
ボルボの販売台数は日本国内のみならず世界的にも好調だが、その立役者とも言えるのがミドルレンジの60シリーズ。ドイツ勢のメルセデス・ベンツCクラス、 BMW3シリーズなど、強力なライバルに引けを取らない実力やオリジナリティは周知の通りだ。そんな人気シリーズの中から、いま本当にオススメできるモデルを考察した。
新しいボルボが凝縮し最適解と言えるV60
現行型XC90以降のモデルで、ボルボのデザイナーは世間一般がイメージするボルボらしさを、決して過去に引っ張られることなく、かといって疎かにすることなく、その絶妙なバランスをもってモダンに表現することに成功した。端的に言って“最適解”を見つけたのだ。ブランドの主軸であり伝統的といっていいクラス&カテゴリー=ミドルレンジエステートのV60にそれが最も鮮やかに現れたことには、その登場時、感動すら覚えたものだった。
それほどV60のワゴンスタイルは美しい。スクエアな雰囲気を醸し出しつつ、サイドのラインやフェンダーの膨らみで十分に柔らかさも演出した。ダイナミックなのに落ち着いて見えるとでも言おうか。最新世代のボルボラインナップに共通する美点だろう。

VOLVO V60 T5 INSCRIPTION/ラゲッジスペース容量はクラストップレベルの529Lを確保。後席の格納は荷室開口部付近にあるスイッチで操作可能だ。その脇にはDC12Vアウトレットも用意される。
走りにも十分見どころがある。ドイツ勢をそれほど意識しなかった点がよかった。微速域における操作感はドイツ車にはないもので“たおやか”と表現するにふさわしい。それでいて、常用域から高速域にかけては、最新モデルらしく手応えのしっかりとした、ドライバーに忠実な動きに徹する。このあたりの塩梅も上手だ。T5で十分にその良さを満喫できるが、どうしてもハイブリッドというならT6でもいい。
独自のデザイン性とダイナミクス性能が魅力のXC60
パーソナルチョイスの主流がSUVスタイルになったとみるや、ブランド躍進の糧をそこに集中して求めたボルボの大胆な戦略には驚かされたものだった。各セグメントの世代初出しモデルをSUVにしたのだ。60系ではこのXC60シリーズが最初だった。2017年のことである。
独プレミアム勢によってあらかた地ならしを終えたセグメントだったとはいえ、独自のデザイン性とダイナミクス性能で切り込んだ点はV60と同じ。XC60のコンセプトがその後の60系シリーズ全てにおいて貫かれた。
XC90に比べてスポーティさを強調するスタイルは、けれどもボルボらしいと思わせるに十分で、特にフェンダーのラインやエンドピラーまわりのデザインでブランドの最新を表現した。

VOLVO XC60 T8 TWIN ENGINE AWD INSCRIPTION/プラグインハイブリッド仕様のT8の荷室容量は468〜1395L。T8以外のグレードは505〜1432Lと大きい。XC60は現行の60シリーズの中では最もラインナップが充実している。
セダンのような乗り味をむやみに追求するのではなく、そこはSUVらしくタッパのあるタイヤを生かした柔らかな走り出しとし、けれども実用速度域に達してからはSUVでありながらドライバーの操作に自然な反応をみせるという非凡なダイナミクス性能を有している。
ガソリン、ハイブリッドの他ディーゼルのラインナップもあって選択は悩ましい。ベストチョイスはD4モメンタムだろうか。
新世代ボルボの美点をいいとこ取りした一台
ここまであまり触れてこなかったけれど、最新世代ボルボにおける最大のセールスポイント=成功の秘訣は、エクステリアよりむしろインテリアのデザインにあるのではないかと思っている。
シートに収まって見渡す景色の洗練された感じは、ドイツ勢はおろかその他全てのブランドと比べても飛び抜けていると思う。ショールームで家族の歓心を得るために最も効果的なポイントでもあるだろう。
あとはエクステリアの好みで決めればいい。ユーティリティ重視であれば今やノーマルなSUVでもよし、今こそエステートでもいいだろう。いや、もうちょっとスペシャリティ度が欲しいというのであればこのV60クロスカントリーを選んで欲しい。

VOLVO V60 CROSS COUNTRY T5 AWD/最低地上高はV60の145mmに対し、V60クロスカントリーは210mmまで高められている。アプローチアングル、ランプアングルともに十分な余裕がありヒルディセント機能も備わる。
SUVスタイルのステーションワゴンというジャンルは決して目新しいものではない。最低地上高(この場合210mm)を稼ぎながら乗り味をセダン流にまとめ、多くの場合で乗り心地が良くなるという恩恵がある。
V60クロスカントリーがまさにそうで、ガソリンエンジンのT5しか選べないという無視できないマイナスポイントこそあるものの、総合的に見れば買得感さえ覚える。筆者が60系シリーズのイチオシとして選ぶ所以である。
