
ラングラーが秘めた走破性を必要な場面は、日本ではまず遭遇しない。しかし、FCAジャパンが主催した試乗会は、急斜面あり、ジャンプ台あり、そして伸び放題の雑草が生茂る長野県白馬村のスキー場。大豪雨に見舞われる中、グレードやボディサイズが異なるラングラーを走らせ、究極の走破性を試した!
現代的な4駆のマナーを身に付けたラングラー
ドイツ車を中心に据えた自動車地図のようなものがあるとすれば、ジープはその端っこに小さく記されているだけだろう。だがここ10年で日本市場における販売台数が7倍以上になっているのだから、ただごとではない。

JEEP WRANGLER RUBICON/「ジープ」「ラングラー」「ルビコン」「ショートボディ」と、走破性の高い条件を揃えた最強オフローダー。今回の試乗ステージもエンタメ化してしまう余裕の走りっぷりだった。
1941年に軍用車として誕生したジープは、現在は5車種で構成されたクロスオーバーSUVの総合ブランドとなっている。中でもブランドのアイコンとなっているモデルがラングラーである。原初のウィリス・ジープと同じく独立した前後のフェンダーを特徴とした伝統的なスタイリングを継承するラングラーは、必要とあらばドアやルーフを外して軽量化し、フロントウインドーを前に倒して重心を下げ、難局を乗り切ることもいとわない。日本市場では4ドアのラングラー・アンリミテッドが、究極のファミリーユースSUVとして大いに支持されている。

JEEP WRANGLER UNLIMITED SAHARA/ルビコンの2台と変わらない走破性を披露してくれた2L直4ターボを搭載するサハラ。モーグルを乗り越える時などにターボの悪癖が顔をのぞかせる場面もみられた。
1987年の初代から数えて4代目となる現行型は2年前にフルモデルチェンジを経たばかり。外観は先代と区別がつかないほど似ているが、機構的には着実に進化している。4代目を手短に表現するならば「クロカン4駆の性能をそのままに、オンロードの快適性を高めた」ということになる。

JEEP WRANGLER UNLIMITED RUBICON/「前後輪ディファレンシャルロック」「電子制御式フロントスウェイバーディスコネクトシステム」などルビコン専用機構を備え、全セクションを難なくクリアした。
改良の肝となったのは最新の4WDシステムである。これまでのラングラーの4WDはパートタイム(前後直結)のみの設定で、標準ファイナルの2H(2WD)と4H、そして低速ファイナルの4Lという走行モードが選べた。4代目ではそこにフルタイム4WDの4H AUTOモードが追加された。前後の駆動配分が変化することで現代的な4駆のマナーを身に着けたのである。
その差はオンロードにおけるドライブフィールの端々に顕著に現れており、現行ラングラーは普通の人が快適に扱える4駆としての性能が高まっている。だが今回の試乗ステージは夏のスキー場ということで完全にオフロード。しかもラングラー専用に用意されたコースの下り坂にはモーグルのジャンプ台が3つ連続している。
3台が用意されていたラングラーの中で最初に試乗したのは中間グレードのラングラー・アンリミテッド・サハラだった。サハラには3.6L・V6と2Lターボが用意されているが、今回は後者。このイタリアンな4発ターボはちょっとしたターボラグを感じさせつつ、4000rpmあたりからグングン伸びる少し古典的なユニットだ。オンロードなら快活な走りを見せてくれる。
ところがダートの上りではトルクが不足気味で、しかし回転を上げるとターボが効いてしまい、なかなか「一定のペースでジワリ」というオフロード的な走りが難しかった。林道レベルなら全く問題ないが、前後にデフロックの装備もないので、高低差のある本格オフロードを楽しむなら、やはり最上位のルビコンが必要になる。
やはりルビコンが王様! その価格も実に魅力的
ジープのテストフィールドとしても有名な巨岩が連なるルビコン・トレイル。その名を冠した最上位グレードのルビコンは、4ドアのアンリミテッドと限定車の2ドアの2種類が用意されていた。新型ラングラーが登場した当初からカタログには2ドアのラングラー・スポーツが載っていた。だが人気がないのを見越して受注生産だったので、日本の路上で見かける機会は皆無に等しく、今回の試乗会でも希望が殺到。最初は4ドアからドライブすることにした。
ジープの王様はルビコン専用のロックトラックフルタイム4×4システムのスイッチをいじるまでもなく、大雨で濡れた粘土岩のラフロードをズシズシと上っていく。途中でせっかくだからと4Lモードに入れたらあまりに遅くてイライラさせられた。ルビコンの副変速機のレシオは他のラングラーより低いので、ちょっとしたオフロードでは完全にオーバースペックなのだ。

JEEP WRANGLER RUBICON&UNLIMITED RUBICONは3.6L・V6自然吸気/2つのエンジンパワーを比較すると、V6自然吸気の方が14ps最高出力が高く、直4ターボの方が53Nm最大トルクが上回る。オフロードではV6自然吸気の方がアクセルコントロール性は良好だったが、燃費性能はJC08燃費で9.0km/L、11.5km/Lと、後者の直4ターボの方が優秀。
一方、下り坂はせっかくなので4Lモードのみで選べる前後デフロックとスウェイバーの解除を試した。ぬかるんだ急斜面の、所々深く掘られたワダチという程度の路面では、前後のデフロックはやはりオーバースペック。けれどスウェイバーの解除は車体の姿勢がフラットになることですぐにそれとわかる有効な装備だった。
モーグルのジャンプ台でジャンプするわけではないのだが、台からの急角度の下りでモニターに映し出される角度は32度だった。それでもタイヤが少しも滑り出す感じがないところにラングラーの懐の深さが感じられた。

JEEP WRANGLER RUBICON&UNLIMITED RUBICON/ルビコンには「ロックトラックフルタイム4×4システム」の操作スイッチと、スウェイバーの切り離しを行える「電子制御式フロントスウェイバーディスコネクト」ボタンがセンターコンソールにある。
盤石の走りを見せたアンリミテッドだが、初物の2ドアはそのさらに上を行く別物だった。動きが軽快で、大してステアリングを切らなくても素直に回頭してくれる。
ちなみに4ドアと比べると車重は130kgほど軽く、ホイールベースは550mmも短縮されている。2460mmというホイールベースは、短いと言われるBMW Z4よりさらに10mm短いのである。

JEEP WRANGLER RUBICON(2ドア)/2ドアモデルの後席へは、平均的な身長の男性でもよじ登るようなアクセスを求められる。ラングラーの荷室容量は通常時で192L、後席を倒した状態で587L。(※FCAイタリア公表数値)
とはいえオフロードで感じるのは全体の取り回しの良さである。
何しろ軽快なので、車幅も狭くなったように感じられ、少しコースを外れて冒険したい気持ちが湧いてくる。リアシートへのアクセスは普通の車高のクーペ以上に面倒なのでファミリーユースにはお勧めできないが、オフロードのスポーツクーペとして考えれば2ドアのルビコン以上はないだろう。
特にオプションを追加することなく、ほぼフル装備の最上級ルビコンで共にお値段600万円前後。最後のシメがTVショッピングっぽくなってしまったが、これもドイツ車目線からすると驚愕の数字であり、日本におけるジープ人気を支えている要因なのだと思う。
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