにはスポーツマフラーの“レコードモンツァ”が標準装着されている。当然、あの1.4Lとは思えない野太いサウンドとともに目覚めるだろうと思っていた。が、記憶にあるそれよりも、明らかに静かなのだ。まるでエキゾーストがスタンダード版なのかと思ったくらい。ところがアイドリングの状態で“スポーツ”ボタンをプッシュしてモードを変えてみると、瞬時に「グロロロロ……」という“らしい”サウンドが響いてきた。

気になって調べてみたら、本国仕様のレコードモンツァには“アクティブ”と呼ばれる新タイプがあって、それは従来までの排圧でバルブが開くタイプとは違い、走行モードボタンで制御が変わるものらしい。詳しいアナウンスはないのだけれど、どうやら595ピスタにはその新しいレコードモンツァが採用されてると見た。

絶妙さがわかるオトナに乗って欲しい

走り出してみると、街中でのフィールは595ツーリズモと同じく、好ましいものだった。スタンダードの595よりは僅かに引き締まってるけれど、しなやかな部類といえる突き上げの少ないシャシーの感触。低回転域から中回転域までの力強さと扱いやすさもいっしょだ。

けれど右足を深く踏み込んでみたら、あれ? だ。従来の165ps仕様のエンジンは、過剰に尖らせたような印象はないものの、実は低回転域から中回転域までのシャープさはシリーズ随一。そこから先も嫌な頭打ち感なく伸びていくのだけど、その伸び具合が595ツーリズモのそれよりもちょっとばかりよくなってると感じたのだ。もちろん高回転重視な595コンペティツィオーネほどではないのだけど、その部分の気持ちよさがやや膨らみを帯びてるように思える。おそらくレコードモンツァの仕様の違いが関係していて、ピークはいっしょながらそこに至るまでの特性が僅かに変化してるのだろう。

ブラックを基調にステアリングやメーターフード、シフトまわりがレザーで仕立てられたインテリア。

加速感やスピードの伸び方、速さにもまったく不満はない。だからワインディングロードだってめちゃめちゃ楽しい。シャシーはフロントよりもリアがやや固めにセットされている、595ツーリズモとよく似たセッティング。フロントに荷重を載せてステアリングを切り込んでいくと、リアをしっかりと踏ん張らせながらフロントをグイッとコーナーのイン側に食い込ませて、おもしろいように向きを変える。けれどアクセルを踏み込むタイミングや深さをしくじると、ちょっとアンダーステア気味の動きを見せる。クルマの向きを変えやすいともいえるけど、よくも悪くもドライバーの操作がそのまま動きになって表れる、ともいえる。そのちょうどいいところを探りながら操縦していくときの楽しさは格別のもの。速さの面でいうなら、ちょうどいいゾーンにバシッと入ってるときは、180ps仕様の595コンペティツィオーネにも引けを取らないんじゃないか? とすら感じられるほどだ。

それに、これはあくまでも個人的な好みだけど、今回の595Cピスタは電動オープントップと5速MTの組み合わせという、僕にとっては理想に近い仕様。加えて、ここまで楽しい走りっぷりだ。ものすごく心が揺らぐ。限定車じゃなくて、カタログモデルにこの設定があったらいいのに……。

車名の「ピスタ」は、イタリア語でサーキットの意味。とはいえサーキットやジムカーナでタイムを削ろうとしたら、トップグレードの595コンペティツィオーネを上回るのはなかなか難しいだろう。ただしそれらのコースで操縦することそのものを満喫したり、上手くなるためのトレーニングをしたりするのにはものすごく向いてるし、ワインディングロードであってもサーキットを走ってるかのようなフィールや面白さを味わるようなところもある。むしろクルマの持つ実力をしっかり引き出しやすいという点、楽しさを追求しやすい点においては、ピスタはコンペティツィオーネの上をいってるかも知れない。アバルト595シリーズは、スタンダードな595からハイパフォーマンスなコンペティツィオーネまで、それぞれ微妙に走りの個性が異なってるのだけど、この595ピスタ/595Cピスタにもちゃんと独自の味わいを与えているあたり、アバルトのチューナーとしての巧さがヒシヒシと感じられる。

595ピスタはもともと、スポーツドライビングを楽しみたい若いドライバーのために企画された。だからこそコンペティツィオーネやツーリズモよりリーズナブルな価格設定(328~378万円)だと聞いたことがあるけど、こんな楽しいクルマ、若者に独占させちゃうなんてもったいない。この絶妙さがわかるオトナにこそ乗って欲しいな、とすら思う。

もう一度申し上げておくけれど、595ピスタは限定車。台数に限りがある。気持ちがムズムズしている人は……急げ!

SPECIFICATION

【SPECIFICATION】アバルト595Cピスタ(MT)
■全長×全幅×全高=3660×1625×1505mm
■ホイールベース=2300mm
■エンジン型式/種類=312B3/直4DOHC16V+ターボ
■内径/行径=72.0×84.0mm
■総排気量=1368cc
■最高出力=165ps(121kw)/5500rpm
■最大トルク=210Nm(21.4kg-m)/2000rpm
■燃料タンク容量=35L(プレミアム)
■トランスミッション形式=5速MT
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後トーションビーム/コイル
■ブレーキ=前Vディスク、後ディスク
■タイヤ(ホイール)=前205/40R17(7J)、後205/40R17(7J)
■車両本体価格(税込)=3,610,000円

【問い合わせ先】
FCAジャパン https://www.abarth.jp/ 

フォト:小林俊樹 T.Kobayashi
嶋田智之

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