エンジンに代わるパワートレインとして、いまもっとも注目なのがいうまでもなく電気モーターで、国内外問わず、次々とBEVが誕生している。あえて街中の移動に特化したシティコミューターもあるが、ここではいずれも航続距離が400km以上のロングスパンを誇る最新の3台を集めて、それぞれのキャラクターの違いを徹底検証してみた。
超大容量バッテリーを積む最新のBEVが勢ぞろい
アウディe-tronスポーツバックの上陸によって、俗にテスラキラーと呼ばれる欧州プレミアムBEVの選択肢が3車種になった。モデルSから遅れること約8年だが、超大容量バッテリーを搭載して航続距離は400kmオーバーとそれなりに実用的、かつパフォーマンスも高いから食指が動く人も出始めていることだろう。
もっとも早いタイミングで日本上陸したのは意外やジャガー。それも専用プラットフォームでデザインもBEVならではとスペシャル感が強い。そこから数カ月遅れでメルセデス・ベンツEQCがやってきた。こちらはGLCベースとなっており、ディテール以外はオーソドックスなクロスオーバーSUVといった佇まいだ。本国でのリリースは早かったものの日本上陸が遅れていたe-tronはようやくスポーツバックが導入された。
これもプラットフォームは既存のものでEQCと生い立ちは似ている。もちろんBEV専用プラットフォームを採用したほうが、バッテリー搭載におけるスペース効率が優れるためにパッケージなどは有利になるが、EQCやe-tronスポーツバックのようにそれなりのサイズのSUVならばそれほど不利にはならない。ボディサイズとしてはIペイスとEQCがDセグメントでe-tronスポーツバックはひとつ上のEセグメントとなる。
IペイスはBEV専用プラットフォームならではのデザインの自由度をいかしたショートノーズが新鮮。ジャガーといえば高性能エンジン搭載のFRを象徴するロングノーズ・ショートキャビンのイメージがあり、それとは真逆だが、ミッドシップ・レーシングカーの背高バージョンのようで美しい。ジャガーはスポーツカー・ブランドの矜持として速さを持ち合わせることも命題。0→100km/h加速は4.4秒と今回の3台のなかで頭ひとつ抜けたかっこうだ。テスラの2~3秒台ほどではないが、それを叩き出すモードは、テスラ自身が「ルーディクラス=ばかげたという意味」と名付けているくらいで、ジョークのようなもの。2トンオーバーのモデルが5秒を切るのは非現実的と言えるくらいに速い。
実際に停止状態からアクセルを床まで踏みつければ、ドンッと蹴り出され首がヘッドレストに強く押さえつけられるくらいのダッシュをみせる。フル加速で面白いのはアクティブサウンドデザインで、これをダイナミックにしていればジャガーの名エンジンのようなサウンドが室内に響き渡る。速度が上がるごとに高音が折り重なっていき、ドライバーの心情とも合う。ギミックだからと馬鹿にする人もいるかもしれないが、マツダのBEVエンジニアによると、人間は後天的にトルク(力)の向きや大きさなどを音からも感じ取っていて、自然なドライビング感覚には必要。だからMX-30のBEVでは大真面目に人間研究して開発したサウンドが採用されている。Iペイスは早いタイミングでBEVに取り組んだが、先見の明があったのだ。
BEVは減速エネルギーの回生の強さを自在にセッティングできるのが特徴であり、各メーカーおよび各モデルでそれをどう活用するかが分かれていて興味深いが、Iペイスはセンターのディスプレイによる設定で2段階の強さが選べるようになっている。弱いほうだと一般的なエンジンブレーキ相当で自然な感覚、強いほうはアクセルペダルを全閉にするとグーッと減速する。BMW i3や日産リーフなどの1ペダルドライブほどではないが、ブレーキペダルを操作する頻度は減り、長い下り区間などでは楽だ。また、同じようにクリープありとなしが設定できるようにもなっている。
圧巻なのはハンドリングだ。ステアリングを切り込めば間髪入れずにノーズが反応してグイグイと曲がり始める。たいていのBEVは低重心でヨー慣性モーメントが低いというメリットがあるが、それを存分に生かし、ジャガー・ブランドらしさを表現しているのだ。その分、少しだけ乗り心地が硬めだが、そのソリッドでドライバーとクルマが直結している感覚はこの上なく気持ちがいい。