現代に至る4ドアクーペに先鞭をつけたのはメルセデス・ベンツであり、ことコンパクトカテゴリーにおいてはCLAの独壇場という状況だった。ここに名乗りを上げたのは、やはり宿命のライバルであるBMW。1シリーズを機にFFへと舵を切った直後に2シリーズグランクーペを投入してきた。さあ、いま選ぶべきはどちらだ!?
M235iグランクーペの自然なハンドリングに納得
ついにFF化してしまったBMWの1シリーズの印象(118iプレイ)は、個人的にあまり喜ばしいものではなかった。それまでの1シリーズの魅力は、FFが大勢を占めるコンパクトカーの中にあってFRの操縦性が楽しめるところにあった。そういったマーケットの肉声は当然のことながらBMWも承知しており、FFになっても期待に応えるようなクルマ=FRのような操縦性を持つFF車作りに注力したと思われる。
そのためのいろんな方法のうち、BMWが選んだのは“BMWパフォーマンスコントロール”と“ARB”と呼ばれるふたつ電子デバイスの投与だった。前者は、旋回中に前後輪のイン側にブレーキをかけてヨーコントロールするもの。ARBはパワーアンダーステアを回避するために、通常のトラクションコントロールとは別の専用のバイパス回路を設けることで反応速度を上げ、エンジン出力を抑える機構である。簡単に言えば、ターンインの時はBMWパフォーマンスコントロールが、クリッピングポイントを越えてからの再加速時にはARBが作動して挙動を安定させるというロジックである。
1シリーズを運転していて最後まで慣れなかったのは、BMWパフォーマンスコントロールの介入の仕方だった。よく言えばステアリング対するクルマ側の反応がすこぶる早く、切り始めからグイグイと頭がイン側へ入っていく。おそらくこれがFRのような操縦性の表現なのだろうけれど、少し唐突というか敏感過ぎて違和感を覚えてしまった。通常はターンインの手前の制動でまずピッチ方向のばね上の動きがあって、それからロールが始まりヨーが発生して旋回するというステップを踏むが、1シリーズの場合は極端に言うとピッチとロールとヨーがほぼ同時に発生するような感じがした。物理的にこういう挙動は自然発生しないので、デバイスの制御による人工的な匂いがしたのも、1シリーズをすんなり受け入れられなかった理由のひとつである。
2シリーズのグランクーペはプラットフォームをはじめ1シリーズと共有する部分が多いので、試乗前にちょっと疑心暗鬼になった。ところが実際にはこちらのほうがずっと自然でスポーティなハンドリングだった。理由は主にふたつ考えられる。日本仕様の2シリーズグランクーペには大きくわけて“218i”と“M235i”があり、今回は後者がテスト車だった。M235iは駆動形式が4WDで、さらにフロントには機械式のLSDも組み込まれている。前後と前輪左右の駆動力を可変するふたつのロジックがBMWパフォーマンスコントロールに上乗せされ、旋回がより自然になったように感じた。おそらく、1シリーズよりもBMWパフォーマンスコントロールの介入が少ないことも、ターンインからの挙動がスムーズな要因のひとつだろう。これなら躊躇なくステアリングが切れるし、旋回速度も想像以上に速い。旋回後の再加速時には後輪への駆動力が増すなど、トラクションのかかり方も理想的だった。