エントリーのT4が最もS60の真価を味わえる
近年稀に見る“格好いいセダン”である。3ボックス好きなら分かっていただけるはずだ。美点の数々を挙げることは容易いし、その数は下手をすればVやXCより多いかも知れない。なかでもS60のスタイルを際立たせているのは、ホイールアーチとキャビンの位置関係だと思う。真横から見ればすぐに分かるはずだ。FFのミドルレンジサルーンにありがちな不安定さが微塵もない。FRのようだ、というのは言い過ぎだとしても、それに近い。
ボルボ初のアメリカ製。セダンはSUVと並んで保守的なアメリカ市場の好物だからだ。それゆえディーゼル仕様がないというちょっとしたデメリットもある。

VOLVO S60 T5 INSCRIPTION/近年は少なくなった奇をてらわない3ボックスのS60。FF系プラットフォームに見られる車体とタイヤ位置のバランス悪さもクリアし、美しいプロポーションに仕上がっている。
それにしても、この格好いいサルーンをよくぞ導入してくれたものだ。規模的にワゴンとSUVだけで十分、ビジネスは成立する。日本ではさほど売れないと分かっていてわざわざ入れた。セダンを諦めないと言いつつ子供騙しの箱型をぬけぬけ投入する国内メーカーもあるというのに……。
T6やT8といったツインエンジンに注目が集まるが、T5、いや、いっそT4あたりのほうがより分かりやすくS60の真価を楽しむことができると思う。ちょっと昔の欧州サルーン的な乗り味もあって長距離も心地よかった。
COLUMN/いま、ボルボが売れている3つの理由。
日本国内では、交通事情からXC40をはじめとする40シリーズの人気も高いが、世界的にはXC60がもっとも売れているボルボ車だ。そのボルボ人気を考察すると、3つの理由が見えてきた。
●かつてのイメージを180度変えた躍動感ある洗練されたデザイン。
1980年代後半〜1990年代初頭、日本で「空飛ぶレンガ」の愛称で呼ばれたボルボは、ボクシーな240シリーズが人気を博した。1999年からフォード傘下に入り、グループのプラットフォームやエンジンの共用という“制限”の中で、ボルボらしさを見失うこともあったが、2010年に中国の吉利汽車に親会社が変わったことで、完全自社によるエンジンや新デザインの模索を開始。そして2016年に登場した新世代ボルボ第一弾、2代目XC90から現在の快進撃が始まった。
●スウェーデンらしさやボルボらしさが巧みに具現化されている。
「スカンジナビアデザイン」という言葉は、自動車に限らず家具や雑貨でも馴染み深い。その聞き覚えのある言葉を前面に押し出して具現化したことが、新世代ボルボを成功に導いた所以のひとつだろう。デザイン部門上級副社長のロビン・ペイジ氏は「我々が心がけているのは、ブランドのためのデザインをするということ。お客様が世界中のどこにいてもどこに住んでいても、スウェーデンやボルボを体感できることが重要です」と語る。これはインテリアに限らず、トールハンマーをはじめとするエクステリアにも共通することで、アイデンティティを映し出すことが大きなテーマとなっている。「揃えるボディカラーはどれもスウェーデンの景観との調和を考えています。また、スウェーデンの冬は日照時間が短く家で過ごす時間が長いので、クルマの中にいても家の中と同じような居心地の良さを感じられるインテリアも大切です」とも語る様に、スウェーデンやボルボの具現化が世界中でウケたと言えるだろう。
●ジャーマンプレミアムより手が届きやすい価格帯。
昨今のボルボはジャーマンプレミアムに引けをとらないブランド力を持ちながら、価格がリーズナブルであることも大きな魅力。ダイナミクス性能を比べれば、ドイツ勢に一日の長を感じる場面も多いが、3点式シートベルト、SIPS(側面衝撃吸収システム)などを先駆けて装備し、現在も速度設定を行えるケア・キーの導入など、安全面ではリーダー的役割を担っている。ライバルより安くても安全性やホスピタリティは納得のレベルなのだ。
【Specification】VOLVO V60 T5 INSCRIPTION
■全長×全幅×全高=4760×1850×1435mm
■ホイールベース=2870mm
■車両重量=1700kg
■エンジン種類/ 排気量=直4DOHC16V+ターボ/1968cc
■最高出力=254ps(187kW)/5500rpm
■最大トルク=350Nm(35.7kg-m)/1500-4800rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=:Wウイッシュボーン:インテグラル
■ブレーキ(F:R)=ディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=235/45R18:235/45R18
■車両本体価格(税込)=6,140,000円
【Line Up】
V60 T5 MOMENTUM 5,140,000円
V60 T5 INSCRIPTION 6,140,000円
V60 T6 TWIN ENGINE AWD MOMENTUM 6,740,000円
V60 T6 TWIN ENGINE AWD INSCRIPTION 7,790,000円
V60 T8 TWIN ENGINE AWD INSCRIPTION 8,490,000円
【Specification】VOLVO XC60 T8 TWIN ENGINE AWD INSCRIPTION
■全長×全幅×全高=4690×1900×1660mm
■ホイールベース=2865mm
■車両重量=2180kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ+SC+モーター/1968cc
■最高出力=190ps(140kW)/4250rpm
■最大トルク=400Nm(42.8kg-m)/1750-2500rpm
■モーター形式/種類=[前]T39[後]AD2/交流同期電動機
■モーター最高出力=[前]46ps[後]87ps
■モーター最大トルク=[前]160Nm[後]240Nm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=ディスク:ディスク
■タイヤサイズ=255/45R20:255/45R20
■車両本体価格(税込)=9,440,000円
【Line Up】
XC60 B5 AWD MOMENTUM 6,340,000円
XC60 D4 AWD MOMENTUM 6,590,000円
XC60 D4 AWD R-DESIGN 7,140,000円
XC60 B5 AWD INSCRIPTION 7,340,000円
XC60 D4 AWD INSCRIPTION 7,590,000円
XC60 T8 TWIN ENGINE AWD INSCRIPTION 9,440,000円
【Specification】VOLVO V60 CROSS COUNTRY T5 AWD
■全長×全幅×全高=4785×1895×1505mm
■ホイールベース=2875mm
■車両重量=2085kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1968cc
■最高出力=254ps(187kW)/5500rpm
■最大トルク=350Nm(35.7kg-m)/1500-4800rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=:Wウイッシュボーン:インテグラル
■ブレーキ(F:R)=ディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=215/55R18:215/55R18
■車両本体価格(税込)=5,640,000円
【Line Up】
V60 CROSS COUNTRY T5 AWD 5,640,000円
V60 CROSS COUNTRY T5 AWD PRO 6,640,000円
【Specification】VOLVO S60 T5 INSCRIPTION
■全長×全幅×全高=4760×1850×1435mm
■ホイールベース=2870 mm
■車両重量=1660kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1968cc
■最高出力=254ps(187kW)/5500rpm
■最大トルク=350Nm(35.7kg-m)/1500-4800rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=:Wウイッシュボーン:インテグラル
■ブレーキ(F:R)=ディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=235/45R18:235/45R18
■車両本体価格(税込)=6,140,000円
【Line Up】
S60 T4 MOMENTUM 4,890,000円
S60 T5 INSCRIPTION 6,140,000円
S60 T6 TWIN ENGINE AWD INSCRIPTION 7,790,000円
S60 T8 POLESTAR ENGINEERED 9,190,000円
Personal Choice/V60クロスカントリー
ボルボの最新エステートって薄長くて格好いいんです。その車高をちょっと上げることでスタイルの良さがいっそう際立つ。それに乗り味もシリーズの中で一番優しくてボルボらしいと思います。その昔の740(FR)みたいで。